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第1章(6)オリバー、医者に依頼する ①

藩内の医師は、患者となりうる人数に鑑みて、町かその周辺に居を構えたがる者が多かったが、そうすると医療が藩内に行き渡らなくなるため、藩主によって医院の設置場所は制限されていた。

藩主が権限を持っているものだから、有能だと噂高い者を優先的に町に集めようとする贔屓はあって、結局町の医療水準が高くなる結果を招いているが、そのようなことは肥土藩に特有の状況ではなかったし、まず地元で診てもらって、手に負えない場合は町に転院するという流れについて、概ねそういうものだと許容がなされていた。

町外の医師は、1集落に1人の場合もあれば、実質的に周辺の複数の集落を担当する形になっている場合もあって、オリバーのところの医師は、隣の集落の患者も範疇に入れていた。

それどころか彼は、ぜひとも藩医になって町に住まうよう何度も乞われても、藩医などになっては臨床の件数が減ると断り、妻の実家の集落で開業をするような人物であった。

腕利きの医師に診てもらいたいと、管轄外の地域、それこそ町の患者にも頼られるような彼は、集落の病人を治療できなくなっては困ると歯に衣は着せないながら、見放すことはしなかった。


医師を早急に訪問するとハリーと打ち合わせはしたところだったが、オリバーも米作業の支援があったのと、診療時間中に押し掛けては相手にされないだろうと、昼休憩を見計らって医院に赴いた。

集落の中で農業者ではない住民は、名主と医師だけであって、農作業の暦の影響も受けないのは、この鈴木家ただ1軒であった。

もちろん他の者が忙しくしている最中も農作業を手伝うということはないし、それで責められることもない。

作業で怪我をした、腰を痛めた、疲労感が著しく寝ても取れないなど、農業の繁忙期には患者が激増するため医者一家の身体が空くことはなかったし、医術に専念していてもらわないと集落全体が困る。

今年も、鎌であちこち切ったなどという話を聞いた、とオリバーは医院の門、門と言っても丸太を2本立てて上に板を渡し鈴木医院と書いただけだが、を潜った。

戸を引き開けると、待合となっている広めの板張りの間には、診療の再開を待っているらしい年寄りが1人、オリバーを振り向いた。

顔を知っているだけの人であったため目礼だけをして、待合を見渡したが、診察室など奥へ通じる戸はぴたりと閉ざされて、その前に"午後は1時から・急患は声かけて"と書かれた木札が吊られていた。

オリバーはごく健康体で、医者に世話になったことはほぼないに等しく、子供達の通院はアメリアが担っており、医院内の間取りが分かっていない。

声かけて、とはここを開けていいのだろうかと迷ったオリバーが、引手に指をかけてみると、背中から年寄りが


「午後はまだだぞ、全然まだだ」


と言った。


「急患か」

「いや、患者じゃなくて、ちょっと先生に用事があって」

「順番抜かしは駄目だぞ」


訂正するのも面倒で曖昧に頷き、年寄りの鋭い視線を感じながらオリバーは、「鈴木先生、佐藤ですが、ちょっと良いですか」と戸をそろりと引いてみた。

診察室であるらしい次の間は、文机を中心に雑然としていたが、主の姿は見えなかった。


「先生、佐藤オリバーです」


心なしか上向いてもう一度呼びかけてみると、入って来た戸の対面、オリバーの正面の戸が勢い良く開いて、丼を片手に箸を咥えた医師、鈴木ジャックが、「急患か?誰だ、母親か?」と鋭い問いを飛ばした。

オリバーは慌てて否定と謝罪をする。


「いや、違います。ちょっとご相談したいことがあって。すいませんお昼時に」

「何だ、違うのか。人騒がせな。いや急患がいないに越したことはないな。で、何の用だ」


オリバーが「その、薬の原料の話なんですけど」と左手に下げていた風呂敷包みをついと持ち上げると、ジャックは「原料?」と片眉を上げてから、開けた戸の方へ顎をしゃくった。


「こっちで聞こう。飯を食いながらで悪いが」


鈴木ジャックは今年還暦になってより脂が乗って来たという印象で、本人の意識としても、集落からの祝いである赤ちゃんちゃんこを断固拒否したくらいであった。

実際気性は荒い方で、歯に衣着せず、怒鳴ったり理屈で責め立てたりはしないが、特に治療に関わる事項は、言葉を選ばないで率直に告げる性質であった。


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