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歪んだ愛  作者: S.S
第四章 職場の人間関係の排除

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24/73

第24話:断絶のチェックメイト

社内での高橋の孤立は、ついに彼の「仕事」そのものを完全に破壊する段階へと達していた。

「高橋くん。来週のC社との共同プロジェクトなんだけどさ。担当を渡辺くんに変更することにしたから」

金曜日の午前中、営業課長が高橋のデスクにやってきて、冷淡な声でそう告げた。高橋は弾かれたように顔を上げた。

「えっ……課長、どうしてですか!? あのプロジェクトは、僕が半年前から準備を重ねて、先方とも信頼関係を築いてきたものです。なぜ、急に……」

「君の最近の業務効率の低下、それから……部内での人間関係のトラブルについて、看過できない報告が上がってきているんだ。クライアントに迷惑をかけるわけにはいかない。しばらくは、デスクワークを中心に、体調の回復に専念しなさい」

課長はそれ以上高橋の言い訳を聞こうとせず、背を向けて去っていった。

高橋の視線が、プロジェクトを引き継ぐことになった渡辺へと向けられた。渡辺は申し訳なさそうな顔をしながらも、高橋と目を合わせようとはしなかった。

(渡辺さん……やっぱり、あなたが僕を陥れたんだな。僕のポジションを奪うために、課長に変な噂を吹き込んだんだ……)

高橋の心の中で、美咲が植え付けた疑心暗鬼の毒が、完全に彼を支配していた。

実際には、課長に「高橋の業務怠慢と女子社員へのセクハラ疑惑」の匿名の告発状を送ったのは、他でもない美咲だった。美咲は、高橋が仕事という「社会との最大の接点」を失う瞬間を、特等席からじっと見届けていた。

午後六時。定時のチャイムが鳴ると同時に、高橋は逃げるようにカバンを掴み、オフィスを飛び出した。もう、この場所に一秒でも留まることは、彼の精神にとって拷問でしかなかった。

下北沢の駅へ向かう夜道、高橋のスマートフォンが震えた。画面には『相原美咲』の名前。

『大輔さん、お疲れ様です。今日の課長のこと、私、本当に悔しくて……。大輔さんは何も悪くないのに。今夜、お部屋で待っています。大輔さんの大好きなシチューを作って、温めておきますね』

高橋はそのメッセージを見た瞬間、夜道の真ん中で涙が溢れそうになった。

会社の誰もが自分を疑い、自分を排除しようとしている中で、この少女だけは、自分のすべてを信じ、味方でいてくれる。彼女のいる部屋だけが、自分が息をすることを許される唯一の避難所だった。

「あぁ……美咲ちゃん……」

高橋は初めて、彼女のことを「相原さん」ではなく「美咲ちゃん」と呼ぶメッセージを打ち込んだ。

『ありがとう、美咲ちゃん。今すぐ帰るよ。君に、会いたい』

世田谷区代沢のマンション『メゾン・ド・ラフィール302号室』。

高橋が鍵を開けて中に入ると、部屋の中は温かいシチューの香りと、美咲の優しい笑顔で満たされていた。高橋は靴を脱ぐなり、玄関で美咲の身体を強く抱きしめた。

「美咲ちゃん……もう、会社に行きたくない。誰も僕を信じてくれないんだ。僕には、君だけでいい。君さえいれば、他には何もいらないんだ……」

美咲は高橋の広い背中に両手を回し、彼の髪を愛おしそうに撫でながら、マスクの下で狂おしいほどの歓喜の笑みを浮かべていた。

「ええ、大輔さん。それでいいんですよ。会社なんて、もう行かなくていいんです。誰も大輔さんを傷つけられない場所に、私が連れていってあげますからね」

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