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前髪を切る時は慎重に

夜はお風呂で濡れた髪が乾くまで縫い物をする。

ドライヤーや髪を乾かすのに都合のいい魔法も無いのでしょうがない。

うっかり髪が濡れたまま寝てしまうと、翌朝は枕と髪型が大変なことになってしまうだろう。


布地はいくらでもあるし、一通りのレシピはスキル書に書いてあって、何より完成品があるのがいい。

テストプレイで一通り作って、廃棄せずクローゼットに押し込んだ過去の自分を褒めてやりたい。見本が実物であるのとないのとでは大違いだ。

思えばここに来る前で最後に針を持ったのはいつ以来だろう。小中学校の授業以外ではボタン付けさえした記憶がない。

そんな私でも下手なりに衣類を作れるんだから基礎学習とは大したものだ。

シャツやパンツ、下着類はまだまだ足りない。これも鍛錬のひとつだと思って手は抜かないように丁寧に縫う。

布地は羊毛と綿と麻で色も様々揃っている。

今は綿を使っているが、冬に備えて羊毛で縫った服も用意した方がいいかもしれない。

一応ローブなど上着になりそうなものもあるにはあるが、サイズが合ってないので作った方がいいだろう。

そういえば衣服のアーティファクトもあるが、あれらは仕立て直しても効果があるのだろうか?そもそもアーティファクトとは?効果とは…?悩みは尽きない。


シャツは多少ピッタリめに作る。

個人的にダボッと着るのが好きだが、シャツの上から胸当てなどの皮鎧を着るので余計な布があると都合が悪い。

襟首は胸に切込みを入れてステッチを作る。胸の所は紐を通して、上からスッポリとかぶってから結ぶ。

サイドの裾に小さなスリットを入れておく。これがあれば格段に着易くなるはず。

パンツはシャツほどタイトには作らない。

前の開いている所は紐を通して結んで、腰に帯代わりの布を巻いて後ろで結んで固定する。

前で結んでもいいが、どうも収まりが悪いので後ろにした。

新しい靴下を縫う。

前に作った物はどうしてもずり落ちてしまうので、今度は膝上までの長さにしてリボンで結ぶようにしてみる。

以前作った分はくるぶしで結べるようにしてみる。こっちも上手くいけば夏用に出来るだろう。


繕い物をしていると、どうしても猫背になって下を向いてしまう。

下を向くと前髪が邪魔なので、洗面所の鏡を見ながら少し切ってみる。

あれ?ちょっと左右のバランスが…右がちょっと斜めかな……んんんー?

試行錯誤の結果、見事なパッツンになってしまった…。まるで十代女子向け雑誌のモデルみたい。

まあその内伸びるさ平気平気。


髪が乾いたので寝る。

まず自分の歯を磨いてからアルパカちゃんの歯を磨く。イーッとする顔も可愛い。もしかしたら天使なんじゃないか?

うがいが終わると寝室に行く。

アルパカちゃんがベッドに入るのを見計らってポーズを決める。

「アニマル!フォーミング!」

説明しよう!

アニマルフォーミングとは忍術の動物変化で例によって猫に変身しただけである!

すかさず、ベッド上のアルパカちゃんの胸元にフェードイン!

説明しよう!

香箱座りで寝る体制になったアルパカちゃんの前足と前足の間の空間に猫になった私が入っただけである!!

ふおおおおおおおおお!!!もふもふに包まれている!

天国!

ここが天国ですどうぞ!!

寝る前なのにテンションがマックスハートだがそこは一度眠くなった猫。

一分と持たずにゴロゴロという猫特有のご機嫌な謎サウンドを奏でながら寝てしまった。


あ、夢だ。

私は夢を見ている時、すぐに気が付く。

私が見る夢はほとんどが第三者目線、ただ見てるだけで自分が何かをしたり内容に干渉出来たりはしない。

映画かドラマでも見ているような感じ。

今日の夢は現代のおじさんが異世界に転移し、村の強者となりやがて大陸に八つある国のひとつを治める王になり、ロードと呼ばれるようになる。

ロードと呼ばれるようになってからは平穏な日々を過ごすが、地殻変動が起き四つの国が海に沈む事となる。

地殻変動の原因を調べると闇の魔術師が起こしたとわかり、ロードは現代から勇者を召喚する。

勇者は宇宙に行ったりタイムマシンで過去に飛んだりして闇の魔術師を倒し、ロードは荒れ果てた大陸を統一してハイロードとなって勇者を現代へと送り返したのだった。


目が覚める。朝だ。

大きくあくびをして顔を洗う。

ベッドからぴょんと飛び降りてから伸びをする。

長い夢だった。

マキシマスの第一作目をそのまま夢で見たらしい。

そういえばハイロードも勇者も異世界から転移してきたんだったなぁ。

異世界ものは昔から定番の設定だったりするのかな。

夢の内容を思い出しているとアルパカちゃんも起きてきたので、背中に乗って洗面所まで連れて行ってもらう。

洗面所に着き、あれ?洗面台が高くて手が届かないぞ。と思ったところで猫に変身していたことを思い出す。

変身を解除して歯を磨き、顔を洗う。

タオルで顔を拭きながら、昨日前髪切り過ぎたことを思い出して少し気が重くなる。

どれぐらい切ったっけと鏡を覗き込む。

あれ?おかしいな。

切ったはずの前髪が切る前と全く同じ長さに戻っていた。

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