表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
歪んだ愛  作者: S.S
第六章 男性の恐怖と疑惑

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

30/73

第30話:奈落のシェルター

「美咲ちゃん! 助けてくれ、お願いだ、今すぐ僕の家に来てくれ!!」

スマートフォンのスピーカーから漏れる高橋大輔の声は、完全に理性を失い、泣き叫ぶ子供のようだった。相原美咲は、ベッドの上でその声を聴きながら、声のトーンをこれ以上ないほど緊迫したものに変えて応答した。

「大輔さん!? どうされたんですか、そんなに慌てて……。起きて何かあったんですか?」

「香織だ……香織が、僕の部屋に来たんだ! 部屋の中に彼女の香水の匂いが染み付いているし、パソコンに彼女からの手紙が貼ってあったんだ! 鍵は全部閉まっているのに! 怖い、怖いんだ、美咲ちゃん! もうこの部屋に一秒もいられない!!」

「分かりました、大輔さん! 今すぐ向かいますから、ドアの鍵をしっかりと閉めて、中で待っていてくださいね!」

美咲は通話を切ると、ベッドから飛び起きた。彼女の顔には、計画が寸分の狂いもなく最終段階へと向かっていることへの、圧倒的な歓喜の笑みが浮かんでいた。

(とうとう、この部屋ケージを捨てる時がきたのね。大輔さん、おめでとう。これからは、私の本当の檻で、二人きりで暮らすのよ)

美咲はあらかじめ用意していた大きなボストンバッグを肩にかけ、代沢のマンションへと急行した。

302号室のドアを開けると、そこは地獄のような光景だった。

高橋はリビングの隅にうずくまり、カッターナイフを手に持って、誰もいない空間を狂ったように睨みつけていた。部屋中には、美咲が仕込んだ香織の香水の匂いが充満している。

「大輔さん!」

美咲が駆け寄ると、高橋はカッターナイフを床に落とし、美咲の足元に縋り付いて激しく泣きじゃくった。

「美咲ちゃん……もう駄目だ、僕は狂ってしまった。香織が僕を殺しに来る。この部屋は呪われているんだ。どこを向いても、誰かの視線と、香織の影が僕を追いかけてくるんだ……」

美咲は床に膝をつき、高橋の泥にまみれたような身体を、優しく、しかし二度と離さないという強い力で抱きしめた。

「大輔さん、もう大丈夫です。よく頑張りましたね。このお部屋は、もう危険です。吉川さんがどうやって入ったのかは分かりませんが、大輔さんの精神がこれ以上ボロボロになるのを見ていられません」

美咲は高橋の顔を両手で挟み込み、自分の目をまっすぐに見つめさせた。

「大輔さん、私の家に来てください」

その言葉に、高橋は弾かれたように目を見開いた。

「え……? 美咲ちゃんの、家に……?」

「はい。私のマンションなら、吉川さんも絶対に場所を知りませんし、オートロックも最新式です。会社の人にも内緒にすれば、誰にも大輔さんを見つけることはできません。あんな恐ろしい会社も、この不気味なお部屋も、全部捨てて、私のところで一緒に暮らしましょう。私が、大輔さんのことを一生、お守りしますから」

美咲の瞳は、底知れない深淵のように黒く、そして奇妙なほど甘く澄んでいた。

正気を失い、自らの家さえも恐怖の密室へと変えられた高橋にとって、美咲のその提案は、地獄の底に垂らされた唯一の黄金の蜘蛛の糸に見えた。彼は何度も激しく首を縦に振り、美咲の胸に顔を埋めた。

「いく……いくよ、美咲ちゃん。僕を、連れて行ってくれ。あの女の手の届かない、誰もいない場所に、僕を隠してくれ……」

「ええ、大輔さん。喜んで。行きましょう、私たちの本当の家へ」

美咲は高橋を優しく立たせ、必要最低限の荷物だけをボストンバッグに詰め込ませた。

部屋を出る間際、美咲はリビングのエアコン、そして寝室のサイドテーブルの奥を冷酷に見つめた。そこにある隠しカメラは、高橋大輔が自らの意志でこの部屋を捨て、美咲の手に引かれて「自発的な監禁」へと向かう歴史的な瞬間を、冷たく記録し続けていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ