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ゲームをやり込んだ俺、異世界で師匠になる  作者: まゆな


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1/10

MMORPGの世界

田中三郎は混乱していた。


 自分の部屋で眠りについたはずなのに、目を覚ますと砂浜にいたのだ。


「……ん?」


 頬に当たる砂の感触。


 耳に届く波の音。


 潮の匂い。


 三郎は上半身を起こし、周囲を見回した。


 目の前には青い海が広がっている。


 振り返れば、白い砂浜と、その先に広がる森。


 どう考えても自分の部屋ではない。


「……夢?」


 そう呟きながら、自分の頬をつねってみる。


「痛い」


 夢ではなさそうだ。


 立ち上がり、身体についた砂を払う。


 そこで、三郎は妙なことに気づいた。


「……服?」


 自分が身につけているものを確認する。


 見覚えのある鎧。


 腰に吊るされた杖。


 腕に装備された腕輪。


 どれも現実世界では見たことのないものだ。


 だが、三郎には見覚えがあった。


「これ……」


 自分の手を何度も見る。


 そして装備を確認していく。


「まさか……」


 三郎は急いで周囲を見回した。


 海。


 砂浜。


 森。


 遠くに見える特徴的な岩。


 記憶を辿る。


 何度も見た景色だった。


「ここ……スタート地点じゃないか?」


 三郎がかつて夢中になって遊んでいたMMORPG。


 そのゲームでは、プレイヤーは最初にこの島へ転送される。


 チュートリアルを終えるまで、この島から出ることはできない。


 初心者向けのモンスターが出現し、簡単なクエストをこなしながらゲームの基本を覚えていく場所。


 何百時間、何千時間とプレイした三郎にとって、見慣れた場所だった。


「いや、でも……」


 ゲームの中に入るなんてあり得ない。


 そんなことを考えながら、三郎は自分の身体を確認する。


 腕を動かす。


 足を動かす。


 身体に違和感はない。


 むしろ妙なほど軽い。


 試しにその場で軽く跳んでみる。


「……高っ」


 思った以上に身体が跳ね上がった。


 着地した三郎は、しばらく黙り込む。


 そして、一つの可能性に気づいた。


「ステータス……」


 ゲームではお馴染みの言葉だった。


 三郎がそう呟くと、目の前に半透明の画面が現れた。


「……出た」


 そこに表示されていたのは、見慣れた情報だった。


 名前:アレン

 年齢:18歳

 職業:大賢者

 レベル:305

 所持金:10ギガ


「……」


 三郎は画面を見つめたまま固まった。


 名前は違う。


 だが、それ以外の情報には見覚えがある。


 アレン。


 それは三郎がゲーム内で使っていたキャラクターの名前だった。


「俺のキャラクター……」


 最後にログインしたときも、この状態だった。


 レベル305。


 職業は大賢者。


 装備も同じ。


 そして所持金も10ギガ。


 ゲーム内で長時間かけて貯めた金だった。


「……本当にゲームの中なのか?」


 疑いながらも、三郎は次々と確認していく。


 アイテムボックスを開こうとする。


「ストレージ」


 目の前に別の画面が表示された。


 だが、その中身を見て三郎は眉をひそめた。


「空っぽ?」


 何も入っていない。


 ゲーム時代なら大量のアイテムを保管していたはずだ。


 回復薬。


 素材。


 装備品。


 イベントアイテム。


 使う予定もないのに集めていたアイテムまで大量に入っていた。


 それが全部消えている。


「……装備だけ残ってるのか?」


 三郎は自分の装備を見る。


 最後にログアウトしたときに身につけていた装備。


 それだけは残っている。


 ストレージの中身が空になっていることを考えると、何かしらの条件で持ち込まれたのかもしれない。


「まあ、いいか」


 普通なら、もっと焦るところなのだろう。


 帰る方法を探すとか。


 ここが本当にゲーム世界なのか確認するとか。


 そもそも、なぜこんなことになったのか考えるとか。


 だが三郎は、ふと笑った。


「久々にやるゲームだ」


 最後にプレイしてから、かなりの時間が経っている。


 サービス終了したわけではない。


 ただ、仕事が忙しくなってからログインすることが減り、いつの間にか遊ばなくなっていた。


 それでもゲームのことは覚えている。


 何千時間も遊んだのだ。


 攻略情報も、マップも、モンスターの配置も、かなり頭に残っている。


 そして今、自分はその世界にいる。


「楽しむぞ」


 三郎はそう呟いた。


 せっかくゲームの世界に来たのだ。


 ならば、現実世界ではできなかったことをやってみればいい。


 ゲームでは効率を重視していた。


 レベル上げも、金策も、装備集めも、すべて効率のいい方法を選んでいた。


 だが今は違う。


 時間制限もない。


 ランキングもない。


 他のプレイヤーもいない。


 ゲームの中に入ったのなら、ゲームを楽しめばいい。


「まずは……」


 三郎は海の向こうを見る。


 この島を出る方法も覚えている。


 最初の街へ行けばいい。


 その途中には初心者向けのモンスターが出現する。


「久しぶりに、あいつらでも見に行くか」


 三郎は杖を手に取った。


 そして砂浜を歩き始める。


 かつて何度も訪れた場所。


 何度も見た景色。


 何度も倒したモンスター。


 それでも今は、すべてが新鮮だった。


 ゲーム画面の向こう側だった世界を、自分の足で歩いている。


 三郎は思わず笑みを浮かべた。


「さて……どんな感じになってるんだろうな」


 こうして、元廃人プレイヤーによる二度目のゲーム生活が始まった。

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