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猫になるもん!

吾輩は猫である。

正確に言うと忍術でモミジが変身した猫である。

マキシマスオンラインの日本風諸島のアップデートで追加された技能のひとつ、忍術。

忍術は大きく分類すると魔法の一種のような扱いで、その内容は非常にアメリカナイズされたオリエンタルマジックというべきものだ。

分身や煙玉などお馴染みの忍術から、首刎ねや影移動といったあちらの忍者ならではの物まで揃っている。

その中のひとつに動物変化というものがある。

様々な動物に変身できて、変身した形態に応じて特殊能力が付いたりスキルボーナスがあったりする。

といっても特殊能力やボーナスなどはおまけ、単純に小動物に変身できることが楽しくゲーム内では一躍ブームとなり、街中に動物が溢れることになったのは言うまでもない。

そんなわけで私は今、猫である。

他にもニワトリやウサギ、ネズミや犬や馬にアルパカなどにもなれるが、やはり変身するなら猫だろう。まず猫だろう。


今日は起きてから日課を済ませ、午前中は弓の練習をした。午後は洞窟の探索に出ようと思っている。

ただ、今の私は多少の魔法と付け焼刃の弓矢、あとは生産スキルがちょこちょこと言った感じ。

ゲームで言うとほとんどただの村人A。薬草を求めて森の中に入り、迷子になった挙句モンスターに襲われてすんでのところを勇者に助けられるといったミニクエスト発注人だ。

助けは来ないと思うので、モンスターに襲われるというフラグが立たないように細心の注意を払いたい。

なので猫。小さいし可愛いし俊敏だし可愛いしあと可愛いし。


昼食を軽く済ませてから忍術のスキル書を開いてみる。

どうやら使い方は魔法と大差ないようだ。違いは触媒がいらず、その代わりにマナの消費が激しいこと。魔法書の代わりに忍術の巻物を身に付けること。

ちなみに巻物は襲ってくる忍者を倒すと手に入る。問答無用で襲ってくるなんて忍者汚い。こちらがテストプレイで調達しておいた巻物でございます。

変身するとどんな感じだろう。着ている服や荷物はどうなるんだろう。


そんなわけで猫に変身した私です。巻物を意識して動物変化を念じるだけですごくイージーになれました。

ものすごく地面が近い。周囲に着ていた服やアクセサリーが落ちてる様子は無いよう。

変化解除を念じると人に戻る。服もちゃんと着てる。不思議だなぁ。

自室にドレッサーがあるのを思い出し、移動してドレッサーの鏡の前で変身してみる。黒猫だ。可愛い。

ふわりと煙が舞って、煙が消えると猫になってる。解除も同じように煙が舞う。

猫のまま椅子を動かしてみる。問題なく普段通り動く。小さくても力が弱くなったりはしてないらしい。

練習場に戻り、弓を持って変身。移動して解除。ちゃんと弓を持ってる。

猫状態の時、服や弓はどこに消えてるんだろう。不思議だ。

歩く。四足歩行なのに違和感が無い。

ジャンプ!…天井に頭を打った。力がある分ジャンプ力もあるのかな。打った頭は痛いが着地した足は痛くない。

家の中をうろうろしてみる。

巨人の国に来たみたいで楽しい。

VRネコとかあったらすごく楽しそう。私のはVRじゃないけど。

ベッドの上に乗ってみる。

すごく大きい。毛布もフッワフワだ。フッワフワ。ふっわふわぁ……。


はっ!いかん。一瞬寝てた。

習性まで猫に寄ってしまうのかも。恐ろしいな忍術。

ベッドから降りて伸びをする。

とその瞬間、視界の隅で何かが動いた。

ぴょーんと飛び上がり、ベッドに着地する。

……。

何もいない。

今度は慎重にそろりとベッドから降りる。

何も…いないな。

ホッとした瞬間今度はもっと大きなものが視界の隅で動く。

リプレイのようにぴょーんと飛び上がる。

…やっぱり何もいない。

何なんだ一体。

今まで家の中では私以外誰もいなかったのに、急に得体の知れない生き物が現れたとでも言うのだろうか。

パタパタ。

えっ!何の音?と振り返ると、びっくりしたせいか毛が逆立ち大きくなった尻尾が、私とは別の生き物のように勝手に動いてパタパタと毛布を叩いていた。

さっきから視界の隅で動いていたのもこいつだろう。

目が開いたばかりの子猫か。私は。


人の姿に戻ってアーティファクトの中から選んで装備を整える。

皮のレガースとブーツを履き、硬い肘当てが付いた袖に腕を通して紐を胸のところで結んで固定する。

その上に自作の胸当てを着て、皮のスカートを履く。念のためベルトに小さなダガーを鞘に入れて引っ掛ける。

頭はどうするか迷ったが、耳を塞いだり視界が狭められる物を避けてサークレットにし、手袋をはめて上からすっぽりとフード付きのローブを着て完璧。

自作のものとサークレット以外は微妙にサイズが大きいがそこは仕方ない。サークレットは不思議なことにピッタリだった。アクセサリもフルセットで付ける。

バックパックの中に鉛筆を挟んだ手帳とパンと水、包帯を五巻きと傷薬のポーションを三本。魔法書と忍術の巻物、魔法用の触媒を一通り巾着に入れたのと、予備の矢を50本皮に包んで中に入れる。

バッグの外にランタンと護身用のショートソードと矢が20本入った矢筒をくくりつける。弓は腕を通して肩にかける。


玄関の鍵を開け、外に出て猫に変身する。

念のため建物から少し離れて変身を解除してみる。大丈夫。装備もバックパックもある。

改めて猫に変身する。

初めてここに来た時より辺りがよく見える。アクセサリーに暗闇でも夜目が利くようになる魔法ナイトアイが付与されているのと、猫の目がいいのだろう。

道幅は家の幅と同じぐらいあり、天井までの高さは4~5メートルはあるだろうか。かなり広い。

物音はしない。玄関脇にかかったランタンの火がチリチリとしていて、その音だけがよく聞こえる。

さあ、冒険の始まりだ。


慎重に壁沿いを歩く。肉球で足音はしないのが助かる。

道なりに進むと道幅は徐々に狭くなり、なだらかにカーブしながら上り坂になっている。

意外と危険はなさそう。

前に現れたアースゴーレムはたまたま迷い入ってきたのだろうか。

道幅と共に天井も徐々に低くなる。

少なくとも大型モンスターが入り込むようなことは無いだろう。

なーんだ。緊張して損した。何日も引きこもる必要もなかったんじゃない?

今までモンスターがひしめき合う巣に閉じ込められたような気でいたが、意外とそうじゃないことが判り緊張の糸が切れてしまった。

根っからの楽天家の私はピクニックにでも来たような気になり、どんどん歩みを進めた。


30分は歩いただろうか。

分かれ道も無く、道幅は4メートルほど、高さも3メートルほどの道がずっと続いてる。

時折風の音がするだけで物音も動く物も無い。たまに岩がゴロッとあるだけ。

元々はモブも何もいないただの鉱山だから当然かもしれない。

風の音はするんだから、いつか外に出られるはずだ。


……。

さらに30分歩いたと思う。

何も変化がない。しいて言えば岩が増えたことぐらい。

もしかして、巨大な円になった道をグルグル回ってるだけなんじゃないかと思えてくる。


疲れた。

装備の効果なのか、体の疲れは無いけれど気持ちが疲れた。

動物変化を解くと、バックパックにかけたランタンで周囲が明るく照らされる。

やれやれと手ごろな岩に腰掛けると…地震?

周囲の岩と腰掛けた岩が揺れ出した。

慌てて立ち上がると周囲にあった岩々も立ち上がる。

なんということでしょう。

道に転がった岩全てがアースゴーレムだったのです。

来た道を見ると既に立ち上がった者がこちらに向かって歩き出している。

逃げなければ。


こんにちは。

走ってます。こっちに来て走ることなんて全くなかったのに、いきなり全力疾走です。

アースゴーレムたちは順番にスイッチでも入れていくかのように次々と立ち上がっています。立ち止まれば前後挟まれて試合終了です。

もしかしたら私、このまま一生走るのでしょうか。

あっ。明かりが見える!あそこまで行けば何かが変わる!少なくとも今より悪くはならないはず!勝利のウイニングロードはすぐそこだ!

そんな頭の悪い事を考えながら走っていたら、ローブの裾を踏んでつんのめる。

ああ、やっぱりオーバーサイズだった。

幸いというか間の悪いというか、ちょうど洞窟を抜けたところで前に倒れる。

倒れる時に手を付くと危ない。そう思って肩から受身を取ってコロンと転がる。

視界が一周する。水平線だ、遠くに海が見える。その手前に森。傾斜。崖に道と洞窟。山。そしてまぶしい太陽。

ドローンから撮った空撮映像を見ているかのよう。どうやら出口は山の中腹だったらしい。

全ての情報を整理すると、私は今、崖から投げ出されて、空を飛んでいますね。ステキ。

ああ…数秒振りですね、重力さん。私これから、どこに落ちます?

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