第三十四話 双子ボーナス
勇也は今、全裸の美少女に抱きつかれている。
訳も分からずされるがままの勇也の視線は、その少女の背中かから生えている玉虫色の羽に釘付けになっていた。
そして、軽い興奮状態の少女は抱きついたまま勇也に話しかけてきた。
「見て見てユーヤ! ボクこんな大きい姿で『羽化』できたんだよ! ユーヤのおかげだよっ!」
「ええっ? う、羽化って? やっぱりオマエさんは…だいふくっ!」
「うんっ! ボクはだいふくもちだよっ! きしゃっ!」
さらにしがみつく少女。裸の少女に抱きつかれ、双胸を押し付けられた勇也はパニック寸前になる。
(うひゃああああっ! ボ、ボ、ボクっ娘のな、な、な、なま、なま、なっま、なまちちいいいいいいっ!! やわらけえええええっ!! うっひょおおおおぉっ!!)
勇也のだらしない顔を見たマリアが一瞬で我に返り、アリスと一緒に少女と勇也を引き剥がした。
「ユーヤ! デレデレしてないで落ち着いて。あなたも離れて!」
「えー、なんでダメなの~?」
羽をぱたぱたさせながら不満そうな顔をする少女にマリアが恥ずかしそうに答える。
「……は、はしたないから」
だがマリアの回答を聞いた少女は首をかわいらしく傾げながら勇也に質問する。
「……むーっ。ねぇユーヤ。抱きつくのって……はしたないの?」
なんとか自制を保つ事に成功した勇也は少女の質問に答えた。
「あー、まあ、抱きつくのはいいけど……。その……、まず服を着てくれ。……人間って普段は服を着ているんで、できれば服を着てくれると助かる」
「うーん、でもボクは服なんて持ってないよ……」
困った顔を向ける少女に勇也はさらに困った顔をして答える。
「それは買ってくるしかないなぁ……」
(でもマリアたちに買ってもらうにもサイズとかあるしなぁ……)
見た感じマリアやアリスよりちょっと背丈や胸が大きい少女であり、さらに背中には羽が生えている。
本人が服を合わせに行かないといろいろ無駄が出そうだが、本人が行くとなると最初は裸で買い物をしないといけないため勇也は困っているのだ。
(カネがあれば片っ端から買い込むんだが……)
勇也が悩んでいると後ろから声を掛けられた。
「ねぇユーヤ。だったらあの ”抜け殻” を使って作ればいいんじゃない? なんかよさげな生地になりそうだよ」
アリスが提案してくる。その指は先程まで大福餅と呼ばれていたものに向けられており、中身の抜けた白い毛皮が落ちていた。
「なるほど、自作すれば……、って俺が作るのかよ!」
「もちろん! ユーヤが作った方が確実じゃん」
「アリス。それいい考えかも。私も手伝うよ。デザインどうしよっか?」
「ワンピースみたいな服なんてどうかな?」
「ちょっとお二人さん?」
二人ともやる気になっているようで、勇也の意向を無視して話を進めていた。
困った顔の勇也が少女に問いかける。
「なあ、えーっと……、大福餅……じゃないよな……、キミの名前を教えてくれると嬉しいんだけど……」
「えっ、名前? ボクは『だいふくもち』だよ……。ユーヤが付けてくれたんじゃない」
不思議そうに答えた少女に勇也が理由を説明する。
「……ああ、大福餅ってのはあの白い丸っこい姿を見て名付けたんだよ。でも今は女の子の姿だし、もし本名があるならそっちの方がいいかなと……」
「うーん、この姿だと『だいふくもち』じゃないのかぁ……。だったらまた名前付けてほしいな。でも変な名前はいやだよ、人間だとどんな名前がいいの?」
勇也は女の子に大福餅はさすがに無いと思ったからこそ本名を聞いたのだが、少女には本名などなく、しかも大福餅と呼ばれる事に関して疑問に思っていないようであった。
これが日本だったら女性はどう感じるだろうか。おそらく勇也はただではすまないだろう。
すぐにいい名前が思いつかない勇也はマリアとアリスにも相談する事にした。
「うーむ。マリアとアリスはなんかいい名前思いつくか?」
だが二人も大福餅だと思っていたので話題を振られて戸惑っているようだ。二人は腕を組んで考え込んでいる。
「……うーん、どんな名前がいいのかなあ」
「確か『森林の化身』なのよね?」
マリアの問いかけに少女が自信満々に答える。
「うん! ボクは『森林の化身』で『大地のともだち』だよっ! これからよろしくね」
「うん。こちらこそよろしくね」
「あたしもよろしく~」
マリアとアリスが嬉しそうに少女と握手をしている。
そのやり取りを見ていて勇也はふいに思いついた。
(ふむう……。森林の化身ってことは……精霊みたいなもんだよな……。じゃあ、『セーレ』でいっか。精霊少女セーレ。よし、これで行こう! シンプルイズザベストだ!)
勇也は早速少女に提案する。
「よし。決めた。君は『大福餅』改め『セーレ』だ。どうだ?」
セーレと呼ばれた少女は振り向き、勇也に笑顔を向ける。
「うんっ! ボクの名前『セーレ』でいいよ。呼びやすいし、それでいいよ!」
少女は気に入ってくれたらしい。勇也はマリアとアリスにも聞いた。
「二人はどうだ? 他にいい名前あったらどんどん言ってくれ」
「いいんじゃないの? あたしは賛成」
「私も素敵な名前だと思うよ」
あっけなく二人も賛成し、名前は『セーレ』で決まった。
若干拍子抜けした勇也だったが、本人が良いと言っているのだ。だから例え安易に考えた名前だとしても気にせずにセーレと呼ぶ事にする。
勇也は早速セーレに声を掛けた。
「じゃあ、早速なんだけどセーレさんや。あの抜け殻って使えるんか? 使えるならあれ使って服を縫おうかと……」
話しかけられたセーレは嬉しそうな顔をして答える。
「繭で服を作ってくれるの? ボクもあの繭には愛着があるからすごくうれしい! 遠慮なく使っていいよ!」
(……あれ、繭だったんか。やれやれ、また作業が増えた……)
そんなことを考えながらも勇也は行動を始める。
「じゃあ、繭をとってくるわ」
「あっ。ボクもいくー」
抜け殻を取りに行く勇也とセーレ。ふよふよと浮かぶ少女の嬉しそうな顔を見ながら、勇也は必要な材料を吟味し始めた。
(……そういえば針はあるけど、糸とかあったっけ? この間買った分は使い切った気がする……)
勇也は材料の在庫状況を確認すべくマリアに声を掛ける。
「マリアー。そういえば糸って残ってたっけ?」
「そういえば……、足りないかもしれない。ちょっと道具袋をとってくるね」
そういってマリアが神木の下に置きっぱなしの道具袋を取りに行き、すぐに袋を持って繭の前にいる勇也たちの所へやってくる。
しかし調べたところ糸の在庫は無い様であった。
「やっぱり足りないみたい……。在庫がこれしかないよ……」
「ありゃ、どうしよっか?」
マリアが糸を手にとって勇也に見せるが、せいぜい1m位の在庫しかないようだ。一人分の服を仕立てるのには全然足りないだろう。
勇也は縫製スキルもマスターであり、作ることに抵抗は無い。しかしいくらマスターでも道具が無ければスキルは発動しないのだ。
だがここは大森林。勇也はまたも彼らにお願いする事を思いつき、勇也から頼まれたセーレはドリアードたちを呼び集めた。
「ねぇ、ユーヤ。糸を集めるって……なにを集めればいいの?」
「えーっとだな……あったらでいいけど≪メイジスパイダー≫の巣を持ってきて欲しい。無ければ≪シルクスパイダー≫でいいっす。それから紡績するんで。あと、ついでに『仙桃』をいくつか……。あと食材とか……」
しっかりと自分の希望する素材もついでにお願いした勇也に対し、セーレは勇也に笑顔で答える。
「なーんだ。そんなのだったら近くにあるよ。ボクたちにまかせて! じゃあみんな、お願い!」
「きゅろっ!」
「これですぐに集まると思うよ。服ができるの楽しみ!」
ドリアードたちを採集に向かわせたセーレは勇也に対し、自信ありげに胸を張る。もちろんいろいろ丸見えである。
「お、おう……」
勇也は見たい気持ちを抑えつつ、顔を逸らしながら返事をすると、視線の先にいたマリアから呼びかけられた。
「ユーヤ。ワンピースみたいにすっぽり被れる様な服がいいと思う。それでお願いなんだけど、この抜け殻を持って長さを測ってほしいの」
「ああ、そっか。じゃあこれでいいかな」
勇也が裂けた面を下に向けて白い抜け殻を高く掲げる。このまま首と腕の穴を繰り抜いても着れそうな感じだが、セーレにあわせると横に広がりすぎている。やはり裁断しなくてはならないようだ。
「とりあえずサイドをカットして、貫頭衣みたく首に穴あけてかぶってもらおうか。羽の位置に穴を開けないといけないし、着て貰わないと採寸しづらいからな」
勇也はマリアとアリスに抜け殻の両サイドを引っ張ってもらうと、その中心部にセーレに立ってもらう。そして、気持ちゆるめに両サイドをオリハルコンナイフでカットした。
(はさみがあればなぁ……)
そう思いながらも器用に首部分をくりぬき、セーレに着てもらう。
「ふーむ、羽は……。あれ? 畳めるんか?」
「うん。さすがに羽をぱたぱたさせたら着れないよう」
先程までぱたぱたさせていた羽はおとなしく、着てもらった抜け殻の下に仕舞われているようだ。意外にも羽があるとは気付かないくらいにコンパクトに畳まれている。勇也は羽の位置にあたりをつけ、小枝を待針代わりに目印として挿しておいた。
「おっ。帰ってきたみたいだ」
採寸しているとドリアードたちがこれでもかと言わんばかりに蜘蛛の巣や食材などいろいろと持って帰ってきた。正直十分すぎる量だ。
「んじゃ、紡績すっか。マリアたちは糸が出来るまでのんびりしててくれ。買出しは明日にしていいや」
「うん」
「ほい。……あ、そうだ!]
勇也が糸を紡ぐ準備をしていると、アリスが思い出したように近寄ってくる。その手には今朝ほど製作した杖が握られていた。
「ねーねー、ユーヤ。杖作ってみたんだけど、どんなものか鑑定して欲しいんだ~」
「ほほう、どれどれ……、ちょっと見してみ。……ふむう……」
アリスから杖を受け取った勇也は早速鑑定スキルを発動する。
すると……
【アイテム】: 武器
【名称】 : シルフィステッキ
【攻撃力】 : +222
【効果】 : 風属性攻撃に1.5倍のボーナス
: 使用精神力半減
……という結果が出た。
驚いた勇也はアリスに杖を返して説明を求める。
「……ちょ! アリス! ……ど、どうしたんだこれ? なんかとんでもない効果が付いてんぞ!」
とんでもない効果と聞き、アリスは興奮した顔つきで答えた。
「えへへ~。神樹さまが宝石くれたんだ~。それで作ってみたんだよ。ユーヤってば目立ちたくないっていうから、普段は魔法で攻撃した方がいいかと思って。……そんなすごい杖が出来たとは思わなかったけどね!」
「……そっか、神樹さまがくれたのか……。どれ、もう一回見せてくれ」
「うん」
勇也はまた杖を受け取ると、じっくりと宝石部分を見つめる。そして宝石だけを鑑定した。
【アイテム】: 宝石
【名称】 : 太古の琥珀
【攻撃力】 : 0
【効果】 : 風属性攻撃に付属媒体次第で追加ボーナスあり
: 使用精神力半減
鑑定結果を見た勇也はアリスに説明する。
「これ、アリス。ちゃんと神樹さまにお礼を言うんだぞ。それと宝石部分の押さえがちょっと弱いから、糸が出来たら巻いてやる。メイジスパイダーの糸だったら効果がちょっぴり追加するかもしんないし……」
「ほんとっ? うれしいな~」
「ぬおっ!」
「えへへ~」
満面の笑みを浮かべて勇也に飛びつくアリス。
そんなアリスを抱きかかえながら苦笑している勇也だったが、ふとマリアが寂しそうな視線を向けていることに気付いた。
「……そういえば、マリアも宝石もらったんか?」
勇也はマリアに問い合わせたが、答えは抱きついてるアリスから返ってきた。
「……ううん。あたししか貰ってないよ。多分属性が違うからだと思う」
「私は水属性だから、その宝石を貰っても……」
アリスが寂しそうに答えると、マリアも悲しそうな顔を勇也に向ける。
マリアは宝石を貰えないことが残念なのではなく、勇也の役に立てないことが悲しいのである。
だが、側で聞いていた精霊さまがふと思い出したようにマリアに話しかける。
「そういえばマリアって水属性だってさっき話してたね……。 だったら、水属性のマリアには宝石なんかよりももっといい物があるよ! 大丈夫! ボクにまかせて!」
そういうとセーレはきょろきょろとあたりを見渡し、近くにあった乳鉢を手に取る。
「これ借りるね~。……うんしょ……っと」
そして着ていた服を脱ぐとぱたぱたと羽ばたかせて神木の下へと飛んでいった。
呆然と見送る勇也たちをよそに、セーレは飛びながら神木のあちこちをぺしぺしと叩いている。
なにか集めているようだ。何してるんだろうと考えているとすぐにセーレが帰って来た。
「おまたせ~。はい、マリア。ぐーっと飲んで飲んで!」
セーレが持って返ったのはどうやら神樹の樹液のようだ。甘い香りがふんわりと漂ってくる。
勇也はこっそり鑑定をしてみた。
すると……、
【アイテム】: 飲料
【名称】 : アクアウィータエ
【攻撃力】 : 0
【効果】 : 水属性魔法1.7倍
: 飲んだ人間が練成した水は神聖効果が付与され、『神樹のしずく』へと昇華する
「…………やっぱ超レアっすか」
鑑定した勇也はマリアに安全だと伝え、セーレもわくわくした顔つきでマリアが飲むのを待っている。
意を決したマリアは恐る恐る飲み始める。
「……こくこく……、ん……おいしい」
やがてアクアウィータエを全て飲み干したマリアがぷはぁと息を吐く。その瞬間、マリアの体に異変が起きた。
「……えっ?」
「うおっ!」
マリアの体が発光したかと思うと、彼女の瞳の色が水色から澄んだアクアブルーへと変化する。属性強化の証である。
「えっ? ……これって……」
戸惑ったマリアにセーレはにこにこしながら話しかけた。
「えへへっ! 今朝のアリスとマリアの会話を古代樹が聞いてたからね。マリアにもプレゼントを……って頼まれたんだ」
「よかったな、マリア。二人とも、ちゃんとお礼言うんだぞ」
「うん」
うなずいた二人が神木の下へお礼を言いに走っていく。
それをみた勇也はセーレに話しかけた。
「ありがとな、だい……セーレ!」
セーレはにこにこしながら返事をする。
「えへへ~。どういたしまして! アリスにだけプレゼントあげるとマリアが可哀想だもんね!」
「……まあ、俺も嬉しいよ」
神木にお礼を言い終えた二人が戻ってくる。
そのあと勇也は糸の紡績を終えてセーレの服を縫い上げる。
そしてアリスの杖を加工し、みんなで買出しする物を相談してその日は終わったのであった。
誤字脱字多いかもです。教えてくださると助かります。><




