第三十九話 無限ボックス
サラ姫はフェニィから降りるとマリアとアリスの前に立ち、問いかける。
「マリア、ユーヤは居らぬのか?」
だが質問されたマリアはアリスと顔を見あってから気まずそうに返事をした。
「……えっっと、ちょっと別行動してまして……、ねっ、アリス」
「そ、そうそう。今は一緒じゃなくって、たぶんどっか違うところにいるかも……です」
「別行動しておるのか?」
「はい。と、ところで姫様はなぜこちらに?」
アリスは話を逸らすように、わたわたとサラ姫に突然現れた理由を聞いた。
「うむ。今日、わらわたちは再度遺跡に入って探索してきたのじゃ。ほれ、魔獣騒ぎで最下層の探索がまだじゃったから、今日してきた。その帰りじゃ」
「遺跡に……? どうしてですか?」
マリアの疑問はもっともだろう。頑なに勇也には遺跡の探索を拒否しておいて、レーザーブレイドを没収した途端に王国は再調査などをしているのだから。
アリスも怪訝な表情をしている。サラ姫が口を開く。
「……うむ、話せば長くなるが……」
だが今はいきさつを知らない精霊が側にいる。セーレがサラ姫に話しかけた。
「ねぇねぇ、キミもユーヤを知ってるの? ボクたちこれからユーヤのところに戻るん……むぐっ!」
マリアとアリスが大慌てでセーレの口を押さえる。今は王国には勇也の居場所を知られたくないのだ。
「わああああああ!! セーレってば姫様になんて口を!!」
「な、なんでもないです! 私たちも他に行くとこがあって!」
だがサラ姫はとくに気にした風でもなくあっさりと流し、自分の意見を伝えるのだった。
「……そんなことよりもいろいろと話を聞かせて欲しい。もうじき騎士団が追いついてくる。その前に聞きたい」
騎士団が来ると厄介だと思うのはサラ姫だけでなく、マリアたちも同じである。サラ姫の態度から時間が少ない事を察したマリアが答えた。
「姫様、聞きたい事って……。ユーヤの居場所ですか……?」
「……マリア、姫様なら教えてもいいんじゃない?」
「ほう、教えてくれるのか?」
アリスがマリアに提案する。だがマリアは考え込んでいた。そのマリアの表情を見たサラ姫が呟く。
「まあ、教えたくないじゃろうな。わらわはユーヤに嫌われただろうし……」
寂しそうに呟くサラ姫だったが、マリアはそういうことではないと否定する。
「……いえ、教えたくないとかでなく、姫様が内緒にしてくださるのなら教えてもいいのですが、場所の説明が難しいといいますか……ねえ、アリス?」
急にふられたアリスが驚く。
「えっ!? あ、そういうこと? あー、確かに、あそこなんて言ったらいいんだろ? ね、セーレ」
実際、大森林の抜け道を通った先の古代樹の元へいくには説明がしにくい。入り口にはっきりとした目印があるわけでもなく、マリアたちも勇也について行っただけなのでよく覚えていなかった。
実はマリアたちも神樹の加護を受けているため、入り口が見えるのであるが本人たちはまだ気付いていない。
ちなみに精霊であるセーレは普通に入り口は見える。
話をふられたセーレは、元サーベルタイガーをなでながら答える。
「ん? キミも古代樹の場所にいきたいの? どれどれ……」
そういいながらセーレはサラ姫の目を覗き込もうとする。
だがサラ姫は戸惑い、マリアに助けを求めた。
「そ、そうじゃ、マリア。この娘の事も聞きたい……。なにやら羽が生えておるようじゃが……」
「え……? ああーっ!」
「げっ! バレちゃった!」
セーレの羽は隠されておらず、今更言い訳できないレベルで解放されている。マリアはこの際正直に言う事に決めた。
「えーっと。なんかユーヤと一緒にだいふくもちにアムリタとかあげたらこうなって……。……つまり精霊です!」
「せ、精霊じゃと……。やはり、先程の……いたっ!」
「こっちむいて!」
マリアの良くわからない説明の中、精霊という単語に驚くサラ姫であったが、先程のセーレの行動を一部始終見ていたため、納得したような顔を見せた。
その瞬間にセーレはぐりんと強引にサラ姫の首をひねり、目を覗き込む。騎士団がいたら発狂するほどの不敬罪であるが、精霊はお構い無しであった。
「……うーん、これはまた……」
目を覗き込まれたサラ姫は、セーレの目の色が金色に変化し、身体が淡く発光するのを見て動きを止める。
サラ姫は小声で呟くのがやっとだった。
「な、なん……」
サラ姫の目を覗き込んだと思ったら、今度は匂いをくんくん嗅ぎ始めるセーレ。
マリアとアリス、そして元サーベルタイガーの二匹と韋駄鳥フェニィも二人を見つめる。
やがてふっ……とセーレの体が元に戻る。終わったのだろう。そしてセーレがサラ姫に言った。
「……キミのマナは馬鹿みたいに真っ直ぐだね。うん。いいよ。キミも招待してあげる」
セーレはサラ姫にそう告げると、今度はフェニィへ近づき声を掛けた。
「キミの名前は?」
「くるる~」
「フェニィだね。こんにちは。ボクはだいふくも……セーレだよ。キミがあの娘を連れてきてあげてね。たぶん迷うと思うから……」
「くるる……」
神妙にうなずくフェニィ。それを見たサラ姫は会話が成立しているのに驚き、やはり精霊なのだと納得する。
そしてなにかを思い出したかのようにマリアに質問した。
「そ、そうじゃ。もう一つ聞きたい。先程見たが、さっきアリスは一体何をしたんじゃ? そこにおるのは倒したはずのサーベルタイガー……じゃろ? なにか光って生き返ったようにみえ……、んん~? それにしては姿が違うのう……」
首を傾げるサラ姫に対し、アリスが頬をかきながら答える。言っていいものか迷ったが、もうサラ姫にはバレている様子なので正直に話す事にした。
「えーと……、まあ、これは奇跡の薬を与えただけでして……。そしたらなんかおとなしく……ねっ?」
「ぐうるる……」
「き、奇跡の薬……じゃと……?」
アリスはそうサラ姫に説明すると、サラ姫は驚くでもなく呆然とする。
サラ姫の視線の先にはアリスに気恥ずかしそうに懐いている元サーベルタイガーがおり、二匹とも立ち去らずに懐いていた。
アリスはひょっとすると元サーベルタイガーの二匹が一緒についてくる気なのではないだろうかとふと思い、セーレに聞いてみる。
「ねぇ、セーレ。この二人、あたしたちについて来るのかな?」
「ん? 二人とも一緒に来る?」
「「がうっ!!」」
どうやら返事は『もちろん!!』らしい。
たしかにセーレに許されたとはいえ、ここの林の生物たちとは気まずいかもしれない。なによりまだサーベルタイガー状態の同胞もいるだろう。大森林に連れて行ったほうが安全だろうとアリスは思った。
「じゃあ、名前付けないとね」
アリスの一言にすぐさまマリアが反応する。
「もう決めてる。雄が『サベル』。雌が『タイガ』。どう?」
「はやっ! でも意外にいい名前なのがちょっとびっくり。さてはマリア……、もともと連れてく気だったんでしょ?」
「もちろん」
「がうるるる~」
名前が気に入ったのか二匹ともマリアに頬ずりしている。マリアの顔つきはとてもやさしい。
セーレが二匹に言った。
「二人とも古代樹の元へ来るってことでいいね。じゃあ、みんなで一緒に帰ろう」
「「がうっ!!」」
うれしそうに返事をするサベルとタイガ。
ふと顔を上げたマリアが未だに呆けた顔をしているサラ姫に気付く。
「ひ、姫様?」
「……奇跡の、奇跡の薬を……なぜ魔獣に……あっさり……与え……」
サラ姫がぶつぶつ言っていると、砂煙が遺跡の方向から沸いてくる。騎士団が追いついてきたのだろう。サラ姫は我に返った。
「おおう! そ、そうじゃ。最後にこれを……。ユーヤに渡してくれ。危うく忘れるところじゃったわ」
そう言ってサラ姫はかばんから『無限ボックス』を取り出し、そばにいたアリスに渡す。
「あっ! これユーヤが持っていたのに似てる!」
マリアもうなずいている。
「ホントだ。こっちのが大きいけど……、確かに似てるね。なんだろう?」
「うむ。わらわもユーヤが似たような物を持っていたのを思い出してな。気になったから調べようと遺跡から持ってきたのじゃ。折角そなたたちに会ったのだし、ユーヤだったら何かわかるじゃろう」
「大森林で直接渡せばよいのでは……?」
マリアはふと湧いた疑問を口にする。サラ姫は答えた。
「まあ、わらわも流石に今日明日は忙しくて抜けられん。いつそちらに行けるかはまだわからぬのじゃ。まさか今日そなたたちに会うとは思わなかったしのう。だから先に渡しておく。それとユーヤに伝えてくれ。相談したいことがあるから前みたいに黙って旅に出るなと!」
「ふふっ。はい。わかりました!」
マリアは笑顔で答える。サラ姫もうなずき、フェニィの方へ顔を向けると手招きをして呼ぶ。
「では、またな! 騎士団に説明するのは厄介じゃから。わらわはもう行く!」
サラ姫は颯爽とフェニィに跨り、マリアたちに手を振ると騎士団に向かって駆けて行く。
サラ姫が去ったのを見届けたアリスが声を掛ける。
「じゃあ、あたしたちも帰ろっか?」
「うん」
「きしゃあ! 帰ろう!」
「がううう」
こうして、一行は再び大森林への帰路に着く。
新しい仲間、サベルとタイガと共に。
(……寝具を買うのは今度でいいかな。疲れちゃったし、ユーヤも心配だし……)
マリアはそんな事を考えながら歩いていた。
次話あたりでひと段落できるようがんばります。




