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付与術喰らいの付与術師〜絶望の先、至高の収穫  作者: かおもじ


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拮抗と相殺

「……分かった。期待している」


 ドルンと成功報酬の約束を取り交わした後、俺はそのまま工房の床から視線を上げ、真っ直ぐにドワーフの男を見据えた。


「鞘と杭の件はそれでいい。……次だ」


「あぁん? まだ何かあんのか」


「『双極の断層』の正確な位置と、そこに出る魔物に関する情報が欲しい。それと、この街で『暑さ』を凌ぐ魔導具を扱っている店はあるか」


 俺の淀みない問いに、ドルンは面倒くさそうに首を鳴らした。


「お前には、氷の魔剣があるんじゃねぇのか?」


「俺には、な」


「……なるほどな。位置に関しては、大まかな方角しか知らねぇよ、俺が直接採取に行くわけじゃねぇからな。冒険者ギルドに行けば詳細な地図もあるだろう。正確なルートはそこで聞いてくれ」


「魔物はどうだ?」


「そっちも全部を知ってるわけじゃねぇが……特に厄介なのは二種類だ。熱気と冷気を瞬時に反復させる『双属性のスライム』と、環境に適応して異常な硬度の外殻を持った『蠍』の魔物だ」


「……スライムと、蠍か。分かった」


「そんで魔導具屋なら、ほれ。そこだ」


 ドルンが顎で示したのは、工房の開け放たれた扉のすぐ先――斜め向かいにある、埃を被った小さな店舗だった。


「この街は鍛冶特化で汎用的な魔導具はイマイチだが、『燃やす』と『冷やす』に特化した魔導具だけは豊富だからな。困る事はねぇだろう」


「……なるほど。では、また明日寄らせて貰う」


 必要な情報を引き出した俺は、ナギを連れて斜め向かいの店舗へと足を運んだ。


 扉を開けると、油と金属の匂いが染み付いた風が鼻を突く。

 店内には、洗練された意匠の魔導具は余り見受けられず、殆どが木箱のまま無造作に積まれている。


 俺は店主に『双極の断層』へ向かう旨を告げ、暑さを凌ぐ魔導具を見繕うよう頼む。


「断層たぁ、また命知らずな。なら、この冷気を放ち続ける外套や首飾りが定番だ」


 恰幅の良い店主がカウンターに並べた品を見て、ナギが興味深そうに手を伸ばしかける。だが、俺は首を横に振った。


「悪いが、そいつは使えない」


「あら、どうして? これならずっと涼しそうだけど」


 不思議そうに首を傾げるナギ。彼女の手元を見た店主が、合点がいったように太い息を吐いた。


「……嬢ちゃん、その指輪、炎の魔力を帯びてやがるな? 装着型の魔導具同士を……特に、炎と氷みてぇな相反する属性の物を同時に身につけりゃ、魔力が干渉しちまう。効果が相殺されるだけならマシだが、最悪の場合は暴走して自滅するぜ」


「えっ……」


 その言葉に、慌てて手を引っ込めるナギ。


「そういうことだ。だから、身につける装備品ではなく、空間そのものを一時的に冷却するような使い捨ての魔導具が欲しい」


 俺が引き継ぐように要件を伝えると、店主は「なるほど、道理だな」と深く頷いた。


「確かに、それなら魔導具同士が干渉することはない。ふむ……高炉の保守点検に使う『冷却石』がある。効果は一時的だが、威力は保証する」


 店主が木箱から取り出した拳大の石を、片手で受け取る。表面を指でなぞると、内部から確かな冷気が伝わってきた。


 マナの流れを探っても、周囲の熱を奪うだけの極めて単純な構造だ。これなら、炎脈の指輪と干渉する恐れもないだろう。


「……使えそうだ。あるだけ用意してくれ」


 俺は大量の冷却石を買い上げると、マジックバッグへと次々に放り込んでいった。


「……ふーん。私が着けてる指輪との相性まで、最初から計算に入ってたってわけね」


 俺の意図を察したナギが、少しだけ口元を綻ばせ、そっぽを向くようにして呟いた。


「……自分の身は自分で守れって言う割には、過保護じゃない」


「それが必要だと判断しただけだ。……行くぞ」


「あ、ちょっと待ってよ!」


 魔導具屋を出た俺たちは、その後も大通りを歩いて回復用のポーション類を買い足し、通りすがりの食堂で少し遅めの昼食を済ませる。


「ふぅ。意外と美味しかったわね、ここのお店。……で、この後はどうするの? 宿に戻るには少し早いでしょう?」


「ああ。ギルドに寄って可能な限り情報を集めてから宿に戻る」


「あ、勿論、昨日の宿よね!? 今日は節約するために別の宿にするとか言い出したり……」


「しない。宿と温泉の効果は実証されている。明日も過酷な冒険になるのなら、それは必要な『経費』だ。そもそも、今日の代金は既に払ってある」


「そうよね! 温泉に入らないと回復しないわよね!」


 急に上機嫌になったナギを横目に、そのまま冒険者ギルドへと足を向ける。


 ギルドに入り、受付のカウンターへ向かうと、すっかり見慣れた受付嬢が、目を丸くしてこちらに視線を向けた。


「あれ? カインさん、もういらっしゃったんですか? 先ほどお預かりした黒鉄兵の素材の査定でしたら、まだお時間が掛かりますが……」


 つい先ほど膨大な素材の山を預けて出たばかりで、もう戻ってくるとは思わなかったのだろう。俺は首を横に振った。


「いや、査定の催促ではない。借りていた見取り図の返却だ。それと、別件で聞きたいことがある」


「あ、なるほど。お返しいただきありがとうございます。……別件の用件とは、何でしょうか?」


 受付嬢は納得したように見取り図を受け取り、プロとしてすぐに事務的な対応へと切り替えた。


「明日は『双極の断層』へ向かう予定だ。そこへ至るルートと、断層内部の地形図を見せてほしい」


「双極の断層、ですか……? かしこまりました。資料をお持ちします」


 嬢は奥の資料室から分厚い革張りの地図を広げた。


「ここから南東、グラシュティア山脈の端を抜けた先になります。……断層内部は巨大な谷のような構造ですが、片側の絶壁はマグマの熱を受けても決して溶けない『万年氷』に覆われています」


「冷気を孕んだマナの影響か」


「はい。グラシュティア山脈全域の冷気が、最終的に流れ着き凝縮される終着点なんです。そして、その極寒のマナと、底面や対岸のマグマ脈から溢れる炎のマナが直接激突し、互いを相殺し合っているため……内部は常に猛烈な上昇気流と異常な温度変化が吹き荒れる、途轍もない環境となっています」


 地図上の等高線と記号を視覚情報として脳内に刻み込みながら、俺は次の問いを重ねる。


「……分かった。それと、断層に出現する魔物について、ギルドの記録にある生態と分布を全て教えてくれ」


「はい。内部に進むにつれ種類は絞られますが、特に討伐難度が高く厄介とされているのが二体です。双属性の魔生物……『双極粘体バイポーラ・スライム』と、異常な硬度の外殻を持つ『鍛殻の獄蠍フォージ・スコーピオン』です」


「……事前情報と一致するな。詳細を」


「スライムは中腹の境界域に生息し、その特性上、物理攻撃を無効化します。魔法も炎や氷は、ほぼ効果がありません。蠍は最深部を巣にしており、周囲の鉱石を取り込んで外殻を形成するため、並の武器では全く歯が立たない硬度を持っているそうです」


 嬢の言葉に、俺は短く頷く。


「分かった。……ついでに、その二体に限らず『双極の断層』に関わる討伐や採取の依頼はあるか? 遭遇できず未達成に終わった場合、違約金が発生しないものに限るが」


「依頼自体は多数ありますが……滅多に人が立ち入らない危険地帯ですので、期限や違約金の存在するものはありません」


「なら、対象となる依頼は全て受けておく」


「かしこまりました。直ちに手続きをいたします。……本日の討伐報酬と併せて、明日の朝には全てご用意しておきますね」


「頼む。では、明日の朝に」


 全ての段取りを整えた俺たちはギルドを後にし、夕暮れの迫る職人街を真っ直ぐに抜けていく。そうして、前日から滞在している『鋼の蹄亭』へと、再び舞い戻ったのだった。


この度は、私の作品を読んで頂きありがとうございます!

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