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死人  作者: 井原枝葉
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私は死んでいる。

「みんなちがって、みんないい」

私が制服の袖に腕を通し、よく名前で呼ばれていた頃、そう聞いたことがあった。

今の私は、名前を呼んでくれる人間など周りにいない。あぁ、毎日同じ服を着ていることだけはあの頃と同じか。

だが、思考した。

私は、今まで出会った人間、性格、考え、技術、どれも否定したことがなかった。

本当に間違ったものを、彼女のことでさえ、間違っていると言えなかった。

それに比べ、いや、比べるなんてこと自体、「みんなちがってみんないい」という子供じみた考えの意から逸れている。

私がされたことを曝け出してしまい、自分だけを棚に上げる様な真似は、私には許されていない。

それに、どうせ私は死んでいる。

死人が何をほざこうと意味など生まれない。

私からは、何も生まれないのだ。

生前、なんてものも、ない。

私は生まれながらに死んでいたのだと思う。

ただ、かつて私が書いた物語には、意味があったはずだ。

その本には、確かに生きた私がいた。

今は、どうだ。どうなのだろう。

すっかり麻痺してしまったらしい。

私には、もはや、何かを評論する感覚がない。

私は、何者なのか。

極めて抽象的で、意味も持たない疑問を抱いた。

私は、何者でもないじゃないか。

私がどう思おうと、それは決して答ではない。

死人は答えを導くことなどできない。

自己完結。

私は私にそう思うわせなければ、すぐ何かを生み出そうとする。

すぐ、誰かを求めようとする。

私にできることは、握りしめたロックグラスの中身を口へと運ぶこと、意味のない思考を張り巡らせること。

そして、ただ、死んでいることだけだ。

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