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第三十三話 大福餅羽ばたく

 大森林に朝がやってきた。

 目を覚ましたアリスは「うーん」と体を伸ばし、目を擦りながら周囲を見渡すと、木漏れ日があふれる中に横になった少女と奇妙な生物の姿を捉えた。

 どうやらマリアと大福餅は目を覚ましておらず、静かに寝ているようである。

 そんな二人を起こさないように静かに立ち上がったアリスは、神木のところへと歩き出す。


「ユーヤってば、また明け方まで作業してたのか……、体壊しちゃうよ……」

 

 神木に寄りかかり、静かに熟睡する勇也を見かけてそうひとりごちたアリス。

 ふと勇也をみると、横に見慣れない武器らしきものが置いてある。先ほど勇也が完成させた『ビームガトリングガン』だ。


「……やっとできたのかな。どんな武器なんだろう?」


 アリスが目を輝かせて『ビームガトリングガン』を手に取ろうとするが、ふと勇也の周りだけマナが集中し、ほんのり暖かいことに気付いた。

 アリスが風の属性を持っているからであろうか。周囲の風の流れが微妙に停滞していることがわかる。


 アリスは顔を見上げ、神木に話しかける。


「神樹さまがユーヤを守っているの? ユーヤはいったい何者なの?」


 アリスの疑問に答えるかのようにざわめく神木だったが、アリスには答えがわからない。


 それでも、アリスは話し続ける。


「大丈夫。外に出たらユーヤはあたしたちが守るよ! 神樹さまも安心して! 無事に帰ってくるから!」


 大きくそびえる神木に対しても堂々と宣言するアリスの顔はいつになく大人びて見えたことだろう。

 人は誰も見てはいなかったが、その思いは間違いなく誰かに届いていた。


「えっ?」 


 神木からアリスの目の前に何かが落ちてくる。

 アリスがそれを拾い、手にとって見ると化石化した葉を内包した琥珀であった。


「これを……、あたしに?」


 アリスの質問に対し、もちろんと答えたかのようにざわめく神木に、アリスはやはり自分に与えてくれたものなのだと悟る。


「ありがとう……」


 アリスは神木にお辞儀をし、改めて琥珀を見つめると不思議と力が湧いてくる気がした。


「なんか体が軽くなった気分……。この宝石のおかげかなぁ? あとでユーヤに鑑定してもらお……」


 だが勇也は熟睡しており、マリアや大福餅もまだ寝ているようだった。

 起こすのも可哀想なのでアリスは暇を埋めるため、何をしようかとあたりを見渡すと、勇也の武器を見て思いついた。


「そうだ! あたしもユーヤみたいに自分だけの武器を作ろうっと!」


 早速周囲を駆け巡り、手ごろな神樹の枝を捜す。アリスは自分用の杖を作ろうと思いついたのだ。


「これもだめ……、うーん、これも不合格……」


 神木の周りを捜索し、そろそろ神木を一周しようかという頃に、アリスの目を惹くような杖にするに丁度いい枝が見つかる。


「あっ、これなんかいいかも!」


 見た感じ50cmくらいの長さで、先端はちょうどこぶのようになっており、真ん中に窪みが見られる。この枝だけで杖のように見えた。


「うん、これに決めた! 早速ユーヤから工具を借りて作業開始しよう!」


 そのままぐるりと神木を一周し、勇也のもとに戻ってくるアリス。

 勇也を起こさないように工具を拝借し、少し明るめの場所に陣取り作業を開始する。


「えーっと……、窪みが宝石の大きさより小さいから少しくりぬいて……」


 オリハルコン製の小さなナイフで少しずつ窪みの内部を広げていく。


「なんか宝石を傷つけないような材料ってないかなぁ……」


 アリスはそのまま琥珀を窪みにはめこむのに気が引けるようで、素材袋をいろいろと漁っていく。


「あっ! ボス・ベア・ボアの皮の残り! これを使おう!」

  

 適量の皮を切り取り、叩いて薄くして窪みに当て込んでいき、窪み全体に皮を広げ、余った部分をナイフで削除していく。


「これでいいかな……。あとは宝石を……、埋めて……、んしょ……」


 ピンポン球くらいの大きさの琥珀を窪みにはめ込むと、丁度良くぴったりと入った。


「完成だ~! ……でもなんか足んない気がする。あとはユーヤと相談かな」


 他に何かないかアリスが探そうと立ち上がってあたりを見回すと、マリアがかわいくあくびをしている姿が目に入る。どうやら目を覚ましたようだ。


「おはよ、マリア」


「……ん、おはよう」


 目を擦って挨拶を返すマリアはまだ寝ぼけ眼で、目をしぱしぱさせていた。


「そういえばあたし顔洗ってないや。マリアも顔を洗おうよ」


 アリスが寝ぼけ中のマリアを連れて神樹のしずくの溜まり場へ行き、二人して顔を洗う。


「……さっぱりした。ありがと、アリス」


「あたしもさっぱり。それよりさ、見てよこれ!」


 唐突に突き出された杖に戸惑うマリア。


「……どうしたの? これ」


「へへーん。神樹さまが宝石をくれたんで作ってみたんだ~。かっこいいでしょ!」 


「……宝石? 貰った? ちょっと見せて!」


「ほい」


 アリスから杖を手渡されたマリアはしげしげと眺め、杖の鑑定を始める。


「……攻撃力は200くらい……。追加効果は風の属性になんらかの付与があるみたいね。詳しくはユーヤにしてもらった方がいいよ」


 マリアは12歳ながら鑑定スキルはランク5であり、同年代の鑑定スキルを持っている人間の中ではかなり高い方であるが、鑑定スキルのマスターである勇也に比べると判明する項目に差が出てくる。そのためにマリアは勇也に鑑定してもらうよう薦めたのだ。


 だがアリスはマリアの未熟な鑑定に鼻を膨らませていた。


「おおーっ! マリアもわからない部分があるなら結構すごい付与があるのかも! 早くユーヤ起きてこないかなぁ……。杖のアドバイスも聞きたいし」


「起こしちゃ駄目だよ……。ユーヤはどうせ寝たばかりだろうし……」


 マリアは勇也が明け方に寝たであろうことを確信している。

 だが、これはいつものことなので確信しているに過ぎない。

 それほど勇也の就寝時間は遅く、また起きる時間も昼前と遅いのだ。


「ぶー。そんなことしないよ~」


「それより、どうして杖を作ろうと思ったの? コスモガンがあるのに……」


 マリアはアリスがあれほど欲しがってたコスモガンを手にした今、アリスがなぜ新しい自分用の武器を作成したのか不思議に思ったのであった。


「ユーヤは目立つの嫌うから、あたしたちが魔法で活躍する方がいいと思ってさ! それであたし専用の杖を作ったんだ! イザってときにはコスモガンで倒せばいいしね!」


「……残念だけど、私には水属性の宝石がないから専用武器は作れないや。いいなぁ……。私も宝石欲しいなぁ……」


 ちょっぴり宝石が無い事を残念に思うマリアに対し、アリスがつぶやく。


「でも神樹さまならマリアにも宝石をくれそうだけどね……」


「うーん、宝石を貰っても属性が違うかもしれないし……」


「なるほど! あたしがたまたま風属性だからくれたのかもね……」


「もし水属性の宝石を貰えたら、私ももっとユーヤの役に立てるかな?」


 そう話す二人の会話はちゃんと神木に届いている。このあとマリアにもちゃんとプレゼントが神木から贈られるのであるが、マリアはこの時点では知る由も無かった。


「それよりご飯にしようよ。昨日の食材がまだあったよね?」


「果物でも食べようか」


 宝石の話で目が覚めた二人は胃も目覚めさせたようで、すっかりはらぺこになっていた。

 マリアが器用にアンプルの実の皮を剥いていき、カットした実を二人はかぶりつく。


「うわー、すごいあまーい!」


「ほんと! おいしい!」


 神樹のしずくに浸して冷やしておいた果物は糖度が増したかのように非常に甘く、はらぺこ双子を唸らせるものであった。


 それからしばらくマリアとアリスは買出しの相談をしながら採集作業に勤しみ、勇也が起きるまで作業を続けていた。


 

 ☆~~~~~~~~~~~~~~☆



 勇也が目を覚ましたとき、時刻は丁度お昼ぐらいであった。


「う……、ん……。ここは……?」


 あたりを見渡すと奥の方で採集作業をしているマリアとアリスの姿が見える。


「そうだ……。俺は昨日『ビームガトリングガン』を完成さ……せたよな?」


 ハッとして手元を探ると、ちゃんと完成した『ビームガトリングガン』があり、勇也はほっと一息ついた。


「まだ寝ぼけてるのかな?」


 勇也は立ち上がり、マリアとアリスに声を掛ける。


「二人とも、おはよ」


「あっ! ユーヤ。おはよー……って時間じゃないよう!」


「ユーヤ、おはよう。良く眠ってたから起こさなかったよ……」


「そっか……。気を使わせちゃったか。ごめんな……」


 勇也はマリアとアリスの頭を優しく撫で、頭を下げる。


「早く顔洗ってきなよ~」


「さっぱりするよ」


「そうするわ。神樹のしずくで顔を洗うとはなんて贅沢なんだ……」


 二人の提案に乗っかり、水溜りへと向かう勇也。

 その前には昨日と同じ位置で静かに休んでいる大福餅の姿があった。

 勇也はそんな大福餅に挨拶をする。


「よう、大福餅。おはよ」


 優しく背中をさするがまだ寝ているのかいまいち反応が乏しい。勇也は気になってまた大福餅に声を掛ける。


「どうした? 元気ないんか?」


「……きしゃ……ぁ」


 どうやら起きてはいたようで、か細い声で返事をしてきた。勇也はさすがに心配になる。


「昨日あんだけアムリタ飲んだんだ。相当酔ったんじゃないか? 今日はのんびりしていればいいよ」


 心配そうな顔をしながら大福餅の身体をさすっている勇也を見たマリアとアリスも異変を感じたのか駆け寄ってきた。


「具合悪いの? あたしたちが枕にしたからかなぁ?」


「……元気ないの? 大丈夫?」


「うーん、どうなんだろ? ちょっと聞いてみるわ」


 勇也はそう言ってスマホか神様ユニテルへ連絡を入れる。すると、


『――まあ、あれだけ効果の高い薬品を大量に飲めばマナも活性化が激しくなるでしょうからね……。かなり体力が消耗したのかもしれませんね』


 と、返事が来た。


 神様ユニテルの回答を聞いて勇也は少し考える。


(なるほど……。そうだ! 体力が消耗したなら回復させればいいんだ!) 


 勇也はマリアとアリスに声を掛け、日当たりのいいところで干していた『ハイパー・ヒールペースト』の様子を見る。


「うん、ちゃんと乾いてる。これなら粉末にできそうだ」


 満足げな勇也にアリスが聞いてきた。


「ユーヤ。ひょっとして『エリクサー』を作るの?」


「おう。どっちみち作るつもりだったからな。コイツ飲ませりゃすぐ元気になんだろ!」


「じゃあ、すぐに仕度するね」


 マリアが道具を取りに走り、アリスが素材を準備する。

 こうして『エリクサー』作成の作業が開始された。


「まず粉末にしマース!」


 勇也がすりすりと乳鉢で『ハイパー・ヒールペースト』を粉末状にしていくと、水分の抜けた『ハイパー・ヒールペースト』はすぐに『ハイパー・ヒールパウダー』へと変っていく。


(大量に作っておこうかな……)


 勇也は『エリクサー』向けだけでなく、自分たちで使うための『ハイパー・ヒールパウダー』を作成しようと思いつき、マリアに声を掛けた。


「マリア、昨日みたいに『ハイパー・ヒールペースト』を作って置きたいんだ。素材の準備をしておいてくれないか?」


「うん」


「あたしも手伝うよ~」


 勇也が寝ている間にもマリアとアリスが採集をしていただけに材料は豊富にあるようだった。その間に勇也は次の作業に入る。


「そして『仙桃』をペーストにしマース!」


 器用に皮をむき、種をとって実のいい部分だけをペースト状にしていく。瞬く間にクリーミーな『仙桃』のペーストが作成された。


「これに『アムリタシャワー』と『ハイパー・ヒールパウダー』を加えて練りマース!」


 三つの素材が合わさり、勇也が練り始めた事でだんだんと発光していく。その姿をみたマリアとアリスは手を止めて見蕩れていた。


「これに『神樹のしずく』を加えて希釈しマース!」


 最後に『神樹のしずく』を加えると七色に輝き始め、しずくが追加される度に輝きが増していく。そのまぶしさに目を細める位で勇也は手を止めた。


「……で、これで完成。これが『エリクサー』だ」 


 七色に輝いている液体を見て呆然とするマリアとアリス。そしてそんな奇跡の薬と言われる『エリクサー』をあっさりと作ってしまう勇也にもである。


「……ん? 二人ともどしたん? そうだ、早速大福餅に飲ましてやろう」


 いそいそと大福餅の前に行き、『エリクサー』を差し出す。


「ほら、これ飲むとすぐ元気になるぞ。体調不良にはコイツが一番さ!」


 勇也はそんな事を言っているが、そもそも死亡状態以外を完全回復させる薬であり、現在のこの惑星では伝説上の奇跡の薬である。

 マリアとアリスはそんな奇跡の薬を簡単に作り、尚且つ二日酔いの薬のように気軽に扱う勇也の非常識っぷりに眩暈を起こしそうになっているが、よく考えればもともと古代の兵器を開発してしまうほどの男だったと開き直る。


「まあ、ユーヤだし……」


「流石としか言えないね……」


 そんな二人の感想は聞こえてない勇也は大福餅に『エリクサー』を飲ましていた。


「きしゃあ……」


「ん、ちょっとずつ飲むといい。そう、そんな感じで……。それ全部飲んでいいぞ。きっとすぐ元気になるからな」


 勇也は大福餅の背中をさすりながら励まし続ける。


 そして、大福餅が『エリクサー』を全て飲み干した頃に異変は起きた。大福餅が突然大声で叫ぶ。


「きしゃあああああっ!!!」




――パァアアアッ!!




 大声と上げると同時に、大福餅の体が突然輝きだし、周囲を光が照らしていく。

 

 それを目にした勇也たちが一斉に驚きの声を上げた。


「な、何だあ!?」


「なんか光ってるよ!」


「何が起きているの?」


 突然の事態にその場に立ち尽くして見ている三人。

 その一方で大福餅の背中から七色の光が噴出し、光を羽のようにゆっくりと羽ばたかせている。


「ユーヤ……、あれ……羽みたいじゃない?」


「羽が生えたの?」


「俺……、なにかやらかしたんか?」


 驚く三人をよそに七色の羽を羽ばたかせながら大福餅の背中がゆっくりと開いていく。 


「なんか……、背中割れてない?」


「えっ?」


「おい、なんか中から出て……」


「とうっ!」


 掛け声と共に大福餅から七色の光体が天に向かって飛び出すと、空中で回転したのち、勇也の目の前に虹の帯を引きながら降りてくる。

 呆気にとられ、言葉もでない勇也たちだったが、その光体の主と目が合ったことで三人とも我に返る。

 やがて光も収まりつつあり、だんだんとその光体のシルエットが浮かび上がってきた。

 そして三人はさらに驚く事になる。


「…………えーっと」


「…………中から」


「……女の子?」


 そう、三人の目の前には中学生ぐらいの全裸の少女が高さ50cmくらいの位置で浮いており、驚く事に背中から玉虫色の薄い羽が生えているのが見える。

 さらには若葉色の髪、チェリーピンクの瞳、双子より育った双胸、その頂点にみえるさくらんぼ?に白い肌と、羽以外はまるで人間の少女の姿をしているのだ。

 少女の姿を見てから完全にフリーズしている三人を、興味深く見つめる少女。


 やがて少女がアリスに指をさし、口を開いた。


「アリス」


「ほええ……」


 続いてマリアにも。


「マリア」


「…………」


 マリアはなんとかうなずき、ごくりと息を飲んだ。


 そのやり取りを見ていた勇也が少女におずおずと声を掛ける。


「……オマエさん……ひょっとして大福餅……なのか?」


 その一言が合図になったのだろうか。少女の目が大きく見開き、


「きしゃっ! ゆーやああぁーっ!」


「むぶっ!」


 大福餅の中から出てきた少女は、勇也を見かけた瞬間、物凄い勢いで抱きついた。

 

 そして、その瞬間、神様ユニテルから勇也に思念が届く。


『――この子はまた随分早く『羽化』しましたね……。しかもこんな大きい人型で……。やっぱり薬の効果なんでしょうか……?』


 少女に抱きつかれた勇也には神様ユニテルの声を聞き取る事は出来なかった。

 今回登場した羽少女ですが、実は一番最初に思いついたキャラでした。それだけに役割をいろいろと振っています。この小説を書く前から考えてたキャラだけに、これから頑張ってほしいですね。……だったら早く出せよという気もしますが。


 もっとがんばります。

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