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第2章(3)ジャック、自分で試す ②

午前の診療は予定より時間がかかって昼休憩の時間を食ったが、ジャックは意地で昼飯を掻き込み、まだ盛大に咀嚼をしている最中に食卓を立って、小刀を取った。

挽くにはある程度の細かさに刻んでおく必要がある、完了は無理でもとりあえず着手して、後の仕事を減らしておきたい。

さすがのジャックとはいえ、未知の薬剤に刃を入れる瞬間、手が止まったが、一度端を落としてしまうと、手は果敢にてきぱきと刻み始める。

からからに乾いた根は固くて、良く切れる刃でも刻み辛い。

いっそ包丁の方が良いかもしれないと思いながら黙々と切っているところで、「先生!お昼にすいません!急患です!」と外から呼び声が飛んで来た。

ジャックは「おーう」と声を張り上げ、しかし手はなお7、8片切り進めてようやく止まり、溜め息とともに緩慢に立ち上がった。

どうにも昨日から引き続いて良くない運命の流れがあると疑いながらジャックが障子を開けると、腹が出た中年の男が戸板で運ばれて来た。

その顔には強い既視感があり、ジャックは「もしかして木村さんの息子か?」と尋ねるとその通りだと運んで来た1人が言う。


「何だ、オヤジさんにさっき会ったばっかりだぞ。今度は息子がどうしたんだ」

「ぎっくり腰ですかね。振り向いたらそのまま動けなくなっちまって」


一旦地面に降ろされた木村家の息子は、その衝撃すら響くようで脂汗で唸るだけで、症状の説明も、痛そうに手首を振る別な男が代弁した。

一切の挙動が困難で息もしづらそうであり、確かに急患は急患だが、命に係わる病というわけではない。

治療はすぐにするとして、この巨体を中に運べるか、どこに寝かせるかを算段しながら、医院ではなく自家に連れて行ってくれた方が良かったのだが、受傷場所から圧倒的に医院の方が近かったと弁明されては致し方ない。


「木村よお、お前いずれにしても痩せないとダメだ」

「そうそう、いくら農作業で鍛えてる俺達でも、お前の重さで腕が死ぬ」


入院用の板張りの部屋にようやく運び込まれた息子は、「ぎっくり……は……デブと……関係、ない……」と呻き声の中に憎まれ口を利いている。

確かにその通りなのだが、ジャックはそれでも「いや、お前は痩せるべきだよ」と運搬側に助太刀を入れ、その場がどっと湧いた。


ぎっくり腰はこの場では痛みを取り切れない、そう前置きして鍼を打ち終えた頃に、午後の診察開始の時間になったため、ジャックはそのまま診察室に移動して、予約があったりなかったりする患者を診た。

途中で息子を見に行ってみると、身動きが取れるようになったらしい彼は、何とか起き上がろうと苦心しているところだった。

それを押し留めながら、ジャックは患者の顔色を望診したが、表情からは苦痛は相当に引いているように思われた。


「どうだ、ピークは過ぎたか」

「いや、でもまだ、痛いっす」

「そりゃそうだ、そんなにすぐに痛みは取れないって言ったろう、ぎっくり腰は。まあまだ寝ていなさい、さっきの奴らが夕方迎えに来てくれると言っていたから」


運搬の戸板は持ち去られず、雨戸の戸袋に廊下に立てかけてあった。

小さい呻き声の中に、痩せようかなあ、と呟きが混ざり、ジャックは「良い心がけだ!」と励ましを与えた。


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