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付与術喰らいの付与術師〜絶望の先、至高の収穫  作者: かおもじ


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灼熱の坑道《中編》

 俺たちは封鎖されたバリケードを越え、薄暗い坑道をしばらく進む。

 入り口付近はまだ採掘場としての面影を残していたが、深く潜るにつれて、次第に肌を刺すような熱気と硫黄の臭いが強くなってきた。


「……ただでさえ外は暑かったのに、中はもっと酷いわね……。奥に進むにつれて、息をするだけで肺が焼けそうになってくるわ……」


 額から噴き出す汗を手の甲で拭いながら、ナギが荒い息を吐く。

 放棄され、人の手による換気も行き届かなくなった坑道の奥底には、外の陽気とは次元の違う熱気が淀んでいた。ひび割れた岩の裂け目からは、時折白い蒸気すら噴き出している。


「案内図にあった通り、この奥はマグマ脈が近いのだろう。……この環境だ、耐熱性を持った魔物が居座っていてもおかしくない。警戒しろ」


「分かってるわよ。……噂をすれば、あそこに三匹よ」


 俺の推測を裏付けるように、ナギが前方の岩陰を杖の先で示した。


 そこにいたのは、赤黒い岩の鱗を持つ『フレアリザード』だ。こちらに気づいた三匹が、岩を削るような咆哮を上げて突進してきた。


「ナギ、お前は動くな。魔力を温存しろ」


 俺は一歩前に出ると、抜剣すら省略し、腰の魔剣を鞘に収まったままの状態で、突進してくる先頭のフレアリザードの懐へと滑り込んだ。


 ――ガンッ!


 巨人から奪った圧倒的な膂力。それを剣先に乗せ、鞘の柄頭でリザードの眉間を正確に打ち据える。脳を揺らされ、硬直したトカゲの顎を下から蹴り上げると、首の骨が折れる鈍い音が響いた。


 返す刀の勢いのまま、左右から迫る残りの二匹の首筋へ、鞘に収まったままの魔剣の平を叩きつける。鉄塊を叩きつけたような凄まじい衝撃波が走り、リザードの巨体は岩壁へと叩きつけられ、ピクピクと痙攣した後に動かなくなった。


 放たれた衝撃波によって僅かに周囲の塵が舞うが、俺は呼吸を乱すこともなく、魔剣を元の位置に戻す。


「それが、巨人から得た『力』ね……」


 後ろで見ていたナギが、呆れたように、しかし安堵した様子で息を吐いた。


「ああ……。だが、これでも、身体に負担が掛からないように、半分以下の力しか出せていない」


「今ので半分以下……!? 力だけなら、もう上位冒険者並みなんじゃない?」


「そうだな……。とはいえ、上位と一括りで言っても実力はピンキリだ。最上位ともなれば、今の俺の力ですら遥かに及ばないだろう」


「巨人の力を『喰った』ご主人様より筋力あるとか、それもう人間じゃないわよ……」


「……やつらは、真の『怪物』だ。だからこそ、目指すべき価値がある」


 俺の言葉に、ナギは呆れたように小さく肩を竦めた。だが、その口元にはどこか嬉しそうな、微かな笑みが浮かんでいる。


「……前に言っちゃったものね。何処までも付き合ってあげるわよ」


「……ああ」


 俺が短く返すと、ナギは少しだけ誇らしげに杖を握り直した。


 その確かな足音を背後に感じながら、俺たちはさらに奥へと進む。


 やがて、かつては大型のトロッコや荷獣が頻繁に行き交っていたのだろう、岩盤が滑らかに削られた巨大なドーム状の採掘跡地が目前に広がった。


 ◇ ◇ ◇


「……ねぇ、アレじゃない? 色は真っ赤だし、黒鉄アイアンって感じじゃないけど」


 ナギが息を呑む音が響く。

 広場の中心に、それは鎮座していた。


 全高およそ四メートル。全身を覆う装甲のうち、四肢の末端こそ鈍い黒光りを見せているが、胸部の中枢コアから胴体全体にかけては、まるでマグマを内包しているかのように赤熱した光を放ち、尋常ではない熱気が周囲に立ち込めていた。


「……あの異常な熱量と赤光、ただの火炎鉱石じゃないな」


 俺は坑道の地形と敵の配置を素早く視界に収めながら、ギルドで得た『特殊な鉱床』という言葉と目の前の現象を照らし合わせる。


「あれは恐らく『吸魔の赫鉱かっこう』と呼ばれる希少鉱だ。外部からの物理的な衝撃や魔力を吸収し、内部で熱エネルギーへと変換する性質を持つ。……採掘時の発破の衝撃を吸って暴走し、ゴーレムと融合したんだろう」


 そこまで分析を終えると、俺は物陰に身を潜めたまま、低く囁いた。


「……一旦引くぞ。足音を殺せ」


「え? 戦わないの?」


「相手の特性が推測通りなら、俺の剣との相性は最悪だ。先に退路の通路に迎撃の罠を構築しておく」


 そうして、俺たちはそのまま気配を絶ち、少し離れた通路まで引き下がるのだった。



 ◇ ◇ ◇



「まず、通路の中央に土魔法で深い落とし穴を穿て。底には錬金強酸の瓶を敷き詰める」


「あんなデカブツに、効くのかしら……?」


「多少でも傷が付けばそれでいい。……次に、穴の底に削岩用の発破樽を二つ仕込め。そして真上の天井には、残りの一つを固定しろ」


「えっ、底にも?」


「ああ。マナを用いた魔法も、中途半端な物理攻撃も効かないからな。純粋な火薬の爆発力に頼る。……最後に、穴の縁に極太の鋼線を張り巡らせる。奴が踏み込んだ瞬間に鋼線で足を絡めとり、確実に穴の底へ落とす。強酸を浴びたところへ底の樽を起爆し、さらに天井からの発破で大量の岩盤を崩して完全に押し潰す」


「結局、爆破するんじゃない……しかも上下から念入りに」


「想像よりも坑道が広かったからな。状況に合わせて手を変えるのは、戦術の基本だ」


「はいはい。……発破樽の起爆は私の魔法でやるのね。了解よ。……って、ご主人様?」


 俺が来た道を振り返り、一人で歩き出そうとするのを見て、ナギが怪訝そうに首を傾げた。


「設置は任せる」


「えっ、ちょっと……何処行くのよ?」


「仕込みだ」


 抗議の声を背に受けながら、俺は足早にその場を離れた。

 向かったのは、先ほど三匹のフレアリザードを始末し、安全を確保した少し開けたエリア。俺はそこで『ある念入りな作業』をこなし、再びナギの待つ通路へと帰還した。


 俺が戻った時には、ナギは罠の構築を完璧に終えていた。


「……で? 何処行ってたのよ?」


 腰に手を当ててジト目を向けてくるナギに、俺は一切の表情を変えずに答える。


「仕込みだ」


「……」


 俺の短すぎる返答に、ナギは呆れたように大きなため息を吐いた。


「はぁ、もういいわ。……準備は良いのね?」


「ああ。……行くぞ」


 仕掛けを終えた俺たちは、再び静かに歩みを進め、微睡むように沈黙する巨大な鉄塊への距離を詰める。

 一定の距離に達した瞬間、黒鉄兵が重低音の駆動音を鳴らしてゆっくりと立ち上がった。


『ゴォォォォォォッ……!!』


 鉄が軋むような咆哮。圧倒的な質量がこちらへ向き直り、地響きを立てて突進してくる。

 俺は真っ向から迎え撃つように地を蹴り、奴の懐へと滑り込んだ。振り下ろされる丸太のような鉄腕を紙一重で躱し、抜剣と同時に『氷の魔剣』の絶対零度の冷気を黒鉄の胴体へと叩き込む。


 ――だが。


「……ッ」


 魔剣の刃が触れた瞬間、凍りつくよりも早く、ジュゥゥゥッという激しい音と共に猛烈な水蒸気が噴き上がった。

 魔剣に込められた莫大なマナが、『吸魔の赫鉱』によって急激に吸収され、逆に黒鉄兵の熱量をさらに引き上げる燃料と化してしまったのだ。


 俺は即座に刃を返し、装甲の薄い関節部や膝裏を狙って立て続けに数撃を見舞う。だが、どれだけ冷気を叩き込んでも、氷結する端から一瞬で莫大な熱に変換されて蒸発してしまう。


「コア以外でも関係なし……完全に鉱石と同化しているな」


『ガガォォォォッ!』


 さらに熱を帯びた裏拳が薙ぎ払われる。俺は咄嗟に剣を盾にして威力を殺し、後方へと大きく跳躍した。


「ご主人様、氷が効いてないわよ!?」


「……やはり、最悪の形で噛み合ったな。事前情報の通り物理的な攻撃は効かず、冷やす速度よりもマナの吸収スピードの方が上回っている。……ナギ、後退だ。罠を張った通路へ誘い込む!」


 俺の指示に、ナギが罠を張った通路の奥へと走る。

 俺はわざと足音を立てて挑発し、迫り来る黒鉄兵を通路へと引き込んだ。


 土魔法で巧妙に偽装された落とし穴。

 その縁へ差し掛かった黒鉄兵の脚部に、岩盤に固定した罠――極太の鋼線が絡みつく。

 ピンッと張り詰められた鋼線が、奴の異常な推進力をガツンと受け止めた直後、その圧倒的な自重と相まって足元の地盤が崩落した。


『ギガァッ!?』


 バランスを崩した巨体が、深い穴の底へと落下する。同時に、敷き詰められていた錬金強酸の瓶が砕け散り、濃緑色の液体が装甲に浴びせられた。


「今だ、やれ!」


 俺の合図と同時。穴の底でもがく黒鉄兵へ向け、ナギが起爆の魔法を放つ。


 ――ドゴォォォォォンッ!!


 穴の底の二つと、天井の一つの発破樽。上下から挟み込むような凄まじい連鎖爆発が坑道を激しく揺らし、天井から崩れ落ちた大量の岩盤が黒鉄兵の巨体を穴の底で土煙の中に生き埋めにした。


「……やったの?」


 その言葉の直後、ドォンッ、と内側から岩盤が吹き飛ばされ、黒鉄兵が姿を現す。


 全身に浴びた強酸は、異常な熱量によってほとんどが蒸発したのか、薄っすらと表面に傷を付けただけだ。

 加えて、圧殺を狙った落石と、火薬による凄まじい爆発の衝撃すらも熱へと変換吸収し、胸部のコアは先ほどよりもさらに禍々しい赤光を放ち、周囲の空気を陽炎のように歪ませている。


 俺が仕込んだ手札は、悉く打ち破られた形だ。


「ご主人様……罠が、全部……!」


 パニックになりかけるナギの声が、空しく響く。

 仕掛けた罠すらも食らい尽くし、さらなる熱と質量を帯びた絶望の鉄塊が、赤く爛れた装甲を軋ませながら俺たちを見下ろしていた。


この度は、私の作品を読んで頂きありがとうございます!

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