遺跡探訪
池から流れる小川沿いをポックリポックリとアルパカに乗って歩く。
上から見た限り、海はそれほど遠くないはず。
ゲームの中では旧作のラストダンジョンがある島なので、それはもう強力なモンスターが常にひしめき合ってるような想像をしていたけど、そうでもないようだ。
鉱山内は大変な状況だったが外に出てから動くものといえば、アルパカと池の魚以外見ていない。
あとは風に揺れる木の音と小鳥の鳴き声が聞こえるぐらいである。
実はものすごく平和な島なんじゃないかと思い始めていた。
急に森が開けて海に出た。
海岸はなく崖を3~4メートルほど降りた所に岩場が見えて、波が打ち寄せている。
太陽光がまぶしい。海に向かって太陽が傾いてるということは島の西側に出たのだろう。周囲を見ても人工物は見当たらない。
島の北側にオークやリザードマンの生息地、島の中心辺りにドラゴンの巣と化した古代遺跡、南東に悪魔軍団の拠点でありダンジョンと化した地下都市への入り口があるはず。
そうだ。
南西には島唯一の蘇生ポイントになる、神殿があったのを思い出す。
とりあえずそこを目指してみよう。
通ってきた森の向こうには山があるはずだが、木で高く遮られ何も見えない。
家を出発して数時間は経ったはず。今日は野宿がほぼ確定だろう。
神殿があればそこで雨風ぐらいは凌げるかもしれない。
右手に海を見ながら南下することに決めた。
アルパカに指示を出そうとしたら川の水面に口をつけて水を飲んでいたので、飲み終わるのを待ってから出発する。可愛いやつめ。
道がある。
右手は海、左手は森が広がるだけの海沿いを進んでいると、森の中に木が途切れて道のようになっている箇所を見つけた。
人の手が入ったようには見えないが、獣道か何かだろうか。
車一台は余裕で通れそうな道幅で50メートルほど先まで見えてその先は曲がり道になっているのか、見えない。
神殿は森の中にあったはず。
まあ何もなければ引き返せばいいんだ。
軽い気持ちでその道を進むことにした。
ポックリポックリ。
アルパカの座り心地は最高だ。
背の厚いモコモコの毛は低反発枕に跨ったような感触で、私のおしりの形に沈んでふんわりと包んでくれている。
これが馬の背ならとっくにおしりが痛くなっていただろう。馬に乗ったことがないので想像でしかないが。
首の毛は全体的にクルリとカールして渦巻き模様になっている。
アルパカは定期的に人の手で毛を刈らないといずれ毛に埋もれてしまうと何かで見たような。
面白い動物だなぁ。
そんなことを考えながら首を撫でていると、石造りの建物が見えてきた。
建物の手前には何本かの石柱が道の左右に立っていて、その左右に壁が延びている。門と塀だろうか。
その奥に道が続いていて、大きな建物が見える。
嫌な予感はするが、生き物がいるような気配はない。
ここは恐らくゲームではドラゴンたちの巣になっていた古代遺跡だろう。
門を通って塀の内側に入ると、正面には台形の大きな建物があり、他にもちらほらと小さな石の小屋のようなものがいくつか建っている。
人気は全くない。
台形の建物は手前の壁が階段になっている。
建物は森の木よりも高いので、上に登れば周りの様子が見えるだろう。
私はアルパカから降りて、階段に右足を乗せてトントンと踏んでみる。
表面は多少風化してきているが、まだまだしっかりしてそうだ。少なくともいきなり崩れるようなことはないだろう。
登るか。
10段ほど登って振り返るとアルパカも器用に登って付いてきていた。
残していくのは少し心配で、一人で登るのは少し心細かったのだ。頼もしい。ドヤ顔が可愛い。
階段を登りきって台形の上辺部分に出る。
中央にテーブルのようなものがあるだけで、他には何もない。
思っていた通り見晴らしがいい。バックパックから手帳を取り出して、ここから見える範囲で地図を描く。
まず大雑把な島の形を描き、中央辺りに遺跡を書き足す。
海とは反対側に茶色い岩山が見える。恐らくあそこに家へ続く洞窟のあるはず。遺跡の東に岩山を書き込む。
あの山は南東に長く伸びていて、地下都市ダンジョンへの入り口があるはずだ。
北は森が広がるばかりで何もない。こちらにも山があるはずだがここからでは見えない。
南も森しか見えない。南西には神殿があるはずだが、小さな神殿なので木に隠れてるのだろう。
ゲームの中では馬に乗って走り抜ければ10分もかからずに南北縦断できたのだが、ここから見る限りそんな短時間じゃ到底無理だ。
思っていたよりかなり広い。
そもそもここは本当にデスアイランドか?という疑問はこの遺跡の存在で払拭された。
家の存在だけなら、別の可能性も考えられたが、この遺跡はかなり広いことを除けばゲームの画面越しに見ていた光景そのものだ。
あとはアースゴーレムとアルパカがゲームでも見た、正に生きた証拠だろう。
さて、これからどうするか。
このままどこかに拠点を作るには手持ちが不十分だ。
元々洞窟探検程度に考えていたので、圧倒的に物資が足りない。
一度家に戻るべきだろう。
家に戻るにはあのアースゴーレムの大群をどうにかしなければいけない。
正面から挑む場合、洞窟内も洞窟へ続くだろう道も狭かったので、少数ずつ相手に出来るだろう。
武器は弓矢とショートソード。防具はゲーム通りの性能なら万全。HPというものが現実化するとどういう物になるのかという懸念材料はあるが、今は置いておこう。
アースゴーレム自体は強い敵じゃない。ゲームの中ではこの装備でも十分戦える。というより余裕だろう。あくまでゲームの中では。
ああ見えて岩と岩の繋がりは弱くて、そこを狙えば勝機はあるかもしれない。
もしくは山道までおびき出してどうにか崖から落としていくとか。
最初は岩に擬態していたように見える。
擬態しているのか単にスリープモードになっているのかはわからないが、とにかく起き上がってくるのにタイムラグはあった。
その間に走り抜けるのはどうか。
少なくとも私の足で出口までは出られたのだから可能だろう。
あとの問題は玄関を破られないかだが。
そんなことを考えていると日が暮れてきた。
下に降りて野宿の準備をするべきか、と手帳をバックパックに仕舞っていると不意に左腕が引っ張られた。
アルパカが口でローブの裾をくわえて引っ張っている。
なんだなんだ、可愛いやつめ。かまって欲しいのか?ウリウリと頭を撫でてやる。
口を話す様子は無く、むしろ体全体を使って引っ張ってくる。どうしたんだろう。
引かれるがままに歩いて行くと、背後から突然の突風に見舞われる。
砂埃が舞い、ローブがバタバタと音を立てる。
突風に遅れてズシーンという音とともに建物が揺れ、鼓膜が破れるかと思うような轟音が鳴り響く。
地震?カミナリ?
違う。
ドラゴンだ。
振り向くと今まで立っていた辺りに巨大な赤いドラゴンがいた。
顔だけは私に向けたまま悠然と歩く。すごい。まるで二階建ての家がそのまま歩いてるみたいだ。
一歩一歩、歩くごとに建物が揺れる。床が抜けたりしないだろうか。
そんなことを考えていたらドラゴンの顔の前に魔法陣が現れる。
あの模様には見覚えがある。ファイアボールだ。
慌ててアルパカに飛び乗り、階段へと走る。
マキシマスのドラゴンは直接攻撃、火のブレスの他に魔法も使える。攻撃魔法だけではなく回復魔法や補助魔法まで使いこなすので厄介だ。
魔法陣が形を変え火球になる。前に私が使ったファイアボールより何倍も大きい。
あんなものが当たったら、私はともかくアルパカが危ない。
とっさに肩にかけた弓を持ち直し、矢を撃つ。
矢が火球に命中すると燃え上がり、矢も火球も消えた。相殺できたようだ。
火球が消えたのを見てドラゴンが一際大きな咆哮を上げる。…まずい、怒らせたようだ。
今度は魔法陣が三つ現れた。なるほど、そういう使い方も出来るのか。
間髪入れずにそれぞれの魔法陣に矢を一本ずつ撃つ。練習しておいて良かった。
ひとつは命中。さっきと同じように矢が燃えて魔法陣も消える。
二本は外れた。魔法陣が動いたのだ。
ひとつの魔法陣は目にも止まらぬ速さで私たちの足元に展開する。それと同時にアルパカがジャンプした。
えっ…と思ってる間に床に展開した魔法陣から火柱が立ち上る。ファイアーストライクだ。アルパカにはわかっていたんだ。すごい!頼もしい!
残った最後の魔法陣はどこだ。
アルパカが着地と同時に横っ飛びする。私は振り落とされないようにするのが精一杯である。
着地点には宙に浮いた魔法陣があった。一呼吸置いて魔法陣が爆発する。爆発魔法のエクスプロードだ。
エクスプロードは詠唱に数秒遅れて発動するので、対人戦のコンボによく使われる。
あのドラゴンはその使い方を知っているらしい。あと避けられるアルパカがすごい。こんな島に住んでるぐらいだからアルパカも強くなるのかも。
間髪入れずにドラゴンは新たな魔法陣を繰り出してくる。今度はよく観察してファイアボールだけを狙い打たねば。
新たな魔法陣は六つ。その内三つが火球に変わったのを見届けて狙い撃つ。
残りは全てファイアーストライク。
まずひとつ目が足元に展開する。アルパカもジャンプで避ける。着地点にふたつ目が展開、アルパカもジャーンプ。最後の魔法陣がさらにその先の着地点に展開、これもジャンプで避ける。
すごい、すごいよアルパカ。さすがもふもふなだけある。
そうこうしてる内に下への階段にたどり着く。
ここにいてもいつかはやられる。逃げの一手だ。
騎乗したまま階段を駆け下りる。
その間にも魔法は飛んできて、私は矢で撃ち落としアルパカがジャンプで避ける。急増なのにいいコンビネーションじゃないか。
階段を降り切ったと同時に矢が切れる。もう私に打つ手は無い。
アルパカに出来るだけ呼吸を合わせて走りやすくする。もう出口はすぐそこだ。森に紛れればあっちの巨体じゃ思うように動けないだろう。
門までもう少し、という所で門の手前に竜巻が現れる。いや竜巻じゃない。ドラゴンだ。
そんな馬鹿な、二匹目だ。さっきの奴より一回りでかい。
アルパカが風圧と衝撃に怯んで棹立ちになる。
振り落とされないようにしがみつきながら振り返ると、後ろからもドラゴンが近付いてくる。
完全に逃げ場を失った。
門に向き直ると口を大きく開けたドラゴンが私たちを一息に飲み込もうとしていた。




