第三十七話 再会
短めです。
マリアたち一行は休憩した後で買い物をしていたが、大方の物は揃ったのでそろそろターミナへ出発しようと言う事になった。
「さて、じゃあユーヤのとこに戻ろっか?」
「もう出ないと遅くなっちゃうね」
忘れ物がないか確認をし、荷物を持って立ち上がったところ随分日が高く上っており、すでにお昼近くになっている。
「なんかお腹すいてきた……」
「練り物買って食べながらいこっか」
「きしゃあ……。あむりた飲みたい……」
セーレは肉や魚が苦手らしく、アムリタを要求する。勇也手製のアムリタシャワー(最高級品)を、である。
「うーん。アムリタは一応あるけど勿体無いから別のじゃダメ? あ~、でもタミールは野菜や果物は少ないからなあ……」
「まあ、なにかしらあるんじゃない?」
「きしゃあ……。ユーヤのあむりた飲みたいよう……」
がっかりと落ち込むセーレを見たマリアがやれやれとため息をついて言った。
「まあ、あげてもいいんじゃない? セーレも羽を隠して窮屈してるだろうし、慣れない長旅でストレスあるだろうしね。今後の旅の参考になると思うよ」
「うーん、かといってあれだけ飲まれるのもなあ……」
アリスが言っているのは勇也が酔いが抜けないくらいアムリタを飲ませた時、結局はほとんどセーレは飲み干していた事である。アリスは先日、セーレが幼生時代にあれだけアムリタを飲んだのを見ているので、自分たちの必要分が無くなるのではないかと言う懸念があるのだ。
だがセーレはぶんぶんと首を振って否定した。
「きしゃああ! あんなに飲めないよう……」
「え~、こないだ飲んでたじゃん?」
アリスは意外そうな顔をセーレに向けるが、すぐにセーレが反論する。
「無理だよ~。幼生のときは勇也と一緒に行くなんて思わなかったもん。できるだけ飲んでおこうと思っただけだよ~」
勇也がセーレを最初から連れて行こうとしていたことにはセーレは気付いていなかったらしい。だから無理して飲んだと言う。だが、結果として無理して飲んだおかげで成体になるのが早まり、成体で行動を共にする事になったのは偶然の賜物である。
「そうなの? じゃあこれで足りるかなあ?」
アリスが意外そうにしながら、セーレにアムリタを差し出すと、満足そうに受け取り、かわいらしく飲み始めた。
「……こく、……こく……ぷはぁ! おいしい~!」
うれしそうな顔をしたセーレを見たアリスは、自身もはらぺこである事を再確認したようで、マリアに声をかける。
「じゃ、マリア。あたしたちもなんか美味しい物買っていこっか?」
「そうしよう。さっき目を付けておいたところに行こうか?」
「マリア……い、いつのまに……」
驚くアリスを置いてすたすたと先を行くマリア。
こうして三人はマリアがすでに目をつけたらしい店で贅沢にも大トロの串焼きを買い、さらにはおにぎりを買いだめして、それを食べながら街をでる。
しばらく歩き、休憩を挟み、またしばらく歩きと大分進んできた。
特に魔獣と戦闘になることも無く道を行き、気が付けば山岳地帯を抜け、周囲には林や草原が多く目に付いてくる。
時間にして大体午後3時くらいになった頃であろうか。あと1時間ほど歩けばターミナが見えて来る距離だ。
だがそこで思わぬ魔獣と遭遇する。林から顔をのぞかせた魔獣と目が合い、一行は足を止めた。
「……っ!」
「……さ、サーベルタイガー……」
「きしゃあ……。けだものだ~」
セーレがひとりだけのん気な口調で、驚いたんだか驚いてないんだかわからなかったが、双子の二人は出会いがしらに敵意をむき出しにする。
マリアが素早くコスモガンを取り出し、のそりと林から出てきたサーベルタイガーに照準を合わせる。
だがアリスはマリアを制し、不敵な笑みを浮かべながら提案する。
「マリア、待って。あたしたちも神樹さまの加護を貰ってるし、ここで試してみたくない?」
「何を言っているの? アリス、いくら加護を受けててもサーベルタイガーの攻撃を一撃でも受けたら私たちなんか簡単に殺されるよ。セーレだって守りながら戦うんだし……」
「だから二人交互に撃ち合う ”もぐらたたき” するんだってば! 魔法が弾かれたらすぐコスモガンでいいからさ。試してみようって!」
マリアは反対するが、アリスは食い下がる。
ちなみにマリアが反対なのは時間をかけるのが嫌なだけである。二人がコスモガンを斉射すればすぐにサーベルタイガーを倒せるのだ。
そもそもマリアはアリスのわざわざ不利になるような提案に難色を示したが、コスモガンを撃ってさっさと終わらせたいだけで、もともと戦う気は満々であった。
そして神樹の加護を受けたのはマリアも同じであり、さらに勇也手製のコスモガンを装備して負けるとは微塵も考えていない。
(まあ、一回くらい魔法攻撃を試してみるのもいいかもしれないかな……)
――と思い直す。そして同時にサーベルタイガーが吼える。
「グオォオオオーーーーッ!!」
戦闘が開始された。
「じゃあ、いつも通りに行くよ!」
「ん、挟むよ! セーレは下がってて!」
飛び掛るサーベルタイガーをバックステップでかわし、アリスは体勢を整える。
「アクアスラッシュ!」
そのスキに背後に回りこんでいたマリアが魔法をサーベルタイガーに向けて放つ。
――バシャッ!
「ギャンッ!」
サーベルタイガーの持つ二枚の魔法障壁を破り、臀部にダメージを与える事に成功したマリアは距離を保ちつつ死角に回り込もうとする。
攻撃を受けたサーベルタイガーは思わぬ攻撃力を持った少女の方に警戒を向けると、正面にいた同じ顔の少女から攻撃が放たれた。
「ドリルサイクロン!」
アリスは回り込みながら風魔法を放つ。もちろん手製の杖を持っており、その威力は普段よりもかなり大きい物になっていた。
――ズシャァッ!
「グオッ! グオオォーーッ!」
こちらも軽々と魔法障壁を突破し、サーベルタイガーにダメージを与える事に成功する。
「へへっ! いけそうじゃん!」
「アリス、油断しちゃダメよ!」
アリスは以前全く歯が立たなかった事を思い出していた。以前は家族の仇を討ちたくても歯が立たなかったが、今は違う。あのサーベルタイガーが自分が放った魔法で血を流しているのを見て、アリスは嬉しくなった。
だが、サーベルタイガーはやはり一筋縄ではいかないようだ。アリスに背を向け、マリアを攻撃するように見せかけて、後ろ足で砂埃を起こし、急速反転してアリスに飛び掛ったのである。
「うわっぷ! こいつめ!」
アリスは自身の風魔法を最大にし、自身を中心に竜巻を起こして砂埃を払うが、目の前にはサーベルタイガーが肉薄していた。
「くっ! アクアガイザー!」
咄嗟にマリアがサーベルタイガーの真下から水が吹き出るように魔法を放ち、サーベルタイガーのバランスを崩す事に成功するが、アリスがサーベルタイガーが放った右前足の一撃を胸に受けてしまう。
勇也がオリハルコン入りのブレストプレートを装備させてなければ内臓までやられていたかもしれない一撃であった。
「うわぁーーっ!」
「アリス! だいじょうぶ?!」
「がはっ! ごほっ!」
アリスはむせこんでいるが無事なようだ。理由は彼女の体が子供のため軽い事、勇也が用意したブレストプレートを装備していた事、マリアの攻撃でバランスを崩していたため、威力が半減していた事などで衝撃を受けただけで済んだのであろう。
そんなアリスにセーレがあわてて駆け寄ろうとするが、サーベルタイガーはもう一撃食らわそうとしており、うかつに近づけそうに無かった。だが、
「アクアスラッシュ!」
「グギャア!」
後ろがスキだらけのサーベルタイガーに向け、マリアが鋭い攻撃魔法を放つとサーベルタイガーに直撃し、アリスとの距離を空けることに成功する。そのスキにアリスは立ち上がり、距離を更にとった。
「ごほっ! 面白いじゃん!」
「アリス、だいじょうぶ?」
「セーレ、下がってて! マリア! あれやるよ!」
アレといわれたマリアはアリスの目を見た瞬間すぐに理解し、アリスの隣に回りこんだ。サーベルタイガーは二人を警戒し、重心低く唸っている。
マリアが右腕を掲げ、アリスが左腕を掲げた。
「水よ集えよ!」
「風よ紡げよ!」
急速に二人の周囲にマナが集まる。そして、
「「フラッシュ・フラッド! シュート!!」」
膨大な鉄砲水がサーベルタイガーに襲い掛かる。警戒していただけにサーベルタイガーはなんとか直撃を避けることに成功するが、それでも臀部に鉄砲水を受け、血が噴出してもがいている。
「ギャオオオォーーーーンッ!!」
それを見たマリアとアリスは勝利を確信し、トドメを刺そうともう一度合体魔法を放とうとする。しかし、
「あっ、またけだものが来たよ!」
そのセーレの声に振り向くと、林の中からもう一匹のサーベルタイガーが現れたのであった。




