すごく眠い日
モミジの朝は早い。
ベッドに入るのが九時か十時なので、単純に起きるのも早いだけ。朝は大体四時か五時に目覚める。
一人だし洞窟の中だし別に規則正しい生活をする必要はないけれど、だらけようと思えば無限にだらけられる環境なので努めて規則正しくするようにしている。
まあスマホやパソコンはもちろん本もないので、わざわざ夜更かしする理由もないわけ。
仕事や家、家族のことなど思い出す時もあるが、今は考えてもしょうがないと頭を切り替えてすぐに寝てしまう。
答えの出ないことを一人で悶々と考えても悲しくなるだけさ。
今日の朝食は丸パンの上に丸く切れ目を入れて中をくりぬき、中に昨夜の余った具材とチーズフォンデュを入れて、切り取ったパンでフタをする。
これをフライパンに入れて、窯の薪を燃やしてる所に突っ込む。
焼く間にいつものサラダの用意をして、ミルクに蜂蜜を入れて温める。
パンの表面がこんがり焼けて中身がふつふつとパンのフタを持ち上げて来たら、余り物をリメイクしたチキンポットパンの完成だ。
パンを丸ごとお皿に乗せて、いただきます。
フタを取って中身をスプーンですくって食べる。
ンマーイ!!
中身も味付けも昨日と同じ物なのに、リメイクすると一層おいしく感じるのはなぜだろう。二日目のカレー理論?
フタにしたパンもちゃんと食べる。いつもと違って横から上から熱を加えてパリサクになったこれにチーズフォンデュの染み込んだ具を乗せてかぶりつく。
最高。はしたないとか意地汚いとか恥ずかしがってちゃダメなんだ。こういうのはダイナミックにガツガツと食べるのが一番おいしいんだ。
中の減り具合に合わせて周りのパンも突き崩しながら食べる。なんて楽しくっておいしい料理なんだ。
ちなみにくりぬいたパンの中身はアルパカちゃんがおいしくいただきました。今宵もアルパカちゃんに感謝。まだ朝。
屋上の水やりついでに畑に砕いた鶏の骨を撒いてみる。
鶏がらをとった出し殻を乾かして更に細かくしたものだ。小さい頃に見た、人の家の花壇で卵の殻が刺さってるのを思い出して、肥料の足しにでもなればと思う。
最悪意味がなくてもいい。どうせゴミを捨てる場所など、どこにもないのだ。
花壇は日に日に花が増えてきた。気温も温かいし、今は春で近い内に夏が来るのだろう。
朝の光が感じられる屋上で洗濯を終わらせると、これで一日が始まる気がしてくる。
よーし、今日も頑張ろう。
そんなわけで私は屋上にシート代わりの布を広げてクッションを持ち込んで、膝にアルパカちゃんの首を乗せて毛にクシを通しています。
こういう時間も大事なんです。わりといつもこんなですけど。
野生動物は普段の栄養が少ないので、生え変わりがペットに比べて少ないらしい。
なぜ今そんな話をするのかと言うと、クシを通してみるとアルパカちゃんの抜け毛がすごいんです。
モミジ特製ご飯で栄養が充実して、遅れを取り戻すかのごとく生え変わってるんですねきっと。かわいいやつめ。
一櫛一櫛入れるたびに毛皮が綺麗になって、これは止め時がわからない。楽しい。楽しいぞ。
取っても取っても毛が減らない、むしろもこもこ度数は増すばかり。こいつ無限もこもこ製造機なんじゃないか。やいやい。
最終的にアルパカちゃんもう一頭分ぐらいの抜け毛が取れた。
ん?うん?えっ?物理的におかしくない?まだふわふわやんけこいつ。どうなってんの?
……まあそんなことは置いておいて、これだけあればアルパカちゃん謹製の服一着や二着は作れちゃうんじゃないかい?
とは言ったものの、まず布に仕上げないといけない。
えーと、たぶん、まずこの毛を煮たり乾かしたりして、糸つむぎで糸にして、それを布織り機で布にするんだよね。
一応、作業部屋に糸つむぎも布織り機もある。ゲームの中でも同じ工程を経ることでほぼ元手ゼロで布が手に入ったのだ。もちろん、布を買う方が圧倒的に早い。
ちょっと、ちょっとだけ考えさせて。
うん。うんうん。ああ、そうか。
はい。お待たせしました。無理す。
さすがに布織り機はちゃんとした手順があるはず。それをド素人が思い付きで触って上手くいくわけがない。
普段ならスマホで検索して解説動画なんか見ちゃえばいいんだけど、ほら、私スマホ盛ってないじゃん?っていうか電波ないじゃん?電気はかろうじてあるんだよ。魔法で出せるし。
ということで、アルパカちゃんで服を作ろうのプロジェクトは一旦保留です。解散解散。はいはいみんな仕事に戻って。
私も今日はアルパカちゃんと日向ぼっこする仕事に戻ります。
さー頑張って日向ぼっこだ頑張るぞー。頑張る…がんば…ふわあああ。
薄暗い部屋に居る。
ここは…知ってるぞ。確か、そうだ。地下都市ダンジョンの一室だ。
私が知ってるのは荒廃し朽ち果てた部屋で、魔族の王バルログが鎮座しているが、今見ているここはそうじゃない。
何かの研究をしているのだろうか。よくわからない物が乱雑に物が置かれて散らかってはいるが朽ちているわけじゃない。
そして、人がいる。
ローブを着た男が何かの儀式をしているようだ。
床に魔法陣が描かれている。見たこともない大きくて複雑な物だ。そして、赤い。
血で描かれてる?それも新鮮な血で。何の血かは想像したくもない。
男は長い長い呪文を唱え終える。
すると魔法陣は鈍く光り、巨大な何かが現れる。いや、知ってるぞ。バルログだ。
そして部屋の外が慌ただしくなり激しく争う音と色んな人の怒号や叫び声が聞こえる。
男は儀式の成功を大変喜んで大きな声を上げて笑っている。
そうか。
こいつが魔術師だ。
そしてこれが地下都市が滅んだ日だ。
ぱっと目が覚める。私は寝起きの良いことが唯一の自慢だ。
せっかくの気持ちがいい日に嫌な夢を見るなんて。
私が見る悪夢は本当に悪夢なんだ。
例えば何かに追いかけられるとか、何かに何かされるとか、現実的に嫌だと思ってることが起こるとか、そういう悪夢はいいんだ。
なんだ夢か。良かったー。ってなるはず。
私の場合はただ見てるだけ。何も出来ない。誰かに悪夢のようなことが起きてる。襲い掛かってる。でも私は何も出来ない。手は届かない。
真に最悪な悪夢だと思う。目覚めたって何も出来なかったという気持ちしか残らない。
いいじゃない。ただの夢だよ。と思うだろう。まあその通り。その通りだけどあの光景は忘れられない。あの魔術師の顔。
……顔?
おかしい。
魔術師が出てたのはシリーズ一作目のみで、日本がまだ昭和の頃のゲームだぞ。
私は知識として大まかなストーリーを知ってるだけでプレイしたことはないし、実物を見たとしても数個のドットで出来たブロックのおもちゃみたいな顔だろう。
いくら夢とはいえ、そんな私が魔術師の顔をあんな鮮明に作り出せるわけがない。
……まあいいか。ただの夢だし。
今置かれてる上京がファンタジー過ぎて夢もそっちにピントが合っちゃったんだよね。きっと。
はあもう疲れた疲れたもっかい昼寝しよ。ぐぅ。
説明しよう。
私は大変寝付きもいいのだ。
しかし寝付きがいいのは自分では自覚しようがないので自慢できるレベルでも全く気付いてないのだ。




