第三十五話 はじめてのおつかい
勇也たちが大森林に来てから三日目の朝を迎える。
勇也は神木の下で、すでに外出の準備を終えたマリアとアリスに注意事項を伝えているところであった。
「二人とも、悪いけど買出しを頼むな。昨日話しした内容と、あとは予算内であれば思いついたものや欲しいもの買って来ていいから。足りなかったらこれを売ればいい」
「うん」
「まかせて!」
そう言って勇也は水筒いっぱいに注いだアムリタシャワーをマリアに渡す。
横でふよふよ浮いているセーレがそのやり取りを見て勇也に声をかけた。
「ユーヤは行かないの~?」
「おう。今忙しくて抜けられないんだ。それと外の様子をマリアたちに見てきてもらおうと思っている。その状況次第で俺も出るか決めるよ」
「むー、がっかり……。ユーヤとお留守番してようかな……」
寂しそうにするセーレに勇也はやさしく声を掛ける。
「まあそういうなよ。だいふ……セーレがいないとサイズがわからないんだから。それに街に出ればいろいろあって、きっと楽しいぞ。折角街にでて買い物するんだ。興味を持ったものをいろいろマリアたちに教わるといい。二人もセーレを頼むな!」
「ん。まかせて」
「じゃあ、早く行こうよ」
アリスが待ちきれないとばかりに急かしている。きっと買いたいものが多々あるのだろう。そしてセーレが行かなければならない理由。それは……
「それとセーレ。絶対飛んだらダメだぞ! 中身”見えちゃう”からな! 約束だぞ!」
そう。セーレは自身の繭で作成したワンピースを着ているが、今は『穿いていない』のである。だからこそまずは本人が行って下着を買わなければならないのだ。
そんな勇也の注意を聞いてセーレがぼやいた。
「ユーヤが下着も作ってくれれば良かったのに……」
「むりっす」
即答する勇也。そんな勇也にセーレが不思議そうにしている。
「ぶー。なんで~?」
「そりゃ、あれだ。その……、採寸のとき恥ずかしいとか、そもそも素材がないとか……」
「ん~? 別に気にしないよ。素材だって繭でいいのに……」
そのセーレの答えに横からマリアが応対する。
「だめね。やっぱり薄手の方がなにかといいもの。動きやすいし……」
「そっか~。たしかにずっとがさがさしてるのは気になるかも……」
どうやらセーレは納得したようであった。それを見ていたアリスが急かす。
「決まったらもう行こうよ。日が暮れちゃうと帰って来れなくなるよ」
「おう。アリスの言うとおりだ。それに魔獣に襲われたりして時間食うかもわからんし」
「うん。そうだね。でもユーヤ。魔獣に襲われたら倒してもいいの?」
勇也は少し考えてからアリスに答えた。
「ん~、二人なら大体の魔獣はすぐ倒せるだろうからいいんじゃね。もし、勝てなさそうとか、時間勿体無いとかいうような状況になったら迷わずコスモガンを撃っていい。まあ、コスモガン撃たなくても二人に勝てるような魔獣なんかあんまいないだろうけど……」
神樹の加護を受けた双子にはかなりの魔法力の向上が見受けられる。おそらくベア・ボアくらいなら魔法の一撃で倒せるのではないかと勇也は看ていた。
勇也は最初に二人と出会ってすぐタミールに行ったが、その道中ですでに二人の状況判断の的確さに感心したものであった。伊達に二人は幼い頃から親と採集して、経験を積んでいないのである。
そして二人は孤児になってからも勇也と一緒に経験を積み重ねており、その成長を間近に見ていた勇也は二人に任せることには逆に安心しているくらいなのだ。
勇也は正直な気持ちを口にした。
「まあ、俺はこの世界のことよくわからんし、二人の方がよほど頼りになるわ。怪我しないで帰ってくること。それだけだよ、俺のお願いする事はな」
自分も出れれば手っ取り早いのだが、王国の動向が今はわからない以上まだ出て行くわけには行かない。だが勇也は二人を信頼しており、そこまで歯がゆい思いをしているわけではなかった。
「うん。できるだけすぐに帰ってくるから」
「まずは最初に行くのはタミールだね。遠いし」
「おお。『コメ』はマジで頼むわ。ガンガン金使っていいからな。安全第一だ。無理はしないで一泊していいからな」
勇也はタミールで食べたコメを忘れられないでいる。それだけに買い物をするときにしっかりとお願いしていたのであった。当然手持ちの『圧縮ソケット』は全て渡してあり、準備は万全である。
「子供だけで泊まれるんだっけ……?」
アリスが気になることを言って来たが、マリアがあっさりと否定した。
「……セーレお姉さまがいるから大丈夫」
「ん~? ボクがなあに?」
「頼りにしてるって事だよ」
勇也が笑いながらセーレに説明すると、セーレも嬉しそうな顔をする。頼られるのが嬉しいのだろう。
「うん。ボクにまかせて~!」
「じゃあ、もう行こう!」
「ユーヤ。行って来るけど、くれぐれも徹夜とかしちゃダメだよ。ご飯もちゃんと食べて、それから……」
「わかってるって! 大丈夫だよ。ほら、アリスたちも待ってるぞ」
勇也が二人を信頼するのとは逆に、マリアの方が勇也を心配して説教をしている始末であった。
「心配……」
「俺はともかくマリアも気を付けるんだぞ。サイフ持ってるんだから……」
「うん……だいじょうぶ……」
マリアはどうも後ろ髪を引かれているらしく、なかなか出ようとしなかった。それを見て痺れを切らしたアリスがマリアのところへやって来る。
「ほら、マリア。きりがないよ!」
「あっ、あと野菜も……」
苦笑いする勇也をよそに、マリアの腕を引っ張るアリス。横でぽかんとしながら浮いているセーレ。
こうして三人はどたばたとしながらも買出しに出発するのであった。
☆~~~~~~~~~~~~~~☆
大森林を出発した一行は何事も無く無事に昼前にターミナに到着した。
奇しくも三人がターミナを出てタミールへと向かったすぐあとに、遺跡を再調査するためにサラ姫一行がターミナへと到着するのだが、三人とは一足違いで会うことはなかった。
「ふい~、やっとターミナかぁ……」
そんなに距離があったわけでもないが、セーレがつい飛びそうになったりしていたため、飛ばないようにする訓練をしながらの行動だったのでちょっと疲れたらしい。三人ともちょっと疲れた顔をしている。
「まずは道具屋へ行ってアムリタを売ろうよ」
「そうだね。まず金策! あたしの腕の見せ所だよ!」
商人の娘であるマリアは鑑定のスキルがある。そしてもう一人の娘アリスには必殺?のおねだりスキルがあるのだ。
そんな中、初めて大森林以外の外界に出たセーレはやはり物珍しいらしく、周囲をきょろきょろと見て落ち着きがなかった。
「ふわあああ~。すごい人間さんがいっぱいいる~」
「ちょっと! セーレ落ち着いて!」
「ああああっ! 飛んじゃダメ!」
「きしゃあああ~」
落ち着きがない以前にちょっとパニックになっているようだ。アリスは勇也に言われたセリフを思い出していた。
(――だいふくも……セーレが飛んで目立つときっと碌な事にならんだろう。世の中どんな悪い人間がいるかわからないんだからな。絶対に羽出して飛ばしちゃダメだ! 精霊なんか見たら悪い人間が近寄って来るかもしれん。二人とも気をつけてくれよ……)
実際このセリフはセーレ本人に言っておいたのだが、いまいち良くわかってなかったようだったので、マリアとアリスに伝えている。二人は勇也で慣れているのか妙に納得したものであった。
「ほら、セーレ行くよ。人は歩いていくのが普通なの……。飛ぶのはナシ!」
「まあ、のんびり行きましょうか……」
「あっ! あれなあに~? すごーい。全部石でできてるんだ~!」
セーレはどうも興奮して聞いてないようなので、ゆっくりと散歩がてら街を案内しながら道具屋へと向かい、結局目的の道具屋へ着いたのは三十分ほどしてからであった。
「いらっしゃい。おや、お嬢ちゃんたちお使いかい? ゆっくりと見て……」
「おじさあああぁーん!」
道具屋へ入った瞬間、アリスが店主へ駆け寄る。ちなみにこの道具屋は勇也がハイヒールペーストなどを売った店であり、勇也が乳鉢を買った店でもある。
「ど、どうしたんだい?」
若干たじろいだ様子の店主がアリスへ優しく問いかける。すると、
「これ、この薬を買って欲しいの! 病気のお兄ちゃんが作ったんだけど、お金が無くって困ってるの。お願い! 高く買って!」
「ええっ! そういわれても……」
「とにかく、このアムリタを見て!」
そういってアリスは強引に水筒いっぱいに入ったアムリタシャワーを店主に見せる。そして水筒のアムリタシャワーを小瓶に移して行くうちに店主が驚きの表情をあげた。
「ひい、ふう、みい……、七本か……。しかし、すごいな。このアムリタの純度……。お嬢ちゃんのお兄さんはいったい何者なんだい?」
「そんなことよりいくらで買ってくれますか? あたしたち急いでるの!」
「うーん。一本5万カーネとして……、七本で35万カーネでどうだい?」
売れば儲かると言った勇也はさすがに価値を知っていたらしく、相場どおりの引き取り金額であった。もちろんこの店主が子供だからといって騙すようなマネをしない良心的な店でもあるからなのだが……。
しかし、アリスにしてみればそれではダメなのである。
アリスは更に喰らいついていく。
「そんな! それだけのお金じゃお兄ちゃんが死んじゃうよ! お願いおじさん! もう一声! お兄ちゃんを助けてあげて! お兄ちゃん死んじゃったらこれほどのアムリタの仕入れルートが無くなっちゃうよ! これはおじさんのお店のためにもなるの! お願い!」
怒涛の勢いで捲くし立てるアリスに店主もたじたじになる。
さらに横で見ていたセーレも店主のそばに寄り添い、「おねが~い」と言ってお願いしてくる。もっとも、彼女の場合は面白そうだったからだったが……。
だが効果はてきめんであったらしい。
「わかった! おじさん、おにいちゃん思いのお嬢ちゃんたちに猛烈に感動した! ここはどーんと80万カーネで引き取ろう! おじさんこれしかしてやれないけど、これでお兄ちゃんを助けてやってくれ!」
「あ、ありがとうっ! おじさん大好きっ!」
そう言ってお金を出そうとする店主の手を握り締めるアリス。交渉は大成功である。
ちなみに白けた顔つきのマリアは必死でセーレを抑えている。アリスに釣られて飛びそうになっていたからである。
一人冷静なマリアは、
(……先が思いやられるなぁ……。それにしても、なんであんなおねだりで相場以上のお金を出そうとするんだろう……? ホント不思議……)
と呆れるのであった。
☆~~~~~~~~~~~~~~☆
「それじゃあ、さよなら~」
「ありがとうございました」
「おう、お兄ちゃんを大事にしなよ!」
アムリタを売り、利益を80万カーネも得た三人。道具屋の店主に手を振り、店を後にする。
……そして急いでると言ってた割に帰らず服屋へ向かう三人。
「……まあ、上出来かな。これで大分お金に余裕出たっしょ」
「なんであんなので騙されるのかしら……」
「良くわかんないけど買い物ってああすればいいの~?」
一行は道具屋での出来事について話しながら服屋へ向かう。アリスは得意げ、マリアは微妙な顔、セーレは良くわかっていないという、それぞれ違う顔つきをしている。
「セーレは真似しちゃダメよ。あれはアリスのスキルだから、たぶん出来ないと思うわ。不思議だけど……」
「きしゃあ……。そうなんだ~」
「……その『きしゃあ』って口癖なんだ……」
「意思を伝えるときのクセが残ってるみたい……。まだ成体に慣れないの~」
「まあ、ゆっくりいきましょう」
そう言っている間に一行は服屋に着く。この店は勇也は来た事がない。勇也は防具屋には行ったがここには来た事が無かった。
しかし、マリアとアリスは来た事があったらしく、迷わず来れたのも知っていたからであった。
「じゃあ、早速入りましょう」
「あたしもいろいろと買おうっと。かわいいのないかな」
「きしゃあ。いろんな色でいっぱいだね~」
やはりみんな女の子(一人は精霊だが)であるため、服屋に来ると楽しいらしい。まずはセーレの買い物を済ませるべく、下着売り場に向かった。
「なにかお探しですか?」
「あ、今いろいろと見てるので……、まだ……」
店のお姉さんが近づき話かけてくるが、あっさりとマリアは断った。
アリスが小声で理由を聞く。
「どうして追い返しちゃったのさ?」
「……胸の採寸のとき羽がばれちゃうじゃない」
「そういえばそうだったね!」
「だから私たちで測らないと……」
「だったらコレなんかどう?」
そう言ってアリスが取ってきたのはかわいい縞柄な上下セットの下着であった。色もセーレの髪の色、若葉色に近い。
「じゃあこれにしてみようか。セーレ、ちょっとこっち来……!」
「きしゃぅ!」
「わあああ! こっちこっち!」
夢中になっていろいろな服を見ていたセーレはいきなり声を掛けられて驚き、羽を出して飛びそうになるがアリスがあわてて押さえつけ、更衣室に押し込む。
どうやらちょっぴり飛び出しかけた羽は店員にはばれなかったようで、マリアは店員の態度を見て気付いてないようだとわかると胸を撫で下ろし、更衣室に入った。
「んしょ……っと」
ワンピースを脱ぐセーレ。背中から玉虫色の4枚の羽がぱたぱたと気持ちよさそうにはためく。
すでにアリスがショーツを持ち、座って待機していた。
「ほい、まずは下から……」
「きしゃあ……。くすぐったい……」
「うーん、ちょっと大きいかなぁ……? デザインはどう、セーレ?」
「色は好きな色だよ~。ちょっと落ち着かないかな……」
「サイズ落としてみようか。あ、胸も当ててみようよ」
今度は同じサイズの胸のパートをあてがう。すると胸は丁度いいらしいようぴったりであった。
ここでこの星の下着について説明しておく。この星にはゴム製品などは流通していない。しかし、生地の織りでストレッチ性をある程度持たせているようで、デザイン的にも地球にある『紐パン』のような下着が主流である。
余談だが、後にセーレが大森林に戻り、勇也に下着姿を披露した時に初めてゲーム上の下着のアバターの姿は地球に沿ってではなく、この星に準じたものだと勇也は知ることになる。
だが今は驚くであろう男は大森林で留守番しているため、何事も無く下着選びは進む。
「うーん、こんなもんかな? 羽と羽の間に紐を通しておいたけど……」
「きしゃ! なんかむずむずする~」
「……慣れてもらうしかないね」
「最悪ユーヤに改良してもらえばいいっしょ」
「きしゃっ! そうだね~」
こうしてサイズをあわせ、セーレの下着は縞シリーズの他に何着か好みに合った物が購入された。ついでにマリアとアリスもおニューの下着とシャツ、ショートパンツも合わせて購入したようで、二人とも満足した顔をしている。
締めて金額7万8千カーネ。それでも大分黒字であった。
「じゃあ、タミールにいこっか」
「今からなら、夕方には着きそうね」
「きしゃあ……。海ってどんなのかな~?」
こうして目的の一つを終えた一行はターミナを出てタミールへと向かう。
ちなみに、ここまで街の住人からは勇也のゆの字も出てきておらず、マリアたちも追われているらしい事をすっかり忘れていた……。
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ここは道具屋。先程アリスからアムリタシャワーを80万カーネで買い取った店である。
「……よく考えたら、これほどのアムリタを生産できるなら、その兄ちゃんは自分で薬作れるんじゃねぇのか? なんか勢いに押されて騙されちまったかな?」
その問いに答える人はいない。
「まあ、それでもこれだけの品だ。ギルドにでも売るか……」
後にこの道具屋、最高品質の仕入れルートがある店としてギルドから評判を得て、その時たまたま金策に寄った勇也パーティと再会して流通が発生し、かなりの繁盛をすることになるのだ。
アリスが言ったとおり高値で買い取った事は無駄にはならなかったのであるが、それはもう少し先の話であった……。
地の文むずかしい……。みんな良く書けるなぁ……。




