第1章(7)オリバー、種を蒔く ②
来年の作付2回目のために葭簀は準備するとして、オリバーは代用品を求めることにした。
藁や筵では湿気を含むので使えず、篠竹や杉の皮で屋根を作ると良い、といろは本は言っていた。
オリバーは、集落内で、林業を兼業で行っている人のところへ行ってみた。
貴重な資源である森林を管理し、どこをどれくらい伐採し育樹するかは、まずはその兼業者達が、集落内の需要を吸い上げた名主の山本チャーリーと協議の上で、奉行に計画を上申する。
藩の承諾を得なければ自由にできないのが山とその木々であって、縛りをかけずに自由に斧を振らせれば山はすぐ禿げ上がるというのが藩の考えで、近くに生えているのに手に入れられない不便さを感じる者は少なくなかったが、乱伐のせいで山津波が起きた過去が近い集落ほど、需要があるから何だ、という保全の姿勢が保たれていた。
年月が経ち直接の記憶を持つ者がいなくなると、過ちは繰り返されることもあったが、この集落では兼業者達が記憶を受け継いで、枷として機能していた。
そのため固すぎると思う者もいたが、何せ計画違反の伐採は処罰の対象になるゆえ、不満は陰口の中に溶け込むに過ぎなかった。
オリバーは、その兼業者達の中の、特に見知っている人のところへ足を運んだ。
「こんにちは、ノアさん。ちょっと良いすか」
目当ての佐々木ノアは、オリバーの亡父の親しい友人で、オリバーも幼い頃から世話になっている人であり、オリバーを認めて「よう、オル坊。どうした」と皺が目立って来た眦を下げた。
オリバーは、奉行案件で新しい野菜を試すことになり、雨避けを作りたいが篠竹か杉の皮で譲ってもらえるものはないかと、ノア相手には経緯を省略せずに打ち明けた。
するとノアは、杉の皮は伐採がこれからだから良いものがないが、篠竹なら手入れで切り払ったものがあるから持っていけと、野積場へ案内してくれた。
篠竹は放っておくと土地を次々の侵食し、家屋敷や田畑にまで遠慮なく地下茎を伸ばして来るゆえ、随時刈り取られていて、野積場に小山ができていた。
篠竹も資源ではあったが、元々が駆除目的なので、ある程度は持って行っても構わないという。
1年目の屋根なので、小山がごっそりなくなるような量はもちろん要らない。
オリバーは、鉈など道具を持って改めて取りに来る旨をノアに伝えた。
「分かった、仲間には儂から言っておく」
「すいません、恩に着ます」
「しかし、普及指導員ってのは因果な仕事だなあ。毎回一から手探りだろう、そのマンドレ何とかはうまく行きそうなのかい」
「行って欲しいすけどね。今回は高橋ハリーさんが協力してくれるんで、何とかなんないかなと」
「何とかなる、じゃなく何とかするつもりでやんなよ。俺は、普及指導員っつう微妙なお勤めを、オル坊が中身がぎゅっと詰まったモンに変身させてくれんの待ってんだよ」
自分では内心そのつもりで取り組んでいたが、他人にそういう期待を乗せかけられると、志は途端に重たくなる。
怯んだオリバーをどう思ったか、ノアは大笑いとともに、
「まあ気楽にやんな。俺は期待してるけどな、その何とかニンジンをここの特産に仕上げてくれや」
とオリバーの背中をばしばしと痛いほど叩いた。




