初心者ミッション
まずはチュートリアルをクリアするか、初心者ミッションを三つクリアする必要がある。
それが、この島から出るための条件だった。
「懐かしいな……」
アレンは表示された初心者ミッションを眺める。
一つ目のミッションは、水の石を手に入れること。
水の石は、この島で最初に出現する敵がドロップするアイテムだ。
アレンはミッションを受けると、その敵が出現する場所へ向かった。
しばらく歩くと、見覚えのあるモンスターが現れる。
「こいつか」
最初に戦うことになる敵だ。
このモンスターは非アクティブ。
こちらから攻撃しない限り、向こうから襲ってくることはない。
初心者がいきなり敵に襲われて何もできずに倒されることがないように設定されている。
「初心者には優しい仕様だったな」
昔は何とも思わなかった。
しかし、今改めて見ると、このゲームは序盤の作りがかなり親切だったことに気づく。
もっとも、今のアレンには関係ない。
レベル305の大賢者が、初心者向けモンスターに苦戦するはずもない。
杖を軽く振る。
一撃。
モンスターはあっさり消滅した。
「水の石……っと」
ドロップしたアイテムを拾う。
そのままミッションを報告する。
クリア。
「次」
二つ目の初心者ミッションは、風の石板を手に入れることだった。
アレンはミッション内容を見て、少しだけ笑った。
「これも懐かしい」
このゲームでは、普通のモンスター狩りだけではなく、ドリルを使って地面を掘り、アイテムを探すことができる。
風の石板も、その方法で手に入れるアイテムだ。
アレンはドリルを取り出した。
「最初は、やみくもに掘ってたな」
ゲームを始めたばかりの頃を思い出す。
どこを掘ればいいのか分からない。
とりあえず地面を掘る。
何も出ない。
少し移動してまた掘る。
それでも出ない。
当時はそれを繰り返していた。
「そういえば、掘るのが有利なセカンドキャラも作ったっけ」
このゲームでは、キャラクターごとに取得するスキルをある程度自由に選べる。
アレンは採掘に向いたスキル構成のキャラクターを作り、ひたすら地面を掘らせていた。
最初の頃は、そのキャラクターを育てながらアイテムを集めるつもりだった。
だが、しばらく続けているうちに気づいた。
「この辺、アイテムが出やすいな」
マップを掘り続けたことで、どの場所でアイテムが見つかりやすいのか分かってしまったのだ。
それなら、わざわざセカンドキャラを育てる必要がない。
ファーストキャラで必要な場所を掘ればいい。
「それで育てるのやめたんだったな」
そんなことまで思い出しながら、アレンはドリルを地面に突き立てた。
迷いはない。
掘る。
目的の場所を知っているのだから、何度も試す必要もない。
数回掘ったところで、アイテムが出現した。
「風の石板、発見」
昔は苦労したアイテムも、今では一瞬だった。
ミッションを報告してクリアする。
「あと一つか」
三つ目は氷の石。
氷の石はペンギン型モンスターのドロップアイテムだ。
こいつも基本的には非アクティブなので、こちらから攻撃しなければ襲ってこない。
ただし、一つだけ初心者にとって厄介な特徴がある。
「反撃してくるんだよな」
攻撃されれば反撃する。
そのため、レベル5以下くらいのキャラクターが何も考えずに挑むと、普通に危険な相手だった。
初心者向けの敵だからと油断していると、意外と痛い目を見る。
もちろん、今のアレンには関係ない。
「じゃ、行くか」
ペンギンを見つける。
攻撃する。
反撃される前に倒す。
氷の石を拾う。
「終わり」
あまりにもあっさりしていた。
初心者ミッションを三つクリア。
これで島から出る条件を満たした。
「チュートリアル、終了っと」
このゲームでは、敵を倒すことやクエストをクリアすることで経験値を獲得できる。
チュートリアルでも当然経験値は入る。
だが、レベル305のアレンにとっては誤差にもならない。
「まあ、島を出るために必要だからやっただけだな」
正直、経験値目的ならやる意味はない。
ただ、昔はそうでもなかった。
セカンドキャラを育成するときには、この仕様をかなり利用した。
ファーストキャラでクエストに必要なアイテムを集めておき、セカンドキャラでクエストを報告する。
それだけで、レベル100くらいまではかなり簡単に上げられる。
「懐かしいな」
そんなことを考えながら、アレンは初心者ミッションをクリアしたことで開放された洞窟へ向かった。
洞窟の中にもモンスターはいる。
しかし、今のアレンには障害にならない。
道を覚えているので迷うこともなく、モンスターを適当に倒しながら進んでいく。
そして洞窟を抜ける。
視界が一気に開けた。
目の前に広がっていたのは、このゲームで最初に訪れる町だった。
「……ここも変わってないな」
石造りの建物。
大きな噴水。
プレイヤーが集まる広場。
NPCが歩き回り、店からはアイテムを売買する声が聞こえてくる。
ゲームをプレイしていた頃には、何度も訪れた場所だ。
だが、今は違う。
画面越しに見ていた場所を、自分の足で歩いている。
「本当にゲームの中に来たんだな」
アレンは町を眺めながら、少しだけ笑った。
さて。
ここから何をするか。
ゲームを熟知しているアレンには、いくらでも選択肢がある。
普通なら、この町で装備を整え、次のクエストを受けるところだ。
しかし、アレンには必要ない。
レベル305。
職業は大賢者。
装備も最後にログアウトしたときのまま。
初心者がこれから何十時間もかけて進む道を、すでに何度も通っている。
「さて、久しぶりのゲームだ」
アレンは町へと歩き出した。
これから先は、ゲームを攻略するためではない。
今度は、この世界そのものを楽しむために。




