相反するモノ
旧第三採掘場を後にした俺たちは、そのまま街の冒険者ギルドへと足を運んだ。
ギルドに足を踏み入れた途端、周囲の冒険者たちが物珍しそうな視線を向けてくる。
……無理もないだろう。防具に覆われていない部分の俺の服は、黒鉄兵が放った尋常ではない熱波によってあちこちが焦げ、酷い硫黄と煤の臭いを漂わせていたからだ。
窓口のカウンターへ向かうと、そこには今朝、俺たちに黒鉄兵討伐の依頼を斡旋してくれた、金糸の髪を持つ受付嬢がいた。
彼女は俺たちの焦げ付いた無惨な姿を認めると、慌てて立ち上がった。
「カインさんたち! そ、そのお姿……っ! やっぱり、いくら氷の巨人を倒したお二人でも、あの異常個体は厳しかったですか……!? すぐにお怪我の手当てを!」
昨日、氷の巨人を持ち込んだ俺たちだ。ギルドも相応の評価をしているのだろう。
それでも、俺たちの姿を見て、あの異常個体相手では分が悪く、手痛い反撃を受けて撤退してきた……そう判断したに違いない。
俺は怪我の手当てのために職員を呼ぼうとする彼女を制し、淡々と事実だけを告げた。
「いや。倒してきた」
「……えっ?」
受付嬢の動きが、ピタリと止まる。
「依頼は完了だ」
「えぇ……? あ、あの異常個体を、もう……!? あ、いや、まずはとにかく。お怪我の治療を……」
「怪我はない。……軽い火傷程度はあるが、低級ポーションで回復可能な、軽微なものだ。それよりも、査定と討伐証明の確認を頼みたい」
「そ、そうなんですね、それは良かったです! 取り敢えず、査定と討伐の確認ですね!」
半ばパニックに陥った様子の受付嬢に案内され、俺たちはギルドの奥にある広い査定所へと通された。
そこには、昨日俺に旧第三採掘場へは近づくなと忠告したベテランの査定係の男が待機していた。
「おお、あんたらか……討伐依頼を受けたとは聞いていたが、その姿じゃあ、随分手酷くヤラれたみたいじゃないか。だから、昨日あれほど近づくなと忠告したってのに」
俺のボロボロの姿を見た査定係が、呆れたようにため息をつく。
俺は先ほどと同じように、淡々と言葉を返した。
「いや。だから、倒してきたと言っている」
「……は?」
怪訝な顔をする査定係の男の前で、俺は無言のままマジックバッグの中身を解放した。
――ズドドドドォォォンッ!!
重厚な金属音が鳴り響き、作業台の上、そして床にまで、莫大な質量の魔金属が山のように積み上がる。
元は四メートルに達する巨体だ。マジックバッグから解放されたその素材たちは、その規格外の物量と重量による主張を始め、査定係と受付嬢に衝撃を与えた。
「お、おいおい……こりゃあ凄い量だな。それに、ただのゴーレムの鉄じゃない。強い魔力を帯びて、全てが魔石に近い状態になってやがる」
「ああ、色々と手を尽くした結果だ。だが、これだけの量は俺たちには必要ない。大半は買い取ってくれ。……ただし」
俺は鉄の山の中から、二つの部位を選び出して手元に引き寄せた。
「この『吸魔の赫鉱』と完全に一体化したコアの破片。それと、半魔石化した装甲の一部。この二つだけは手元に残す」
コアの破片は砕かれた今もなお、周囲のマナを吸い寄せようとする特性を残していた。そして装甲の残骸も、特殊な魔金属化している。
これらは間違いなく、使い道がある。
「なるほど、良い目利きだ。……よし、この二つ以外は全てギルドで引き取ろう。少し量が多い、査定の計算に時間が掛かるが構わないか?」
「ああ、問題ない」
査定係が手際よく鉄くずの分類と計量を始めるのを横目に、俺は傍らに立つ受付嬢へ視線を向けた。
「この街は、やはり鍛冶が盛んなのか?」
「それはもう! この国の鍛冶の中心と言って過言じゃありませんよ! まぁ、鍛冶に特化しすぎてて、ほかの分野はイマイチですけど……」
受付嬢は苦笑しながらも、誇らしげに答える。
「そうか……。あんたの見立てで構わない。一番腕の良い職人は分かるか?」
「私が直接お世話になっている訳ではないですが……。冒険者の皆さんからは、ガルドさんの名前が挙がる事は多いですね。……あと、ドルンというドワーフの職人さんが、ちょっと変わり者だけど、腕はピカイチだって聞いたことあります」
「ドルン……なんか、どっかで聞いたことあるような名前ね……」
横で聞いていたナギが、首を傾げながら呟いた。
「……場所は分かるか?」
「ええっと、少々お待ち下さい……」
そう言いながら、彼女は腰のポーチから一枚の紙を取り出す。
「これが街の見取り図で、ここがガルドさんのお店ですね。コッチがドルンさんのお店です。……よければそのまま見取り図、お貸し致しますよ。後で、依頼報酬と素材の買い取り費用を取りにいらした時にお返しいただければ大丈夫です」
「助かる」
俺は借りた見取り図を片手に、ナギと共に査定所を後にした。
◇ ◇ ◇
「鍛冶屋なんて聞いてどうするの? 剣も防具も、別に傷んでないでしょう?」
「……剣が変容したせいで、形が鞘に合っていない。この剣に合わせた鞘を作る必要がある」
「なるほど……剣のマナのせいで、鞘が凍っちゃってるものね」
「ああ……特殊な機構が必要になる。それに応えられる職人の腕もな」
まずは、冒険者からの評判が良いというガルドの工房へと足を運んだ。
店内には実戦を想定した手堅い武具が並んでおり、確かな技術が見て取れた。良い店であり、品揃えも申し分ない。
だが、俺は店内を軽く見回しただけで、そのまま退店した。
「いいの? 品揃えも悪くないし、腕は良さそうよ」
「ああ。だが、作品の殆どは汎用性という部分に重きを置いているようだ。勿論、依頼をすれば相応の物を作ってくれる可能性はあるが……。もう一人の作品と見比べてからでも遅くない」
俺の言葉に、ナギも「確かに」と頷いた。
そうして、見取り図を頼りに、路地裏の少し入り組んだ場所にあるドルンの工房へと向かう。
古びた木の扉を押し開けると、むせ返るような鉄と煤の匂いが漂ってきた。
「……いらっしゃい。冷やかしか?」
奥から姿を現したのは、筋骨隆々のドワーフだった。
だが、その顔を見た瞬間、ナギが素っ頓狂な声を上げた。
「ええっ!? ドナン!?」
ナギが驚愕した要因……それは、バラムの街にいた、変わり者のドワーフと瓜二つの男が、目の前に立っていたからだった。
「あぁん? お前ら、あのバカ兄貴の知り合いかぁ?」
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