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付与術喰らいの付与術師〜絶望の先、至高の収穫  作者: かおもじ


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ガルディアへの帰還

 温かいシチューを胃に流し込み、ナギが小さく息を吐いた。


「ふぅ……生き返るわね。なんだか、マナまで回復してる気がするわ」


「……気のせいではないぞ」


「えっ?」


「恐らく、使われている食材の影響だ」


 俺は手元の木椀を置き、淡々と返す。


「宿の温泉もそうだが、太い龍脈が走る土地は大地そのものや、そこに生息する動植物にも強く影響が出る。この辺りで採れる食材には、どれも豊富なマナが満ちているんだ」


「なるほどね……。美味しい上にマナまで回復するなんて、最高じゃない」


 そう言って更にシチューを口に運んだあと、ふと思いついたように彼女が顔を上げた。


「マナって言えば、今のご主人様のステータスがどれくらいになったのか、教えてよ」


「……いいだろう」


 俺はマジックバッグから紙とペンを出し、自身のステータスを書き出して、彼女へと差し出した。


「……これだ」


【カイン:レベル41】

 【筋力 :370】

 【耐久 :365】

 【敏捷 :304】

 【技量 :188】

 【魔力 :218】

 【精神 :172】


「さんびゃく……。普通の冒険者が一生かかっても辿り着けない数字が、三つも並んでるわね……」


 ナギが引きつった笑いを浮かべる。


「まあ、自分の命を天秤に掛けた結果だものね。……あ、そうだ、私も強くなった?」


「お前も道中のスライムと、無数の子蠍のマナを一人で吸収した形だからな。当然レベルも上がり、強くなっている」


 今度は彼女のマナの流動を読み取り、手元の紙切れにサラサラと数値を書き記して手渡した。


【ナギ:レベル51】

 【筋力 :121】

 【耐久 :141】

 【敏捷 :145】

 【技量 :191】

 【魔力 :281】

 【精神 :273】


「……レベル、五十一」


 紙切れを受け取ったナギの手が、ピタリと止まった。


「たった一日で、十近く上がって……いえ、それよりも、耐久値が伸びすぎじゃない?……中堅の前衛職並の数字じゃない」


「以前にも言った通り、マナの『質』だな」


「……スライムと蠍。まぁ、軟いか硬いかの違いはあれど、どっちも耐久が売りの魔物だったものね」


「そういうことだ」


「それにしたって……魔術師なのに、物理で殴り合えとでも言わんばかりの成長ね」


「いざという時の生存能力が上がったと喜ぶべきだろう。お前の肉体は確実に、強靭な器へと進化している」


 俺の言葉に、ナギは複雑そうな顔で紙切れを見つめていたが、やがて呆れたように小さく息を吐いた。


「……まあ、ご主人様に付いていくなら、これくらい頑丈じゃないと身が持たないってことね」


「その通りだ」


「そこは、否定しなさいよ……」


 ナギは恨めしそうに俺を睨みつけると、手元にあった温かい茶を一口飲んだ。


 改めて手元の紙切れへと視線を落とし、何か腑に落ちないものを見つけたように小首を傾げる。


「そういえば、前は自分の異常なレベルアップに驚いて流しちゃったけど……この【技量】って項目は何?」


「文字通りの意味だが」


「それが分かんないから聞いてるんじゃないの、全く……。他の付与術師を詳しく知ってるわけじゃないからアレだけど、ステータスとして『技量』なんて言葉、聞いた事ないわよ」


 彼女の真っ当な指摘に、俺は淡々と種明かしをする。


「ああ、それは俺が勝手に名付けただけだからな」


「……勝手に、名付けた?」


「そうだ。……要は、マナを円滑に操作するための能力だ。それが高まることで、戦士であれば体内のマナ操作が精密になり、魔導士であれば術の発動が早くなったり、狙いを付ける精度が増す」


 俺の説明を聞き、ナギは自身の両手を見つめた。


 先程の親蠍との死闘においても、彼女は淀みなく、かつ瞬時に『紫電』を展開し、蠍の複眼を正確に射抜いた。


 あれは決して偶然ではない。彼女の【技量】が成長と共に高水準に達していたからこそ成立した、高速の魔法行使だ。


「なるほど……。言われてみれば、さっきの戦闘でも、マナを練り上げてから魔法を構築するまでの時間が、以前とは比べ物にならないくらい短かった気がするわ」


「だろうな。無駄なマナの漏れがなくなり、イメージがそのまま即座に現象として出力される。お前のその技量の高さは、間違いなく大きな武器になる」


 俺が事実を告げると、ナギは自らの手のひらを何度か握り込み、その感覚を確かめるように小さく息を吐いた。


「……なんだか、自分でも知らないうちに別の生き物になっていってるみたいで、ちょっと怖いわね」


「今更だろう。俺についてくる時点で、まともな道は歩めないと思え」


「……ええ、そうね。もう十分に身をもって理解してるわよ」


 ナギは呆れたように肩を竦めると、静かに笑みをこぼした。


 その後はお互いに静かなまま残りの食事を平らげた。

 極度の緊張と疲労から解放された反動からか、最後に温かい茶で息をつくなり、ナギは毛布にくるまって早々に深い眠りへと落ちていった。



 ◇ ◇ ◇



 翌朝。


 十分に体を休めた俺たちは天幕を収納すると、入り口へ向けて谷を登り始めた。


 生態系の頂点であった親蠍を狩り尽くした影響か、道中では大ミミズや巨大なモグラの魔物が幾度か姿を現したが、今の俺たちの敵ではない。

 立ち塞がる端から瞬殺し、足を止めることなく上へ上へと歩みを進める。


 ただ一つだけ問題が発生した。それらの魔物の素材が、ギルドの依頼対象だったことだ。


 マジックバッグは獄零鋼と蠍の素材で完全に容量をオーバーしている。故に、入り切らなかった素材は麻袋に詰め込んで、ナギが背負って歩いていた。


「……ねえ。こういうのって、普通は男が持つものじゃないの?」


 不満げに口を尖らせるナギに、俺は周囲の警戒を怠らないまま淡々と返す。


「お前は手が塞がっていても魔法で攻撃できるが、俺の手が塞がっている状態で奇襲を受けたら、どうやって反撃するつもりだ? それに、お前の筋力も十分に成長しているんだ。大して重くは感じないはずだぞ」


「それはそうかもしれないけど、なんか釈然としないわね……」


 ナギは恨めしそうにぼやきながらも、その足取りは存外に軽い。


 対策を講じなければ命の危険すらある断層の環境は相変わらず過酷だ。しかし、『帰還する』という目的がもたらす心理的な余裕が、彼女の背中を押しているのだろう。


 その後は特に大きな脅威と遭遇することもなく、俺たちは順調に深い谷を登りきった。


 そうして、双極の断層から更に丸二日に及ぶ道のりを越え――俺たちは無事に、目的地であるガルディアの街へと帰還を果たしたのだった。


「……はぁぁ……。ようやく、着いたわね……。もう、一歩も動きたくないわ……」


「息をついている暇はないぞ」


 俺は麻袋を背負って項垂れるナギに、淡々と告げる。


「宿を取り直す必要があるし、ギルドにも素材を届けねばならない。何より、ドルンの所だ」


 俺の容赦のない言葉に、ナギは顔に絶望を貼り付けながら、がっくりと肩を落とすのだった。


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