第1章(7)オリバー、種を蒔く ①
時間がかかるということが確定的になったことから、オリバーはようやく並行して作業を始めることを決心した。
作付場所はいつも通り試験圃場にして、下見して来た天根古道の麓から、ハリーの手を借りて土を運んで来た。
この土が適切かどうかは、マンドレにんじんが育って来てからでなければ判明せず、悩んでも答えは出ないとハリーに諭されていた。
黒く肥えているという条件は満たしているから一旦は良しとしよう、ハリーとそのように決めて、持って来た土は篩にかけて小石や虫を取り除いた。
オタネニンジンよりは虫への耐性が上がっていると、いろは本は語っていたが、どの虫にどの程度強くなったかという肝心の所見は曖昧な記述しかない。
ならばこちらも一旦は、マンドレイクの方は全く分からないゆえ、オタネニンジンに準じて作っておくべきかと、オリバーは藩校から参考書を借り出して、いろは本と交互に読みながら、肥料は足さずにそのまま圃場へ入れる。
水はけを良くするため、畝を通常の野菜の場合より高く盛り上げる。
それから、種を蒔く前に、雨対策をする。
これからは霜や雪の季節であって、その対策はどうやら要らないらしいのだが、雨が直接当たると種を傷めるそうなので、雨覆いが必須だという。
とはいえこの辺は雪もそれなり降るので、雨を凌げて、ある程度頑丈で、雪が勝手に滑り落ちる傾斜を持つ工夫を施す必要がある。
幸い雨覆いは、いろは本に絵図とともに記載があったのでそれに倣う。
1メートルちょっとの高さで十分ということなので、支柱の確保は容易であったが、屋根には葭簀、つまり葦で作った簾が例示されていた。
2枚ずつ重ねて小屋のようにするとあったが、今年は作付1年目であり、それほど面積も要らないので、オリバーは夏に使った簾を転用するつもりで、家から持ち出そうとしたのだが、妻アメリアに断固として否を言い渡された。
「あのね、不用品じゃないの。夏になったらまた使うのよ。持っていかれたら困るでしょ」
「夏までに新しいのを調達しとくから」
「調達?まさか買うんじゃないよね?いくらするか分かってるでしょ?」
「いや、作るし」
「作るって言ったって、その分の葦頼んだの?」
葦は水際に生えるが、この集落に河川はあるが、葦が大群落を作るくらいの水辺は、集落の端を流れる大清水川しかない。
大清水川が集落同士の境界になっていることもあって、川資源も、藩からのお墨付きを貰った、集落同士の厳密な取り決めで管理されている。
葦は、葭簀や屋根の素材によく使われるので、入用の場合は毎年決められた日までに、名主に申し出なければならなかった。
申し出の期限はとっくに終わっている。
今年の葦刈りはこれからで、今から捻じ込むのは絶対的に不可能なわけではないが、オリバーはその骨折りを想像した結果、転用は諦めることにした。
どうせ、アメリアとの口論に勝てない。
それに、葭簀がない場合、代用品でも良いと書かれていたため、早々に撤退するのが勝ちである。




