最初の町
最初の町に到着すると、アレンは町の中を歩きながら昔のことを思い出していた。
「最初の頃は、ここでパーティーを組んでレベル上げをしたな」
このゲームには、プレイヤー同士が交流するための仕組みがいくつも用意されていた。
ギルド機能やパーティークエストなどがその代表だ。
運営としても、プレイヤーが一人で黙々と遊ぶだけではなく、他のプレイヤーと接点を持つように作っていたのだろう。
パーティーは最大六人。
そして、このゲームにはパーティーを組む大きなメリットがあった。
パーティーの人数に応じて、獲得できる経験値が増えるのだ。
六人で組めば、ソロで戦うより経験値は二倍になる。
「今思うと、かなり効率よかったな」
もちろん、敵の取り合いになったり、狩場が混雑したりすることもあった。
それでも、当時はそれが楽しかった。
知らないプレイヤーとパーティーを組み、狩場へ向かう。
敵を倒しながらレベルを上げ、戦闘の合間には雑談をする。
特に目的があるわけでもないのに、一時間くらいなら平気で狩り続けていた。
「よくそんなにやってたな」
今思えば、何がそんなに楽しかったのか分からない。
ただ、ゲームの中で知り合った人たちと適当に話しながら敵を倒している時間が楽しかった。
レベルが上がれば嬉しい。
珍しいアイテムが出れば嬉しい。
誰かが強い装備を手に入れれば、それを見せてもらうだけでも楽しかった。
「……まあ、今は一人だけどな」
アレンは苦笑する。
他のプレイヤーがいるのかどうかは、まだ分からない。
そもそも自分がゲームの世界に来た理由すら分かっていない。
だが、それを考えるのは後でいい。
今は、この世界を楽しみたい。
そう思いながら町を歩いていると、別の記憶が蘇ってきた。
「そういえば、鉱山もあったな」
このゲームでは、鉱山で鉱石を採掘することができる。
集めた鉱石を使えば、武器や防具を作れる。
さらに、作った装備を強化することもできた。
「せっかくだし、やってみるか」
アレンは鉱山へ向かうことにした。
最強装備を作る。
ゲームをやっていた頃にも何度も挑戦した。
装備の作成自体は、それほど難しくない。
必要な鉱石や素材を決められた数だけ集めればいい。
問題は強化だった。
「強化は大変だったんだよな」
装備の強化レベルが上がるほど、必要になる素材の数が増えていく。
しかも、成功率はどんどん下がっていく。
強化に失敗すれば素材を無駄にする。
何度も失敗すれば、また鉱山へ戻って素材を集めなければならない。
「満足いくところまで育てるのに三日くらい普通に使ってたな」
当時は、それが苦痛ではなかった。
むしろ楽しかった。
必要な素材を計算し、鉱山に籠もる。
ひたすらドリルで地面を掘る。
素材が集まったら町に戻って装備を作る。
そして強化する。
成功すれば喜び、失敗すればまた掘りに行く。
そんなことを何度も繰り返していた。
アレンは鉱山に到着すると、さっそくドリルを取り出した。
「この感覚、懐かしいな」
ドリルを地面に突き立てる。
ガリガリと音を立てながら地面が削れていく。
鉱石が見つかれば拾い、また別の場所を掘る。
ゲームをしていた頃と同じ作業だ。
しかし、しばらく掘っていたところで、アレンは妙なことに気づいた。
「……あれ?」
ドリルを止める。
何かがおかしい。
先ほどから、身体に違和感がない。
腹が減っていない。
喉も渇いていない。
眠くもない。
「そういえば……」
ゲームをしていた頃なら、長時間プレイしていれば当然腹が減った。
眠くもなる。
途中で食事をしたり、トイレに行ったりする必要もあった。
しかし、今はどうだ。
アレンは自分の身体を確認する。
特に異常はない。
腹は減っていない。
トイレにも行きたくならない。
眠気もまったくない。
「……もしかして」
アレンは少し考えた。
ここがゲームの世界なら、身体の仕組みまでゲームと同じなのかもしれない。
少なくとも今のところ、生理現象が一切起きていない。
「最高じゃん」
思わず笑みがこぼれる。
食事のために狩りを中断する必要もない。
眠くなって休憩する必要もない。
トイレに行くために町へ戻る必要もない。
何時間でもゲームを続けられる。
「これなら……」
アレンはドリルを握り直した。
「本当に、好きなだけ遊べるな」
そう呟くと、再び鉱山の地面を掘り始めた。
現実世界では、三日もゲームを続けることなんてできなかった。
だが、ここでは違う。
疲れない。
眠くならない。
腹も減らない。
ならば、満足するまでやればいい。
アレンは久しぶりの感覚を楽しみながら、黙々と鉱石を掘り続けた。




