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死人  作者: 井原枝葉
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2/11

私はずっと死んでいた。

「東木(あずまぎ)くん、『僕は死んでいる』って、どういうことかな」

「言葉の通りです。僕は死んでいます」

中学生の頃、私は自身の死を担任の教諭に告げた。

美術科を担当する傘(からかさ)教諭は、放課後、私を美術室に呼び出した。

「死んでいる…幽霊とかってこと?」

「いいえ。僕は実体があります」

私の回答に、傘教諭は更に首を傾げた。

「傘教諭は、"死"とはなんだと思っていますか」

私が尋ね、傘教諭はごく一般的な回答をした。

「もう会えない、とか?天国に行くこととか、死んだら何も残らないとか言う人もいるね。それが、どうかしたの?」

「死とは、価値を失うことです」

傘教諭は私と向き合って、

「東木くんは、自分に価値がないと思っているの?」

と私に聞いた。

「いいえ。ただの、事実です」

私は、難しそうな顔をする傘教諭に背を向け、美術室を後にした。

傘教諭は私の名前を幾度となく呼んだが、私が持ち出した鍵で美術室に施錠をしたため、彼は私を追いかけてこなかった。

私はあの頃もずっと、死んでいた。

ただ一つ、最後の希望なんてものを抱き、私は心臓をくり抜いた。

私の心臓は、今も学校の蔵書に紛れている。

傘教諭が持ち出していない限りは。

傘教諭は一度、私を土の中から掘り起こしたことがある。

それ以来、私は傘教諭に縋る様になった。

だが、私の立つ場は、不安定で、すぐに私は、深く深くへと沈み込んだ。

浮き上がっては沈み、いつしか私は浮力がなくなった。

心の海の底、凝固した血溜まりの底に私は沈んでいた。

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