私はずっと死んでいた。
「東木くん、『僕は死んでいる』って、どういうことかな」
「言葉の通りです。僕は死んでいます」
中学生の頃、私は自身の死を担任の教諭に告げた。
美術科を担当する傘教諭は、放課後、私を美術室に呼び出した。
「死んでいる…幽霊とかってこと?」
「いいえ。僕は実体があります」
私の回答に、傘教諭は更に首を傾げた。
「傘教諭は、"死"とはなんだと思っていますか」
私が尋ね、傘教諭はごく一般的な回答をした。
「もう会えない、とか?天国に行くこととか、死んだら何も残らないとか言う人もいるね。それが、どうかしたの?」
「死とは、価値を失うことです」
傘教諭は私と向き合って、
「東木くんは、自分に価値がないと思っているの?」
と私に聞いた。
「いいえ。ただの、事実です」
私は、難しそうな顔をする傘教諭に背を向け、美術室を後にした。
傘教諭は私の名前を幾度となく呼んだが、私が持ち出した鍵で美術室に施錠をしたため、彼は私を追いかけてこなかった。
私はあの頃もずっと、死んでいた。
ただ一つ、最後の希望なんてものを抱き、私は心臓をくり抜いた。
私の心臓は、今も学校の蔵書に紛れている。
傘教諭が持ち出していない限りは。
傘教諭は一度、私を土の中から掘り起こしたことがある。
それ以来、私は傘教諭に縋る様になった。
だが、私の立つ場は、不安定で、すぐに私は、深く深くへと沈み込んだ。
浮き上がっては沈み、いつしか私は浮力がなくなった。
心の海の底、凝固した血溜まりの底に私は沈んでいた。




