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第四十話 これから……

 マリアたちが大森林の古代樹の元へ着いたのは夕方であった。


「ただいまー」


 元気良く挨拶をしたものの反応がない。もしや勇也がいなくなったのかとマリアたちは慌てて周囲を見回す。


「――zzz……」


 すると古代樹のふもとに絶賛爆睡中の勇也がおり、彼の周囲にはこれまた大量の回復アイテムが揃っていた。それを見て帰宅早々一同呆れ返る。


「……うわぁ。ヒールパウダーてんこ盛りに、アムリタの池。エリクサーまであるし……。余程暇だったのね……」


「きしゃあ……。こんなに飲めないよう……」


「いや、みんなのだから……」


 アリスが呆れ気味につっ込むが、セーレは味見したがっているようだ。仕草がそわそわしている。マリアがセーレに言った。


「一杯くらいならいいんじゃない? 私もなんか疲れちゃった……」


「あたしもお腹すいたな~」


「きしゃあ~、アムリタ飲む~!」


 セーレは木の器になみなみと注がれていたアムリタを水筒に移し、おもむろに羽を広げ、水筒を持って古代樹の上へと飛んでいった。


「みんな~、おやすみ~。ユーヤが起きたら呼んでね~!」


 セーレはまだ成体になったばかりであり、初めての外界への旅で羽を隠していたため、窮屈な思いをしていたのだろう。

 やはり相当疲れがたまっていたらしい。そそくさと眠りに行ってしまった。


 だが、マリアたちはそのことを知っているため手を振って見送り、自分たちは購入した商品が詰まった圧縮ソケットをかばんから取り出して地面に並べる。


 アリスが『コメ』の詰まった圧縮ソケットを見てマリアに提案した。


「ねぇ、マりア。早速買ってきた『コメ』を食べてみない?」


「じゃあ、私たちもごはんにしよっか……。でもその前に……」


 マリアが圧縮ソケットを解放し、大量の購入品を広げ、荷物の確認をする。

 そこには買ったばかりの調理器具もあり、これを使って料理しようと考えたのであった。


「いままでは焼いただけだったもんね」


「うん、これで茹でたりできるし、さっそく『コメ』を茹でよっか」


「他におかずになりそうなものはないかな……」


 アリスは周囲を見回してみたが、残念ながら特に食べられそうなものは見当たらなかった。


「げっ、なにもない……。マリア、どうしよっか?」


「えっ、あっ本当だ! ……もしかして、ユーヤは食べてない……のかな?」


「…あ~、ありそう……。これだけ回復アイテムがあるってことは……、やっぱり……」


「……はあ。やっぱり早めに帰ってきて正解だったみたい……」

 

 マリアとアリスは勇也が以前も飲まず食わずで武器作成をしていた事を思い出し、さもありなんと納得する。しかし、納得したところで食料が得られるわけでもなく、二人は途方に暮れてしまった。そこへ、


「ぐるるる……」


「あっ……」


 サベルとタイガが行儀良くお座りしており、アリスはこの二匹の食事の心配もしなければならないことに気付く。


「そっか、ふたりのごはんも考えないと……」


「うーん、やっぱり肉とかがいいんだろうね……」


 アリスが腕を組んで考えていると、サベルとタイガが前足でアリスをぽんぽんと叩いたあと、森の奥へと入っていこうと歩き出した。二匹のウェアタイガーはいちどアリスの方を向き、うなずいて奥へと消えていく。

 それを見たマリアが呟く。


「もしかして狩りにいくのかも……」


「……なるほど! 確かにここならプチボアもベア・ボアもいるもんね!」


 二人は新しい仲間に食材の調達を任せ、自分たちは『コメ』を茹でる準備を始める。


「神樹の小枝に火をつけて、神樹のしずくで『コメ』を茹でる……」


「考えてみたら贅沢だよね」


 二人はお互いの顔を見合って笑いあう。それからしばらくして、調理中の匂いにつられたのか勇也が目を覚ます。


「……ん~、なんかいいにお……、って、マリア! いつのまに?」


「あっ! ユーヤ! おはよう!」


「あはは。ユーヤおはよう!」


「……やべ、朝になってたんか……」


 手を振るマリアたちを見て慌てて起きる勇也。

 勇也はまだ寝ぼけているようで、今が朝だと勘違いしているが、実際はまだ夜である。

 アリスが笑いながら言う。


「あはは。まだ夜だよ。あたしたちもさっき帰ってきたばっかりだよ。ほら、顔洗ってシャキッとしなさい! なーんてね!」


「お、おう……。てことはまだ二日目か。二人とも、随分早かったな……。あれ? なんか足りなくね?」


「足りない? ああ、セーレなら神樹さまの上で休んでるよ」


「セーレ……? ああ、大福餅か。あいつ旅は大丈夫だったんか?」


 自分でセーレと名付けておきながらすっかり元のあだ名を呼ぶ勇也にマリアは呆れるが、とりあえずスルーして話を進める。


「うん、そうそう。いろいろあって……」


 マリアが話を進めようとしたが、木陰からプチボアを銜えた大型の獣が二匹現れる。調達に行っていたサベルとタイガだ。


 だが勇也は二匹に会うのは初めてである。マリアとアリスを下がらせ、『ビームガトリングガン』を出そうとするが、生憎と神樹の下に置き忘れていた。


「しまった! 武器が! 二人とも……って、おい! あぶな!」


 だが、マリアとアリスの反応は違い、二匹に駆け寄っていた。


「おかえり! 二人とも!」


「大猟だった?」


「がうっ!」


 なぜか和んでいる二匹と二人に勇也は面食らう。呆けた勇也にアリスが声を掛ける。


「ユーヤ。新しい仲間のサベルとタイガだよ。雄がサベル。雌がタイガ。これからよろしくね」


「二人とも、この人があなたたちにあげた奇跡の薬を作った人よ。ちゃんと挨拶しないとダメ」


 マリアがサベルとタイガに躾けている。勇也は混乱したままであった。


「……さっぱりわからん。説明ぷりーず!」


「その前にご飯食べようよ。話すと長くなるからさ……」


「そういや、俺も腹減ったわ」


 アリスに言われ、お腹をさすって何も食べてなかった事を思い出す勇也。


「やっぱり……」


 やはりマリアの予想した通り勇也はのまず食わずで作業したらしい。マリアがやれやれと言った仕草をして、サベルとタイガが仕留めた二匹のプチボアを解体しにかかる。

 勇也はというと、サベルとタイガを見て危険はないと判断したのか匂いのする方向へと顔を向ける。そこには煮立て中の『コメ』が鍋の中で踊っている。


「おお、これって『コメ』じゃね? 買ってきてくれたんか! うほー!」


 大喜びする勇也に向かってアリスがへへーんと胸を張って話しかける。


「どうやって食べるかわからないから、とりあえず茹でてみたよ。どれぐらいの茹で時間がいいんだろ? もういいのかなぁ?」


「どれどれ? うーん、もういいみたいだけど、お湯が邪魔だな……」


 勇也の話を聞いてアリスが不思議そうな顔をする。勇也はアリスに説明した。


「ああ、俺たちの食べ方だと、ほんとは炊いて食べるんだ。確か地方によってはお湯を捨てて蒸らしてから食べるらしい。今回はそれかな? まあ、お湯があってもおかゆになっていいけど、俺はやっぱコメだけ食いたいな」


「へ~、そんな食べ方するんだ。じゃあ、布巾でふたしてお湯捨てよっか」


「それだ!」


 アリスが布巾をもう一つの鍋に用意し、勇也が鍋を火から下ろして布巾の上に茹で上がった『コメ』を流し込んだ。

 全ての『コメ』を布巾の上にあけると、勇也は空になった鍋に布巾毎『コメ』を移し、ふたをしてそのまま蒸らす。


「さて、これでよし。マリア。手伝うよ」


「うん。ありがとう」


 マリアの手元には器用に切り分けられたプチボアの変わり果てた姿がある。あまり血が無いのはサベルとタイガが一息にのど元を噛み切り、血を抜いたのだろうと推測できた。流石に狩りは得意なようだ。


「めんどくせえから塩焼きでいっか……」


「ガリク草ならそこにあるよ」


「おし、そいつも使おう」


 淡々と手際よく食事の準備が進んでいく。その間に勇也はちゃっかりとドリアードを呼び、食材を採ってくるように依頼もしている。


「おし、そろそろ焼くか。余った肉はそこの二匹にあげよう。じきに妖精さんも戻ってくるだろ」


「待ってました! 早く焼こうよ!」


 アリスが肉を火にかざし始めると、ドリアードたちが果物を持って帰ってきた。その匂いにつられたのかセーレも起きてくる。


 全員揃ったところで食事が始まり、勇也は『コメ』を口の中に肉と一緒にかっ込むと、


「うめえええええええええっ!」

  

 と夢中で食べていた。

 アリスは肉を頬張っており、セーレは普通に果物と一緒にアムリタを飲んでいて誰も会話せずむしゃむしゃと食べている。

 しばらくして静かに食べていたマリアが口を開く。


「ユーヤ。あの二匹の事だけど、説明するね……」


「ん? おお。そういえばどしたん? なんか仲良しだけどなにがあったんだ?」


「えーっと……」


「きしゃあ……」


 勇也の質問にアリスとセーレが顔を見合わせる。

 アリスはサーベルタイガー相手に腕試しをしようとしたこと、セーレは精霊の力を怒りに任せて発動したことからなんとなく気まずさを感じているのだ。

 勇也は出かける前に、「無事で帰ってくること」と「あまり目立たない事」をマリアたちにお願いしており、今回は結果的に無事なだけで、一つ間違えれば命に関わり、また精霊の存在が公になれば、大騒動になっていた可能性もあったといまさらながら思い出したからである。


「おいで」


 マリアがサベルとタイガに手招きすると、食事をやめてやってくる。そしておとなしくマリアの隣にお座りした。


「おおーっ! めっちゃ懐いてんじゃん! なんか初めて見る種族だなあ。虎っぽいけど猫っぽくもある……?」


 勇也の疑問にマリアが答える。


「ユーヤ。じつはこの子たちはサーベルタイガーだったの……」


「ファッ!? マジで!?」


 大口を開けて驚く勇也に、マリアはいきさつをかいつまんで説明する。まず襲われたこと、怪我したサーベルタイガーにエリクサーを使ったこと。そこにセーレが精霊の力を発動したことなど要所だけ説明し、余計な事は言わなかった。


「……というわけで、私たちは仲良しになったの」


「はぁ~。『浄化』ねぇ。そんな倒し方もあるんだなぁ……。俺がいたら瞬殺してただろうな。みんな、よくやったな! 殺さずに済むならそっちの方がいいもんな」


 勇也は話を聞き、目からウロコが落ちたようにうんうんと感心している。

 そんな勇也を見てマリアが最後に言葉を付け足す。


「……で、その場面をサラ姫様に全部見られてたの。ごめんなさい、気付かなくて……」


「な、なにいいいいいいっ! ……って、なんだ姫様か。あの子だったら別にいいか。でも姫様がなんでそんなとこいんの?」


 驚く勇也だったが、途中で思い直す。今更サラ姫にばれたところでどうということもない。

 アリスが勇也の質問に答えた。


「なんか、遺跡の再開発してたみたいだよ。ほら、途中だったんでしょ?」


「へぇ~、俺には許可しねぇクセに、王国もやってくれるねぇ……」


 再開発の話を聞いた途端にいやみを言い出す勇也。だが無理もないだろう。レーザーブレイドを没収された挙句、出入り禁止にされてすぐに再開発したのだから。

 そんな勇也をアリスがなだめる。


「まあまあ、そう怒んないでよ。姫様も今度説明しに来るみたいだし……。ねえ、セーレ。ここに呼んだんでしょ?」


「きしゃあ……。あの子なら来れるようにしといたよ」


 もぐもぐと果物を食べているセーレ。彼女が肉や魚はダメだと言う事がわかっただけでも今回の旅は良かったといえるだろう。


「あっ、そうだ!」


 何かを思い出したマリアが立ち上がり、がさごそとかばんを漁る。そして取り出した物を勇也に渡すのだった。


「ユーヤ、これ……。姫様がユーヤにって……」


「ん? タブレット?」


 アリスも横から口を挟む。


「そうそう。なんか遺跡の地下にあったからって。ユーヤも同じようなの持ってたからわかるんじゃないかって、姫様が言ってたよ。ユーヤわかる?」


「…………これ……まさか……」


「ユーヤ?」


 アリスが勇也に声を掛ける。だが勇也はずっとタブレットを見つめたままだった。


「……どうしたの?」


 マリアも声を掛ける。ようやく我に返った勇也はすぐに発電機を持ち出し、無線コネクタをタブレットにつなぐ。幸いにも充電が開始されたようで、勇也は胸をなでおろした。

 

 マリアとアリスが勇也にもう一度声を掛ける。


「ユーヤ。大丈夫? どしたのさ?」


「なにかわかったの?」


 勇也は二人に向き合って言った。


「これ、鑑定したら『商品管理タブレット』って出た。予想が正しければ……俺が一番欲しかったアイテムかもしれない……。だから充電待ちだ……」


 一番欲しかったと聞いてアリスが喜色だす。


「ホント? この間話してた、食べ物が腐らない箱でしょ? すごい! やったじゃん!」


「ああ、待ち遠しいぜ……」


「この石版にそんな力があるんだ……」


 マリアには単なる石版に見えても、鑑定した勇也にはしっかりと『無限ボックス』だとわかっている。それだけに起動できるかどうかで今後の展開ががらりと変わってくるため、勇也はかなり緊張した時間を過ごす事になる。


 そして、マリアやアリス。そしてセーレもサベル、タイガの二匹も寝静まった頃、充電が完了した。


「こ、これで……」


 勇也は逸る気持ちをおさえつつ無限ボックスを起動する。なぜかパスワード入力画面などはなく、初期化されていた。


「お、これ……いけるか!」


 設定をしつつホーム画面へと移行する。そこには既にインストールされた『商品管理』、『商品スキャン』、『商品出荷』などのソフトが目に入る。かなり地球のスマートフォンに似ており、勇也は迷うことなく設定を進めていく。


「まずは……スキャン……」


 勇也は商品スキャンのソフトを立ち上げると、撮影画面へと切り替わり、手ごろな果物をスキャンしてみる。


「……こうかな?」


 りんごににた果物を画面にあわせ、スキャンボタンを押すと、いきなり果物が消える。そこには……、


『アプルルの実(新鮮)× 1』


 と画面に表示されていた。 


「おお……、これは……」


 勇也は感激のあまり声が出ない。だがこれで終わりではない。まだまだ知りたい事があるのだと勇也は自分に言い聞かせる。


「じゃ、じゃあ……、この実を外に……」


 そう言って勇也は『商品出荷』ソフトを立ち上げると、ちゃんと『アプルルの実(新鮮)× 1』と表示されている。この実の部分に指をタップし、出荷ボタンを押した。だが……、


「あ、あれ? でてこねぇ……」


 勇也は首をかしげながらも画面を見ると、「出荷先を入力してください」の文字が見える。どうやら亜空間を通して登録地へワープさせる事が出来るようだ。勇也は詳しく画面を見ると『商品取り出し』ボタンがあったことに気付く。自分でもかなり焦っていたようだと苦笑した。


「今度は……っと」


 取り出しボタンを押すと目の前にちゃんと『アプルルの実(新鮮)× 1』が現れる。これで間違いなく使用できることがわかった。


「成功だああああああっ! ひゃっほおおおおおおぉぉおお!!」


 みんなが寝静まった夜に大騒ぎする勇也。当然みんなびっくりして起き出してきた。


「もう……、どうしたの?」


 マリアが目をこすりながら勇也に聞くと、勇也はがばっとマリアを抱きしめて叫ぶ。


「やった! やったぞマリア! これで気兼ねなく冒険できる! 俺はやっとほかの大陸にも行けるし、洞窟に篭る事が出来る! こんなにうれしいことはない!」


「も、もう……。おちついて……」


 そういいながらもしっかり抱きつくマリアだったが、勇也は構わず叫んだ。


「俺の異世界生活はこれからだぜぇえええ!!」


 古城勇也の本当の冒険が今始まる。  

これで第一章はおわりです。

第二章は今プロットまとめ中につき、今しばらくお待ちいただきたく思います。

ひょっとしたら新作に走るかもしれませんが未定です。

いずれにせよ少し時間を頂きます。

ここまで読んでいただいてありがとうございました。

今後ともよろしくお願いいたします。m(_ _)m

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