骸。
日和の遺骨は、私が無理を言って受け取った。
日和の両親はとっくに亡くなっていて、もともと関係の薄かった遠い親戚の人間が彼女の世話をしていたため、私自身のことを告げると、快く譲ってくれた。
日和と家に帰る。
彼女の死を、私は悲しいと思わなかった。
ただ、日和が私の本を読めないことだけが少し残念だった。
『想い』が彼女を殺したのなら、『訣別』が彼女を救えたりはしないだろうか。
それとも、『僕らと違うきみ』がいればよかったのだろうか。
そんなことを妄想した。
日和の頭を取り出して柔らかかった唇にキスをした。
冷たい。
綺麗に歯の揃っている肌の無いそれが、私にはとても愛おしく思えた。
部屋の棚から、埃をかぶっていた小さな箱を引き抜いた。
次に、私は日和の手を取り出した。
傷ついてしまわぬよう、彼女の右手薬指に箱の中身をそっと嵌めた。
私の左手薬指には同じものが既に嵌っていた。
遺骨を受け取り、帰りに私は、家具屋でこぢんまりとした本棚を買った。
私の生きた意味を並べていくと、それらは余りなく棚を埋めた。
キスをしたばかりの日和と顔を寄せ、一冊、『青』を棚から抜き出し、日和の空の瞳からも見えるよう、私の右手に乗せて読んだ。
話を一つ読み終え私は本を閉じた。
彼女に髪が生えていれば、私と同じ様に微かな風圧が前髪を揺らしただろう。
…日和にはもう何も残っていない。
日和を日和たらしめるものは何だったのだろうか。
最早それもわからない。
ただ、私だけが変わっていく。
日和は死に、私だけが生きている。




