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悪は許さん!

大きなお鍋で皮とヒゲを取ったトウモロコシをたっぷりのお湯で茹でる。

ジャガイモと人参は皮を剥いて一口大に切る。人参の皮は栄養があるというけど、茹でると黒ずむし歯触りも悪くなるので剥くのが好ましい。

タマネギは頭と根を切り落として、繊維を立つ方向に1センチ幅で切り、次に繊維に沿ってこちらも1センチほどの間隔を開けて切る。

お鍋からトウモロコシを取り出し、入れ替わりに鶏の手羽先と手羽元を入れ、弱火で煮込む。

フライパンで角切りにしたベーコンを炒める。ベーコンに焦げ目が付いたら野菜を入れてさらに炒め、ジャガイモの周りが半透明になったら先ほどのお鍋に入れる。

さあここからは初めての挑戦だ。

フライパンを洗って、布巾で拭いたら少し火にかけ水気を飛ばしたら一旦濡らした布巾の上に置いてフライパンを冷ます。

中火にかけてバターをたっぷり入れ、溶け切らない内に小麦粉を入れ、頑張って混ぜる。

もったりとしてきたら、かき混ぜながら牛乳を少しずつ入れる。

ちょっと味見。うん。いい感じいい感じ。

フライパンを火から下ろしておく。

お鍋のアクを取る。まだまだ煮込みが足りない。もうちょっと早めに準備をするべきだった。

取り出しておいたトウモロコシが触れるぐらいに冷めたので、芯から粒を切り取る。芯はダシにも使えるけど、今回は吊るしておいて乾いたら薪に混ぜて燃やす。

アルパカちゃんのご飯にキャベツを刻んで人参の葉を乗せる。

あれ?さっき剥いた人参の皮がない。…アルパカちゃん、何を食べてるんだい?人参の皮かな?こやつめ。


アクは許さん!とばかりにアクを取る。アクを取る。アルパカちゃんをモフる。アクを取る。アクを取る。まだまだ取る。

材料が野性味に溢れてるからだろうか、次々とアクが出る。もしかして永遠に出てくるんじゃないだろうか。


まだ煮込みが足りないので先にアルパカちゃんのご飯をあげる。

いつもの野菜盛り合わせと食べやすいように手で小さくむしったパンと小皿にお塩、デザートには切ったリンゴとブドウ。

動物の食事は見ていて飽きない。

むっしゃむっしゃむっしゃ。

かわいい。

むっしゃむっしゃむっしゃむっしゃむっしゃ。

かわいいなぁ。


アルパカちゃんは食事を済ませると寝室に帰っていった。

さて、お鍋はもう少しだ。

今日は食事の前にお風呂にしようと思う。この分だと食事を取ってから髪を乾かしていたら深夜になってしまう。

釜の中で焼いておいた石をバケツに取り出して、薪を足してから屋上に行く。

いつもの様にお風呂を沸かしていつもの様にお風呂に入る。

もう慣れたけど、家の屋上とはいえほぼ野外で体を洗うのはどうも格好が悪い。

床に置くスノコとお風呂場用の椅子ぐらいは作ろう。

体をこするタオルは麻の布を細長く切って端を折り返して縫っただけのもの。元々ナイロンではなく、麻のタオルを使っていたので違和感はない。

ナイロンよりも麻の方がツルツルになる。気がする。


寝巻きのワンピースに着替えて食堂に舞い戻る。

お鍋の具合は……いいぞいいぞ。

フライパンで作った例の物とコーンをお鍋に加え、混ぜる。

とろみが付いて着たらさらに牛乳を入れ、またとろみが出るまで煮込む。

その間にバゲットを直火で炙って表面をパリッとさせたら斜めに切る。

少し味見をして、塩を足して味を調えたらスープ皿に盛り、ハーブを散らして完成。

ルウから作った特製クリームシチューだ。


それではいただきます。

まずはジャガイモから。クリームシチューの主役はジャガイモだと思ってる。

ジャガイモをスープと一緒にすくい、ふぅふぅと息を吹きかけて少しだけ冷ましてから口に入れる。

ほふほふ。熱い、熱い。表面がちょっと冷めたくらいじゃジャガイモの熱は納まらない。これがおいしい。たまらない。

スープに出た鶏の旨味とベーコンの旨味をジャガイモが全て吸収したような複雑な旨味が溢れてる。これがジャガイモのポテンシャルだ!

もうひとすくいスープだけを口に入れる。うーん。体に染み渡る。

二種類の肉の味とタマネギの甘みとトウモロコシから出た滋味深い味がホワイトソースに包まれて昇華している。

飲み下すとお腹がじんわり温かい。お腹の中でもおいしいんだ。これ。

鶏肉をスプーンで突付くとホロリと崩れる。これだ。これなんだ。長時間煮込んだ甲斐があるってものだ。

骨は食べられないので取り除いて、崩れた鶏肉を口に入れる。

うまい!今日はこれが食べたかったんだ!

思わず叫び出しそうになるぐらいおいしい。叫び出しはしませんよ。さすがに。でもそれぐらいおいしいんです。

皮は舌の上で消えてしまうような気がするほどやわらかく、身はまだしっかり繊維を残してるが形を保つので精一杯。歯で噛むとホロリホロリと口の中でほどけていく感触がたまらない。

一度旨味を出し切ったあとにスープの中で他の具材の旨味と合わさったそれを吸い込んで旨味のレベルが上がってる。

関節部分の軟骨は煮込んだことで柔らかくなり、極上のゼリーのよう。トロリととろけながらも微妙な弾力が残ってる。これだ。これが食べたくてわざわざ骨付きで煮込んだんだ。

落ち着こう。人参で落ち着こう。ああ、人参だ。

ホッと一息つかさせてくれる人参。甘くておいしい。食事には少しも嫌味のないこういう甘さが必要なんです。栄養もあるしね。

ベーコン。ありがとうベーコン。

クリームシチューにベーコンは邪道かもしれない。でも私は入れる。熟成された豚肉の味がこのベーコンには凝縮されてるから。仕方ない。

その凝縮された旨味の全てを解き放って役目を終えたベーコン。いわばダシ殻だ。それでもまだまだ旨味を残してる。最後まで味わい尽くすのだ。

このね。パリッと焼いたバゲットをね。バリッと裂いてガッとシチューに浸してすかさず食べるんだ。

パリッとしたところがふやけ切る前に口に入れる。パリッとした食感を残しつつ、染み込んだ熱々のスープがじゅわっと広がる。

口の中が火傷したって気にするな!このおいしさの前には多少の犠牲を厭うんじゃない!

あとはもうシチューの虜となった私です。

お代わりもしました。お鍋にいっぱい作ったんでね。バゲットも追加して、結局一本食べました。


今日の内職は寝巻きを作る。

今は元からあったサイズの合ってないワンピースを寝巻き代わりにしている。

オーバーサイズだし丁度良いと思ったんだけど、やっぱり裾が長すぎてズルズルと引きずってしまうのと、袖口をキュッと絞ってるので少々窮屈なのだ。

それ以外は問題ないのでワンピースを参考にしながら、裾を短く、袖は思い切って大きくする。

……前が開いていて紐で結ぶ方式だったらほぼバスローブだこれ。

一応下にキャミソールとドロワーズを着るので完全バスローブではないけど、なんだか気恥ずかしい。

誰に見られるわけでもないから大丈夫大丈夫、と自分に言い聞かせる。

同じ素材の色違いで白、薄ピンク、空色の三着を作った。

早速空色のを着てみる。

うん。いいじゃん。可愛い可愛い。

私の中の成人男性としての私が「恥ずかしくないのか」と思わなくもないが、なあに。どうってことないさ。

元々ゲームで女の子のキャラを着飾ったりするのが好きだった。むしろメインである男のキャラはほぼ実用装備だけだったのに対し、女の子は課金アイテムやガチャの服まで揃えていた。

それがもっとリアルになっただけさ。何も問題はない。

いや、問題がないというこの思考が問題なのか?

何にせよ、下ろしたての服は気持ちが良い。これから遠足にでも出かけるようなウキウキした気持ちになる。

遠足じゃなくて、ベッドに向かうんですけどね。


歯を磨いて寝室に入ると、ベッドに抱き枕がある。いいえ、抱き枕じゃないです。抱きアルパカです。

アルパカちゃんが先に寝てますね。くっそ、くっそかわいい。失礼。ちょっと表現がお下品になりました。大変かわゆうございます。おかわゆうございます。

起こさないようにそっとベッドに入る。そしてモフる。フルにモフりたい衝動に襲われるがぐっと我慢する。フルモフは起きている時のお楽しみ。なんだフルモフって。

それはもうフルフルにモフモッフなのだ。

これは完全に、寝入る前特有の特殊な思考回路になってるね。

手の平でもふみを味わいながら、フルモフの妄想で眠りに落ちる。


明かりもない真っ暗な洞窟に居る。

ははあ。さては昨日見た夢の続きだな。

私はよく、前に見た夢の続きを見ることがある。連続したお話を見てる感じだ。まあ夢は夢なので脈絡がなかったりおかしな展開になったりはするけれど。

昨日みたいなビックリ系は嫌だな。

……。

静かだ。

んっ?いや何か聞こえる。

誰か、泣いてる。

何か小さく儚いものが隅で丸くなって泣いている。

何かはわからない。泣いている。

私は傍観しか出来ない。

ただただ悲しいことだけが伝わってくる。

ああ、私が何かしてあげられたらいいのに。


目が覚める。朝だ。

目元をこすると水分が手に付く。泣いていたようだ。

枕カバーを洗って、枕本体も外気に触れる所で干さないと。

まったく、夢で感情移入し過ぎだよ。

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