弓修行、頑張る!
飽きた。
かれこれ数時間、矢を撃ち続けている。
20本撃っては回収して20本撃っては回収して20本撃っては回収して。
途中から5セットごとに右手左手を入れ替えてみたり、横撃ちを試してみたりしたけどもう限界。
努力には才能が要るという話はよく聞くけど、飽きずにずっとやれる人は本当にすごい。身を持って痛感しました。
気分転換に昼食を作る。
今日の昼食は魚にしようと思う。
魚は釣りスキルで獲れるもの。0から100までスキルを育てる過程で何千匹と釣れる。スキルが低い内はブーツが釣れるのもお約束。
釣りスキルが100になると海竜や大王イカ、果ては沈没船の財宝まで釣れるので案外人気のスキルだ。
釣れた魚に刃物を使うといくつかの切り身になる。それがこの家にも大量にある。ゲームの中では焼いてフィッシュステーキにするだけだった。
見た目は普通の白身魚の切り身。この切り身を今日は二枚使います。
まずお米を炊きます。昨日はちょっと柔らかかったので、水差しにつけたしるしから少し減らす。前のしるしを指でこすって消して今日の位置に新たなしるしを付ける。
魚に塩を振り、小麦粉に乾燥ハーブを混ぜてまぶす。
乾燥ハーブは貯蔵庫の壁に下がっていたのを使う。ゲームの中ではただの飾りアイテムだったので、食材としては盲点になっていたのにさっき気付いた。
フライパンに多めのオリーブオイルを入れ、皮を剥いて一口大に切ったニンジンとジャガイモを入れ、ジャガイモの表面がキツネ色になってカリッとしたら軽く塩を振ってお皿に乗せる。
同じフライパンで魚を中火でじっくり焼く。両面がこんがりしたら取り出して野菜と同じ皿に乗せる。
フライパンを少し冷まし、バターと白ワインを入れてかき混ぜながら中火にかける。沸騰して少ししたらアルコールが飛ぶので魚にかける。
白身魚のムニエルが完成だ。あと白いごはん。
ソースのおいしそうな匂いに反応してお腹がずっと鳴りっぱなしだ。
いただきます!
まず落ち着くためにご飯を一口。うん。今日のはちょうどいい柔らかさに炊き上がってる。おいしいおいしい。
魚を切る。驚くほど柔らかく簡単に切れる。
口に入れるとまだ表面はカリッとしているのに中はホロホロと崩れる。
親しみのある白身魚の味だ。普段食べているものより味が濃い。次に料理する時はもう少し塩を抑え目でもいいかもしれない。
でもこれはご飯に合う。白いご飯に合うぞ!
こういうのでご飯を食べちゃうのが日本人なんだ。
食べ終わって後片付けをしたあと、忘れない内に水差しのしるしにカリカリと溝を掘っておく。これで次も同じようにご飯が炊けるはずだ。
さーて、弓の練習、続けるかぁ。どうしたもんかなぁ。
私は目を閉じて、クルクルと回りながら十数える。
数え終わると一旦静止して、五つ数える。
「五…四…三…二…」
一は口に出さずに目を開けて獲物を探す。
ひとつ、ふたつ、みっつ、よっつ。
心の中で数えながら部屋に散りばめられた的ひとつに一本ずつ矢を放ち、20本打ち尽くす。
飽きるのはやっぱり、同じ的を同じ位置で延々撃ち続けてるからだと思う。
もちろん基本を何千何万と繰り返すのは大事だ。大事だけれど私は凡人。
自分しか見ていないところで愚直にそれが出来るほど人間が出来ていない。
そこで基本とは別にゲーム性を持たせた練習法を考えてみた。
まず最初は動く的。
倉庫からナイフダーツ用の的を持ってきて、紐をつけて天井からぶら下げてみた。
これはダメだった。揺らしても振り子の動きが一定なので、どうしてもタイミングを覚えてしまう。新鮮だったのは最初だけ。
次に部屋の各所高さも様々に的を設置してみた。がこれもダメ。結局据え物を撃つのに変わりはない。変化が必要だろう。
これらを踏まえて開発したのが先ほどのやり方だ。
まず目を瞑って自分が回る。これによって的がどこにあるかわからなくなる。
その後五秒待つのは、単純に回った直後に始めると目が回ってしまってフラフラだったからだ。弓の練習どころじゃない。
撃つ的は20個。その内静止したものが15個、天井からぶら下げたものが5個だ。それらをなるべく早く全て撃つ。
これがなかなか楽しい。毎回新鮮な気分で練習出来る。すぐに的の位置を覚えてしまうかもしれないが、その時は場所を替えればいい。
午後は暗くなるまでこの練習に明け暮れた。最終的な命中率は8割といったところ。
洗濯物はちゃんと乾いていた。全てを取り込んだあとにお風呂と夕食の準備をする。
昼に炊いたご飯が余っていたので、焼きおにぎりにする。おにぎりのおかずといえば、焼きソーセージと玉子焼きだろう。
煮炊きのついでにお風呂のための石も焼く。
そろそろ薪を燃やした灰が、灰入れにしたバケツから溢れそうだ。処理する方法を考えなくては。
夕食はお盆に乗せて屋上に持って行き、お風呂に入りながら食べる。今日は夜空もおかず。
一人だから出来る最高の贅沢だ。夜空に、乾杯。
お風呂から出て寝巻きに着替えると、胸当てを手に作業場に篭る。
胸当てに弓の弦が当たる部分がどうしても削れてしまうので、補強する必要がある。
補強材は実験も兼ねてブラックドラゴンの皮を使ってみる。
本当は金属を使いたいところだけど、ここには鍛治作業をする設備がない。
作ろうと思えば作れるはずだけど、こんな洞窟内で鉄をも溶かす高火力の炉を作るなんてゾッとする。
それにかなりの音も出るはずだ。今は騒がしくしてまだ見ぬ脅威を呼び寄せたくはない。
という事で、皮の中でも頑丈そうなブラックドラゴンの皮を使う。
胸の部分の形にカットし、膨らみの曲線に合うように木槌で裏からトントン叩いてみる。恐ろしく堅いので根気の要る作業だ。この皮をなめすのも大変だろう。
ブラックドラゴンはドラゴンの中では中堅になるだろう。
上位種だったのだが、アップデートで新たなドラゴン種が追加されて中堅になる。もちろん弱体化されたわけじゃないので生半可な気持ちで挑むと返り討ちに合うだろう。
ゲームの中だと採れる皮はドラゴンと同様の品質だったが、実物だとどうなんだろう。とりあえず色は違う。
よし、縫い終わったぞ。
見た目も茶色に黒の組み合わせでかっこいいじゃないか。うんうん。
しばし完成品を満足げに眺めたあと、道具を片付ける。
今日はもう歯を磨いて寝よう。
明日もやることはいっぱいだ。
たぶん。




