雨の匂いと鉄骨のオアシス
灰色の空から冷たい風が吹いてくる。
窓を閉めた私とは対照的にヴィーヴィーは窓を全開にした。私は身震いをし顔をしかめる。
「いい匂いだー!もう直ぐ雨が降るね」
ヴィーヴィーは上機嫌だ。私も犬のように嗅覚が鋭かったら風一つで楽しめるのだろうか。犬であり人であるヴィーヴィーを少し羨ましく思った。
ふと、ヴィーヴィーが目を細めた。岩石と砂ばかりの大地の向こうに点々と影が見える。いくつか建造物があるようだ。
「昔はなかった建物だな」
ヴィーヴィーは少し困ったように頭を掻いた。
「もしかしたら街もいくつか増えているか…無くなっている想定はしていたが…。地図が狂うな」
遠くの街の影を目で追う。この旅はヴィーヴィーの頭の中の地図頼りだ。地図とはいっても、大昔に一度この辺りの地域に来たというヴィーヴィーの感覚だけだ。私はハナからあてにしていなっかた。
どこへ行こうと帰れなかろうと私には関係なかった。
「そろそろ燃料を探さないとな」
私の焦りのない横顔から何か読み取ったのか、ヴィーヴィーが言う。目的地はないが、だからこそ移動手段は必要だった。ヴィーヴィーの指差す方へ車を走らせる。コンクリートでできた巨大な建物が見えた。
「旅人たちのオアシスだ。ここらは昔観光地だったからな。旅人向けの大型施設が栄えた。一階は充電所。多分ガソリンもまだあるだろう。二階は食堂、三階より上は宿泊施設だ。屋上には遊園施設がある。子供連れが多かったんだろうな」
ガソリンスタンドに車を停める。人は他に誰もいなかったが、建物自体はそう古くはないように見えた。
人の手が入らなくなって長くて一年くらいだろうか。ずらっと並ぶ充電器は「使用可能」の文字を点滅させ来ない客を呼んでいる。『オアシス』の面積はかなりのもので、端から端まで徒歩で二十分はかかりそうだ。ここを埋め尽くす人がいたと思うとそれだけで酔いそうだ。
「雲行きがあやしいな。今日はここに泊まるか」
重そうに車から降りたヴィーヴィーが言う。犬なのに歩くのが苦手なヴィーヴィーに合わせゆっくり歩いた。




