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死人  作者: 井原枝葉
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3/11

生前。

「東木、それ、やめてくれ」

桐生(きりう)さんが、目を閉じ天井を仰いでいる僕に、鬱陶しそうに言った。

「早く喋ってくれ。全然喋らないくせに、口を開いたと思ったら、大したことも言えないんだから。お前と話すの時間の無駄だよ」

何と言おうか、俯いていたら、

「そういうところだからな」

と言って、桐生さんはさっさと行ってしまった。

確かに、僕はみんなのようにスラスラと喋れないけど、よく考えて発言しているつもりだ。

だが、それも無意味だったらしかった。

僕は何も言うことができなかった。


「退蔵(たいぞう)、早くして」

姉の言葉(ことは)は先程、僕に"アレ"をとって来ることを指示した。

しかし、当然、"アレ"と言われただけでは、僕には皆目見当もつかない。

「私の棚に置いてあるから」

どこにあるのか言われただけでは、何を持っていけばいいのか、わからない。

僕はやっと、口を開いた。

「"アレ"って、何?」

「…もういい」

姉は、早足で僕の前を通り過ぎ、化粧道具がまとめられた箱を手に取った。

「私がドレッサーに向き合ってるんだから普通わかるでしょ。察してよね、愚図」

理不尽だと思った。

だけど、僕は間違っている。

だからきっと、姉は正しいことを言っているのだ。

僕は愚図だったのだ。

普通、わかることがわからないなんて、愚図だ。

その通りだ、と思ってしまったから、僕は何も言うことができなかった。


最近、僕には、できないことが増えた。

大人になる頃には、いずれ何もできなくなって、一人で生きていくことが、できなくなってしまうんじゃないだろうか。

死にたくない。僕は生きていたい。

みんなと同じように、僕は僕でありたい。

それが大人になった僕に、許されているのなら。

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