第1章(5)オリバー、勧誘を試みる ③
今回は何とか成功させたいがために、誰かに協力を求めようとしたのだが、間違った思い付きだったのかもしれない、渡辺弟から断られた時にそれに気づくべきだったと口の中で唱えながら、足運びは苛々とした。
普及指導員など好きでやっているわけではない、しかし引き受けたからには、農業者がいくらでも儲けられるように行動するつもりだし、乏しい知識でも使って何とかしていきたいと思っている。
しかし、オリバーの情熱は表に出したことがないから集落には伝わっていないし、歴代の普及指導員が、人によって仕事ぶりに差がありすぎ、役割か不明なまま大した成果もなく金だけ貰っている
閑職だとみなされているきらいはあったが、それを覆せるような働きもまだしていなかった。
そのことが苛々を加速させ、内心が帰ろうかな、ではなく、帰ってやろうかに変わりつつあった。
だが、そういうわけにも行かない、とオリバーの足は次の家には向かっていたが、あまり下手に出ないようにと心を固めた。
どうせ一緒と言っても作業を分担するわけではない、オリバーはこれまでも独りでやって来たし、今回だって作業量が多いわけではない。
求められてもいないものを一生懸命取り組むのは馬鹿げている、失敗しても温い目で見られてそれで終わりだ、歩けば歩くほど内心は荒んでいった。
ただ、前回のブロッコリーの惨状を思い出すと、失敗はもう味わいたくないという負けん気も湧いてきて、どちらの意地を優先させるのか折り合いがつかないまま、目当ての家の前に辿り着いた。
それほど話し込んだりはしていないのに、釣瓶落としという形容通り、そろそろ近くにいない人の顔が判別しづらくなって来ていた。
格子窓から囲炉裏の火らしい明かりが見え、夕飯の支度時になっていると気が付いて、オリバーは慌ただしく扉の立桟を叩いた。
はいどちらさま、と近づいて来た声の主が、木戸を引き開ける。
「あれ、佐藤さん。なしたのこんな時間に」
「すいません高橋さん、遅い時間に。ちょっと相談というか……お話が」
「おお、何だろ。入る?いや、僕が出るか」
屋外に出て来た高橋ハリーは、渡辺トーマスより1つ年上の、40代後半の農業者で、オリバーとは一回り以上離れている人であり、会えば話はするが、それほど親しく願っているわけではなかった。
ハリーを候補に入れたのは、もちろん野菜栽培をしていること、それから集落の中でも石橋を叩いて渡る方と認識されており、その態度が農業にも現れて、例年と違う出来になった時にむつむつと要因を探そうとする。
その際に、普及指導員であるオリバーは意見を求められたことがあり、ハリーとの主な接点であった。
ただ、大分後ろ向きになっているオリバーは、石橋を叩くゆえに提案を断られるのではという予感を始めたところでもあったが、それならそれで良い、むしろどうでも良いと自棄になりながら、ハリーにも一通りの説明をした。
ハリーからは、トーマスやジョージと同じ内容を聞かれ、1つ答えるごとに、やはり声をかけなければ良かったとなけなしの意欲が減退していった。




