墓参者。
私の墓にインターフォンの音が鳴り響いた。
死人は蘇らない。
ただ、墓の中で朽ち果て、溶けて、消えるのを待つだけだ。
しかし、私の墓には度々一人の墓参者が訪れる。
家の鍵は普段から掛けていないため、その墓参者はペンとグラスを握りしめ、机の前に倒れ込んでいる私の自室へとやってきた。
彼女はいつも、私に食べ物を買って来る。
「死人さん。今日も来たよ。これ、食べてね」
彼女は、私の前に鮭おにぎりを置き、私の横でコンビニの菓子パンを袋から取り出した。
カサカサと音を立てながらメロンパンを頬張っている彼女から目を背け、私は聞いた。
「何故、私を生かそうとするんだ」
私はこれまで一度も聞いたことがなかった。
彼女は真剣そうな表情をして、私の断片を取り出した。
『許さない。』と、『心臓』だ。
私は少し驚いた。
学校にあるはずの『心臓』を、彼女が持っていたのだ。
「驚いた?私、あなたの後輩なの。本読むのが好きで、あなたの本を見つけたんだ。読んでみたら、めちゃくちゃいい話で、今まで読んだ本の中で一番好きな話だったの!だから他の、あなたの本を読みたくなって」
私のように、たくさん話すのが苦手なのだろう。
つっかえながら彼女は喋っていた。
一息ついて、彼女はまた続きを話し始めた。
「出版社も書いてないし、著者の名前を調べてもヒットしないもんだから、図書室の管理の担当の傘先生に訊いてみたら、あなたのことを教えてくれたの。それと、『心臓』も」
「あなたの言葉は、私の中で生きてるの」
やめてくれ。
「あなたの言葉が、私を救ってくれたんだよ」
「やめてくれ。それ以上、何も言わないでくれ」
「でも」
「私には、認めることができない。私はとっくに死んでいるのだ。それは、死人の断片。遺骨なんてもの、情報も思い出も、ない」
誰かに評価を下されるのには、もう、疲れてしまった。
今の私は、誰にも評価させない。
が、価値を決めるのはいつだって自分以外の人間だ。
故に、私には価値はつかない。
「私は、恥の多い人生を送ってきた。最早人生でもない。私の言葉は、人を殺める。私の言葉は、人の心に響かない。人の心を動かさない。人の心と共存しない。君は、何も知らない。知る前から、私は死んでいる。だから、もう、私のところへ来ないでくれ」
名前も知らない彼女は、バッグから、『私』、『世界、僕らは』を取り出し、『許さない。』と『心臓』の横に並べ、立ち上がった。
「さようなら。私はあなたを、好きでした」
彼女は最後にそう言い残し、私の墓を後にした。
私は、彼女の背中を少し追いかけたが、かける言葉なんてものはなかった。




