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噛んだ鉛筆と森になる街

灰色の岩石地帯を一台の車が走る。


二人乗りの軽自動車だ。ライトグリーンの塗装が草木の無い地面に映える。今では珍しいガソリンで走る車だ。車内には一人の人間と、一匹の犬。


運転手である私は唯一の同乗者である犬を横目で見た。根元から折れた大きい耳、柔らかそうな茶色い巻き毛。助手席に堂々と胡座をかき、腕を頭の後ろで組んでいる。シートベルトが少し窮屈そうに見えた。最後に計った体重は十二キロだったが、少し太ったのかもしれない。車体が揺れるたび、肥大した腹も揺れる。


「もうすぐつくなぁ。少しも変わっちゃいない。辺鄙なところだが、昔からそうなんだ。若いお前さんは、知らないだろうけど」


犬が話す。そう、この犬は話すのだ。遺伝子改良された人に近い犬なのだ。名前をヴィーヴィーという。


「辺鄙な…返品…?いやベッピン…便秘…」


私に向けていたにやけ顔が急に真剣な面持ちになったかと思うと、尻の下からメモ帳とペンを取り出し、何か書き留め始めた。趣味のギャグ作りに励み出したらしい。ヴィーヴィーは「鉛筆」という古風な筆記用具を使う。私の親指ほどの長さになった鉛筆には、ヴィーヴィーの噛み跡がいくつもついている。


車は快調に進んでいる。車輪が巻き上げた土埃が視界を黄色に染める。岩を踏んで車体が大きく揺れた。ヴィーヴィーが顔を上げる。


眼前に大きな緑があった。古びた街と、みずみずしい森との融合だ。もう何年手入れされていないのか、文明を感じさせる建造物は萎縮しひび割れていた。


木に支えられてやっと立っている、老人のようなビルの群れだ。外れの小さなビルのそばにゆっくり車を止める。街が眼前に大きく見える位置だ。ヴィーヴィーと共にただ街を眺め、呼吸をした。


ふと、ヴィーヴィーが息をついた。


「ここももう旧街だな。とっくに人は住んでいない。お前が生まれるずっと、ずっと前に活動を終えたんだ。誰かの作為だったのか、自然消滅なのか…知らないし、誰も気にする人間なんかいないんだ。お前以外はな。他人への恐怖と無関心は違う。世の中の、今のやつらはみんな無関心だが…お前さんは古い人間なんだな、恐怖心の塊だった。俺と出会ってからあの家を飛び出すまではな。今のお前は…この街には似合わない。朽ち果てるだけの街とは…」


ヴィーヴィーはまた息をついた。街から目をそらすと、無言でメモ帳を広げ、小さく言った。


「次は北東30キロ先だ。進もう」


私はエンジンをかけると、ゆっくりと車を走らせた。

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