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歪んだ愛  作者: S.S
第六章 男性の恐怖と疑惑

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第40話:飼育の檻

相原美咲が会社に出掛けている間、部屋の中は、世界の終わりを思わせるような完全な静寂に包まれていた。

高橋大輔は、ベッドの上で仰向けになったまま、動かない天井をじっと見つめていた。右手首の手錠は、彼がどれほど力を込めて引っ張っても、皮膚を赤く腫れ上がらせるだけで、一ミリの緩みも見せなかった。

時計がないため、今が何時なのかも分からない。ただ、遮光カーテンの隙間から漏れる微かな光の色の変化だけで、朝から昼へ、そして夕方へと時間が流れていることだけが辛うじて理解できた。

(僕は……これからどうなるんだろ。一生、このベッドの上で、あの女の玩具として生かされるのか……?)

高橋は、自分の細くなった腕を見つめた。

監禁生活が始まってから、彼の筋肉は目に見えて落ちていた。美咲は毎朝と毎夜、完璧な食事を運んできてくれる。しかし、彼女が食事の後に必ず飲ませる「お薬」のせいで、日中の高橋は激しい倦怠感と眠気に襲われ、思考をまともにまとめることさえ難しくなっていた。

彼女が飲ませているのは、ただの心療内科の薬ではない。おそらく、高橋の抵抗する気力を根本から奪い去るための、強い筋弛緩剤か鎮静剤の類だろう。

カチャリ。

午後六時三十分。寸分の狂いもない正確さで、玄関のドアの鍵が解かれる音が響いた。高橋はビクッと身体を震わせ、無意識のうちに右手の手錠の鎖を握りしめた。

「ただいま、大輔さん。今日もいい子にしていましたか?」

美咲が、仕事帰りのスーツ姿のまま、大きな買い物袋を抱えて寝室へと入ってきた。彼女はベッドの横に荷物を置くと、すぐに高橋の顔に手を触れ、体温を確かめるように額を撫でた。

「うん、熱はないですね。お利口にしていてくれて嬉しいです。今日はね、大輔さんのために、新しいお洋服を買ってきたんですよ」

美咲は買い物袋から、仕立ての良い、真っ白なシルクのパジャマを取り出した。

「ほら、綺麗でしょう? 今着ているお洋服は汚れちゃいましたから、着替えましょうね。私が手伝ってあげますから」

美咲は手際よく高橋の服のボタンを外し、新しいパジャマへと着替えさせていった。右手首の手錠を外す瞬間、高橋は一瞬だけ「今度こそ暴れてやる」という衝動が脳裏をよぎったが、美咲は衣服を着せ替えるその一瞬の間も、高橋の右腕を強固な力で押さえつけ、もう片方の手で素早く予備の簡易手錠をベッドの柵へと繋ぎ変えていた。その一連の動作には、一切の迷いも隙もなく、高橋の浅はかな抵抗を最初から完全に見透かしているようだった。

「はい、とってもお似合いです。大輔さんは、やっぱり白が一番映えますね」

美咲は満足そうに高橋の胸元を整えると、彼の頬に自分の唇をそっと押し当てた。冷たい感触。高橋は嫌悪感に身体を強張らせたが、それを口に出す度胸はもう残っていなかった。

着替えが終わると、美咲はキッチンへと向かい、夕食の準備を始めた。

トントン、と小気味よい包丁の音が響く。その音を聴きながら、高橋は自分の真っ白なパジャマを見つめた。それは、自分が「社会で戦う男」としての衣服を完全に奪われ、美咲の好む通りの「無垢な人形」へと仕立て上げられたことを意味していた。

やがて、美咲が温かいお肉のソテーと、丁寧に剥かれた果物のトレイを持って戻ってきた。

彼女は昨日と同じように、高橋の横に座り、一口ずつ優しく、そして断ることを許さない圧力で食事を口へと運んでいく。

「ねえ、大輔さん。私ね、今日の会社で、渡辺さんが課長にすごく怒られているのを見たんです。大輔さんの穴を埋められなくて、大大ミスをしちゃったんですって。クスクス……滑稽ですよね。大輔さんを陥れて追い出したバチが当たったんですよ」

美咲は本当に楽しそうに社内のニュースを語った。しかし、高橋にとっては、もう会社のことなど遠い異世界の出来事でしかなかった。渡辺がどうなろうと、課長がどうなろうと、自分にはもう関係がない。自分の世界は、この二メートル四方のベッドの上と、相原美咲という一人の少女の存在だけですべてが完結しているのだから。

「大輔さんには、もうあんな汚い世界のことは忘れてほしいな。これからは、このお部屋で、私と二人きりで、ずっとずっと、幸せに暮らすんですからね」

食事を終えた美咲は、いつものように白い錠剤を高橋の唇に押し当てた。

高橋はもう、それを舌の裏に隠そうとはしなかった。彼は諦めたように口を開き、薬を水とともに喉の奥へと飲み込んだ。

数分後、脳の奥からどす黒い睡魔が急速に這い上がってくるのを感じながら、高橋はゆっくりと目を閉じた。


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