パーティーの結成
パーティーを組んだところで、アレンはふと思い出した。
「そういえば、杖があるな」
先ほど最初の町で作った杖だ。
鉱山で集めた鉱石から作り、強化も済ませている。
町で売られている杖とは比べものにならない性能だった。
「これ、使う?」
アレンはマリンに杖を差し出した。
「えっ?」
「杖」
「いやいやいや!」
マリンは慌てて首を横に振った。
「こんなに高価な杖、持てません!」
「そう?」
「そうですよ! 私には買えません!」
「じゃあ、あげる」
「もっとダメです!」
マリンが必死に拒否する。
どうやら、この世界ではかなり高価な装備らしい。
アレンは杖を見た。
「……この程度で高価なのか」
ゲームでは、もっと強力な装備がいくらでも存在した。
自分が作った杖も、序盤の鉱石を使ったものに過ぎない。
それでも町で売っている武器とは明らかに性能が違う。
この世界の装備事情は、かなり悪いらしい。
「ほら」
アレンはマリンの手に杖を押しつけた。
「でも……」
「使わないなら俺が持ってても意味ないし」
「それはそうですけど……」
「じゃあ決まり」
「……ありがとうございます」
マリンは困ったような顔をしながら杖を受け取った。
これで少しは戦いやすくなるだろう。
とはいえ、アレンはマリンを一気にレベル上げするつもりはなかった。
自分が敵を一瞬で倒し続ければ、マリンはほとんど何もせずにレベルだけが上がってしまう。
それでは、この世界で戦うための経験にはならない。
「基本は自分で戦ってもらうか」
アレンはそう決めた。
必要なときだけ手を出す。
それくらいでいい。
実際に狩りを始めると、アレンはすぐに気づいた。
「……なるほど」
マリンの戦い方を見ているだけで分かる。
MMORPGの基本を、ほとんど理解していない。
もちろん、ゲームをやったことがないのだから当然なのだが。
マリンは敵の攻撃を避けようとする。
攻撃されれば距離を取る。
自分がダメージを受けないように慎重に戦っている。
アレンからすると、かなり効率が悪い。
「ゲームなら、こんな戦い方はしないんだけどな」
MMORPGで雑魚敵を相手にするなら、基本は単純だ。
敵が攻撃してくる前に倒す。
一撃で倒せるなら、それが一番いい。
反撃を受けること自体が無駄なのだ。
だからプレイヤーは攻撃力を優先する。
防御力を上げて何発も耐えるより、攻撃力を上げて一撃で倒す。
いわゆる紙装甲でも、敵から攻撃を受けなければ問題ない。
「でも、現実じゃそうはいかないか」
ゲームなら、敵の攻撃力も行動パターンも分かっている。
死んでもデスペナルティーで済む。
だから攻撃に全振りするという極端な育成もできる。
しかし、この世界では死ねば終わりだ。
マリンが慎重になるのも当然だった。
「むしろ、こっちが普通なんだよな」
アレンはマリンの戦いを眺めながら思う。
ゲームの常識に染まっている自分の方がおかしいのかもしれない。
それでも、効率の悪い戦い方を見ていると、どうしても口を出したくなる。
「そこはもっと早く攻撃して……いや、まだいいか」
アレンは思い直した。
全部教えてしまえば、自分がパワーレベリングしているのと変わらない。
マリンが自分で経験していけばいい。
それに、急いでレベルを上げる必要もない。
帰還するつもりはないのだから。
そう考えると、妙に気が楽になった。
「転職まで付き合うなら、結構長くなりそうだな」
マリンが転職するには、レベルを上げるだけでは足りない。
必要なボスドロップも集めなければならない。
ゲーム時代の経験から考えても、すぐに終わるものではない。
長ければ、かなりの時間がかかるだろう。
アレンはマリンを見る。
まだ戦いに慣れていない。
それでも一生懸命にメイスを振っている。
「まあ……それも悪くないか」
レベル305の大賢者。
ゲームの攻略だけを考えるなら、一人で進んだ方が圧倒的に早い。
だが、ここはもうゲームの中ではない。
急ぐ必要もない。
アレンはマリンの隣に並び、ゆっくりと歩き始めた。




