風呂いらず
島倉聖花は、ごく普通の風呂キャンセル界隈である。
毎日気疲れしたからお風呂はやめとこうと思い、毎日寝る前にバッチリ下着を替えてるから問題はないと胸を張る、齢27の風呂キャンセル界隈である。
今日も今日とて、自身が運営している風呂キャンチャンネルで『安定のNO風呂デーを過ごしてまいりましたが気温上昇の目まぐるしいGWが近づいたためそろそろ終焉を迎えますのでご理解とご協力をお願いします』という報告をしたあと、行きつけのコンビニで粉シャンプーと赤ちゃんのおしりふきを買って家路についていた―――のだが。
キイィイ!!キ――――イイイイイイイ!!!
ドガ――――――――――――ん!!
ぐわしゃぁああ!!
ぶちゅ。
真っ白な空間。
島倉聖花の魂と…、女神が対面している。
「島倉聖花さん、あなたは気の毒ですが人生を終えてしまいました。転生してもらいます」
「はあ」
「あなたにはチートをお一つ差し上げます。ステータスをご確認ください。」
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島倉聖花(27)
レベル8
称号:転生者
保有スキル:風呂いらず
HP:32
MP:1
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「というわけで、いきなり草原に放り出された…」
べよん、べよん。
水色の、ぶよぶよした丸い塊が…風呂キャンセル界隈の前に現れた!
「す…スライム!すごーい、わりとキレイ!」
あまりうろたえない、風呂キャンセル界隈。
「そだ、保有スキルあったよね!これで意思の疎通ができたり…って《風呂いらず?》確かに風呂は今この瞬間に絶対にいらないもののひとつではあるけれども…」
うばほん!!
目の前にでっかい露天風呂があらわれた!
お湯は透明で透き通り、青空を反射して輝いている!
お湯の温度39.5度、手すり付き、手桶や洗い場完備の岩風呂だ!
スライムは、初めて見る露天風呂に興味津々で…様子をうかがっている。
「わあ~!露天風呂だ!昔おばあちゃんと一緒に行った未亡人会の日帰り旅行思い出すな~!あの頃はお風呂もそこまで嫌じゃなくって…のぼせるまで入っててさあ!…久々に入るか!!」
風呂キャンセル界隈は、服を脱ぎ捨て身体を洗うどころかかけ湯すらせずにお湯に飛び込んだ!
「わあー、ちょうどいい湯加減♡ちょっとつるっとしたお湯が肌に気持ちいい…って、ヤバ!!なんか垢が…すごーい、こんなにも…ウケる、めっちゃ浮いてきてる!!」
夢中になって体をこすっている風呂キャンセル界隈を見たスライムは、自分もお湯の中に入って身体をこすりたくなった!
風呂キャンセル界隈の入浴を参考にしたスライムは、体表の毒を洗い流さず19億8938万200飛んで2の雑菌を付着させたまま露天風呂に飛び込み、体をこすり始めた!
「…うん?うぅ、がああああああああアアア!!!」
風呂キャンセル界隈は、汚染されたお湯が垢をこそげ落とした肌に浸透し、絶命した。
「う、うーん???なんか夢でも見ていたような??」
風呂キャンセル界隈は時間を巻き戻されて、コンビニの入り口前に立っていた。
コンビニの入り口で立ち止まる前に、ちょっとだけ時空がゆがんだのだが…、それに気づく様子はない。
風呂キャンセル界隈はコンビニで粉シャンプーと赤ちゃんのおしりふきを買って家路についた。
家の近くの交差点で、車の暴走事故が発生していた。
「うわ〜、巻きこまれてたらさすがにお風呂入らないといけなくなるとこだった、セーフセーフ!!」
風呂キャンセル界隈は、入浴しなくなったことで艶やかな髪と潤いのある肌をキープできているという持論を主張し注目を集めていたところ、とある化粧品勤めの視聴者からぜひとも商品開発の一環としてご協力を願いたいという申し出を受け、顕微鏡による調査を受けて己の体が微生物の住処になっていることが発覚し心が挫けかけたのですが、その頃にはすっかり懇意になっていた研究者に寄り添われて己を取り戻し、我が子が生まれてからは親子水入らずの入浴が欠かせない習慣となり、80歳でこの世を旅だった日も今晩のお風呂はどの温泉の元を入れようかと朝から楽しみにしていたとのことです。




