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誰にでも優しい九条さんの、私だけの特権。~「いい部下」をやめた二十六歳の攻防戦~  作者: 寝不足魔王


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6/12

第6話:佐倉、ここは君の来る場所じゃないよ

第6話です。

踏み込みすぎた後輩を、大人の余裕(という名の拒絶)で押し戻そうとする九条。

切ない「扉越し」のシーン。凛のポジティブな根性が見どころです。


 翌日、九条さんとの間に流れる空気は、昨日までとは明らかに違っていた。


 彼はいつも通りに出社し、いつも通りに指示を出し、いつも通りに微笑んでいる。

 けれど、その「いつも通り」が、今の私にはあまりにも不自然で、鉄壁の壁に見えた。


「――九条さん、昨日の修正案、確認をお願いします」


 私がデスクへ近づくと、九条さんは画面から目を離さずに言った。


「そこに置いておいて。後で見ておくから」

「でも、急ぎだって……」

「わかってる。……佐倉、悪いけど今は少し手が離せないんだ」


 一度も、目が合わない。

 物理的な距離は昨日と同じなのに、心理的な距離が何十キロも引き離されたような感覚。

 これが、九条さんの「反撃」なのだ。


 踏み込んできた私を、彼は拒絶するのではなく、徹底的に『部下の一人』として扱うことで、元の場所へ押し戻そうとしている。


 定時後。

 彼が再び席を立った。向かう先は、あの喫煙所。


 私は迷わず後を追った。

 ガラス扉を開けようとしたその瞬間、九条さんの手が、扉の内側からハンドルを押さえた。


「佐倉。……ここは君の来る場所じゃないよ」


 扉をわずかに開けた隙間から、彼が静かに、けれど拒絶の色を隠さずに言った。


「九条さん、私……」

「昨日も言ったはずだ。ここは『大人』が逃げる場所だ。まだ真っ白な君が、わざわざタバコの煙を浴びる必要はない」


 そう言って、彼は私の目の前で、ゆっくりと扉を閉めた。

 カチャリ、という小さな音が、まるで心の鍵を閉められた音のように響く。


 ガラス越しに見える九条さんは、背を向け、すぐにタバコに火をつけた。

 白い煙が彼の姿をぼやけさせる。


 寂しい、と思った。

 でも、それ以上に、私の胸にはふつふつと熱いものが込み上げてきた。


「……真っ白じゃないです、私」


 閉ざされた扉に向かって、小さな声で呟く。

 私が九条さんの色に染まりたいと思っていること、彼はまだ、これっぽっちも分かっていない。


 突き放されるほど、燃え上がる。

 私の恋は、そんなに簡単に追い出せるほど、お行儀良くないんです。


 私は拳を握りしめ、背を向けて歩き出した。

 明日、どうやってその扉をこじ開けてやるか。

 それだけを考えて。


お読みいただきありがとうございました!

「ここは君の来る場所じゃない」というセリフ。

突き放しているようでいて、実は「自分は汚れているから、君を巻き込みたくない」という九条さんの自己評価の低さも滲ませてみました。


次回、第7話は「大人な彼が、不意に見せた溜息の価値」。

突き放された凛が、予想外の角度から九条さんの「隙」を突きます。


続きが気になる!と思ってくださったら、ぜひブックマーク等で応援をお願いします!


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