第三十二話 エリクサーと最新武器完成
「へい! お待ちィ!」
第一弾のアムリタを作成し差し出すと、待ってましたとばかりにがぶ飲みする大福餅。
「きしゅうう……」
ふるふると巨体を揺らしながら悶える大福餅を見て、勇也は満足げにうなずく。
「二人とも、どんどん持ってきてくれ! まだまだ行くぜ!」
「「はーい」」
「きしゃ!」
勇也の掛け声にそれぞれが返事をし、流れるような連携でアムリタを量産していく。
ドリアードが採集し、マリアとアリスが仕込み、勇也が作成し、大福餅ががぶ飲みする。
このパターンで、さながら『わんこそば』のように間断なく大福餅にアムリタを供給していく。
そうして何度目かの材料の補給時に、ふとアムリタを見たアリスが驚いて声を上げた。
「ええええっ! ユーヤはアムリタ作ってるんだよね? あたしの知ってるのと全然色が違うんだけど!」
「えっ! そーなん?」
「きしゃっ?」
「うん。もっと暗い色してたよ。それ明るい薄黄色だもん。全然違うよ!」
思わず勇也と大福餅が顔を見合わせる。騒ぎを見てマリアも駆け寄ってきた。
「あっ、マリア。これアムリタじゃないよねえ?」
アリスがマリアに問いかけると、マリアが勇也の手元にあるアムリタを覗いて鑑定スキルを発動してみる。
すると、
「うーん。私の鑑定ではちゃんと『アムリタシャワー(最高級品)』って出てるよ。要するにユーヤの作品は私たち商人の娘でも見たこともない最高級のアムリタってこと」
マリアが感心したように、そして誇らしげに説明する。
「ほええ~、だいふくもちはそんな最高級品飲んでるんだ……。いいなぁ、あたしも飲んでみたいな……」
「きしゃあ……」
大福餅がさみしげにアムリタを眺めるアリスに気を使ったのか、口の触手でアムリタを差し出してきた。
「えっ、いいの?」
「きしゃっ!」
遠慮するなと言わんばかりにアリスの胸元にアムリタを差し出す大福餅。
「じゃあ、遠慮なく……」
そう言ってアリスもアムリタを飲むと、
「うはぁ! あんまーい! マリアも飲んでみなよ!」
感激したアリスがふるふると恍惚の表情を浮かべ、マリアにもアムリタを手渡す。
「ほああ……、これは……」
アリスから受け取り、アムリタを飲んだマリアも上気した顔をしている。
どうやらかなりの効果と共に味もいいらしく、二人ともしっかり回復もし、元気になったようで気合を入れていた。
「じゃあ、続きをやりますか!」
「ん、がんばる!」
そう言って元の作業に戻る二人。どうやら大福餅もまだまだ飲み足りないようで、勇也に寄り添ってふるふるしている。
「おーし、第二弾行くぜ!」
「きしゃっ!」
またも気合を入れなおし、アムリタの製作を開始する勇也。
勇也は流石にスキルマスターに相応しく、迷うことなく手分量で素材を調合し、たちまちに最高級のアムリタシャワーを大福餅に差し出した。
「きしゃっ! きしゃっ!」
そして再び効率のよい流れ作業が始まり、大福餅にアムリタを供給していく。
それからしばらくは同じ作業を繰り返していたのだが、流石に大福餅は飲みすぎたのであろう。飲むペースが大分落ちてきており、ほとんど止まっていた。
「へい! お待ちィ! ……ってどうした? まだまだあるぞ」
「き、きしゃ……っぷ」
「まあ、これでも飲んで元気出せや」
勇也は意地悪くニヤリとしながら、やさしく大福餅の背をさすり、アムリタを目の前に置いてやる。
「きぃ……、き……」
もう飲めないとアムリタを目の前にしてぶるぶる震えだす大福餅。
それを見かねてアリスが助け舟を出した。
「ねぇ、ユーヤ。あたしたちもお腹すいたよ~」
「ん、そういや何も食ってねぇな」
そこへマリアが重大な問題に気付き、指摘してきた。
「……ところでユーヤ。私たちのごはんは? 干し肉が少しあるだけだけど……」
「…………あ」
やっちまったとばかりに目を逸らす勇也。しかし、視線の先には同じ顔した女の子が絶望した顔つきをしていた。
「……まさかとは思いますが、干し肉だけですか?」
なぜか丁寧語で話しかけてくるアリスに、勇也は力なくうなずいた。
「……申し訳ありません……アリス様……」
「ふええ……」
「……もうターミナに帰る?」
「はやっ! 逃避行にもなってねぇ!」
泣きそうなアリス。マリアも悲しそうな顔つきでターミナへの帰還を提案する始末である。
だが、それはそうだろう。そもそも双子はなぜ勇也が隠れるのかをあまり理解していないのだから。
アリスがぽんと手を叩いて、わかったようにに言う。
「逃避行……って? もしかしてユーヤ……ついに姫様のおっぱいを? だったら追われるのもわかるな~」
アリスは酷い誤解をしていた。
「ユーヤ。ついに姫様を……。む、胸くらい私がいつだって……」
マリアも健気な態度ではあるが、やっぱり誤解している。マリアは以前サラ姫の胸に触りそうだった勇也の身代わりになっただけに心当たりがあるのだろう。
すぐに勇也が反論する。
「だあああっ! んなことしてねーよ! 違うでしょ! 俺の武器が没収されたことで、俺のスキルが警戒されそうだから隠れるんでしょ! さっき言ったじゃん! それより今は食いモンだろ! マリア、干し肉以外他にないんか?」
しかしマリアの返事は悲しい現実を突きつけるだけであった。
「……古い干し肉の残りが三切れしかないよ」
現実を知ったアリスがぐずり始める。
「もうターミナに帰ろうよ~。おなかすいたよ~。あたし悪い事してないのに~」
「俺だってしてねーよ……」
だがそのとき、勇也は先ほどのユニテルの話をふと思い出した。
(……そういえば困った事があったらドリアードに相談しろって言ってたな。そうだ!)
ひらめいた勇也は苦しそうにしている大福餅にお願いする。
「大福餅さん。お腹いっぱいのとこ悪いけど、ちょっとドリアードさんに俺らの食べ物の調達をお願いできませんかね?」
「……しゃ? ……っぷ」
苦しそうにしながらも、口の触手をひらひらさせてドリアードを呼び寄せる大福餅。
「き、きしゃ……っぷ」
「きゅろっ!」
指示を受けたドリアードが他のドリアードたちを集め、すぐに森林の奥へと散っていった。どうやら無事に食材集めに行ってくれたようである。
「サンキューな、大福餅。お礼にこれ、よかったら……」
「…………・・・」
勇也はそう言いながらアムリタを大福餅の目の前に置いてやると、大福餅は何も言わずに後ずさりして震えている。
「あはは、冗談だよ。ゆっくりお休み」
勇也は大福餅の背中をさすりながらねぎらうと、マリアとアリスも背中をさすりだす。
「おつかれさま」
「ユーヤが意地悪してごめんね……」
「きしゃあ……」
「…………あの……ごめんな……」
しばらく三人で大福餅の触り心地を堪能していると、ドリアードがいろいろ持って帰ってきた。
どっさりと置かれた食材に、勇也たちは目を見張る。
「おおっ! アンプルの実にオリンジの実だ。しかもアンボンカンドの実まで……。こんなのゲームには無かったぞ!」
「……こっちのきのこはアカショウタケね。最高級品だって……」
「すごーい! マッドシュリンパまでいるよ~! 滅多に捕れないのに!」
そうして様々な食材を吟味するなかで、ふと勇也があるものに気付いた。
「……妖精さん。これ、ひよっとして”仙桃”じゃないですかね?」
「「せんとう?」」
「きゅろっ!」
ズラリと並んだドリアードが一斉にうなずくと、勇也がぽつりと呟く。
「……やっぱりそうか。だったら『エリクサー』が作れるな。まさか大森林で材料が全部揃うなんて……」
「ほえ~。『エリクサー』ってなに?」
不思議そうな顔をしてアリスが聞いてくる。マリアも知らないのか首をかしげていた。
「ああ、『エリクサー』ってのは奇跡の薬って言われているアイテムだな。体力、精神力、状態異常も不治の病も全部回復する薬だ。さすがに死んだ人は生き返らないけどな……。知らなかったのか?」
「き、奇跡の薬って……。そ、そんなスゴイ薬があるの? あたし初めて知ったよ」
「……私も知らなかった。ユーヤはもしかして作れるの?」
マリアの問いかけに対し、勇也は不思議そうな顔をしながら返事をした。
「うーん、二人とも知らないのか。まあ、よく考えたらそんなスゲー薬があちこちにあるわけも無いか。じゃあメシ食ったら試しに作ってみるわ。毒見役の大福餅もいることだし……」
「……ほええ」
「……作れるんだ……」
「きしゃあ……」
さらりと奇跡の薬と言われる『エリクサー』を作成しようとする勇也に一同唖然となる。
因みにその『エリクサー』は調合スキルランクMAXで作成できる。『ハイパー・ヒールパウダー』『アムリタシャワー』『仙桃』『神樹のしずく』を等分量混ぜ合わせれば完成である。
当然全ての材料はレア素材であるため、ゲームでは作成するより材料集めが大変だったが、ここ現実世界では大森林だけで集まってしまった。勇也が感激するのも無理ない事であろう。
そんな『エリクサー』だが、ゲームではイベント『辺境伯の娘を治せ』で使用する。勇也はその時すでに『エリクサー』を大量にもっていたためすぐに達成してしまい、あまり記憶していなかった。
呆気に取られるマリアとアリスに勇也が気付いて声を掛ける。
「さ、んなことよりメシの仕度しようぜ。火を使ってもいいのかな?」
「き、奇跡をそんな事って……」
マリアが信じられないとばかりにつぶやく。
だが言われた勇也は大福餅に触手でつんつんと突かれていた。
「きしゃ……」
口の触手で地面が剥き出しになっている場所をさす。どうやらそこでなら火を使ってもいいようだ。
「おし、早速『神樹の枝木』を集めて火を焚こうか。マッドシュリンパはそこの『神樹のしずく』で洗って焼いて食おうと思うけど味付けどうしよっか?」
「……ユーヤ。そこに『ガリク草』が生えてるよ。使えそうじゃない?」
「お、ハーブで味付けるのはいいな。鍋とかないし、きのこも焼いて食べるか」
「さんせーい!」
「うん」
話をしながらもてきぱきと食事の仕度を進める三人。勇也はてきぱきと動く二人を見て思い出す。
(そういえば、マリアたちは採集するときに親御さんと野営してたって言ってたな。それで慣れてるのか……)
マリアとアリスはお互い役割分担して、慣れた手つきで作業を進めている。
勇也は枯れ木を集め終えたアリスに声を掛けた。
「アリス、そろそろ火を点けてくれ」
「ほい」
言われたアリスが手のひらに小さな火をともす。この惑星の人は全属性の魔法を使えるが、アリスは自分の属性の風魔法では無いため、それくらいの大きさで限界のようだった。
しかし、枯れ木に火を点けるには十分であった。すぐに火が大きく燃え上がり、そこに細い神樹の枝で串打ちしたマッドシュリンパを並べ、軽くあぶって食べる。
「おお、スゲーうめぇ。泥臭くない。さすが『神樹のしずく』で洗っただけのことはある。ほれ、このガリク草をすったものをまぶしてみ」
「うん、香ばしくておいしい~。ぷりっぷりだね~」
「ほんとだ~、おいしいね」
和気あいあいと食事をする三人。はらぺこ双子もすっかり笑顔である。大福餅はアムリタの飲みすぎで静かに休んでいるようだ。
「ん、あいつ寝てるんか……」
「さすがにあれだけ飲めばね~」
「休ませてあげましょう……」
そうして食事を終えた三人はそれぞれの作業に戻る。
「さーて、俺は『エリクサー』の準備をするわ。ルナリーフやサニーグラスは残ってるか?」
「うん。まだたくさんあるよ」
「んじゃ、まずは『ハイパー・ヒールパウダー』を作るか。ルナリーフとサニーグラスでハイパー・ヒールペーストを作って、それが出来たら日当たりのいいところで干して、擂って粉末にするんだ」
「うん。じゃあ素材取ってくるね」
マリアとアリスが素材を取りに駆け出す。その後姿を見て勇也は考える。
(さーて、野営に必要なモンがいろいろと無い事に気付いてしまった。これからどうしようかな……)
いままで勇也はゲームでの知識だけを頼りにした冒険をしており、きちんと夜は宿屋に泊まっていた。
だが今回の失敗を省みて、これからはそうもいかないと考える。
そして勇也は自分が現実では野営の経験が無かった事に気付き、結局勇也は経験者である二人に相談することにした。
あれこれ考えているとマリアとアリスが素材を持って帰ってきた。
勇也は素材を受け取り、ペースト状にする準備を整えながらも早速話を切り出す。
「二人にちょっと相談なんだけどさ、これから野営する機会が増えると思うんで、必要なものを教えて欲しいんだけど……」
マリアが聞き返す。
「ユーヤって野営はしたことなかったの?」
「……ありません」
勇也は素直にうなずく。
「うーん、やっぱり水と携帯食かなぁ……」
「寝具もあればなおいいよ。急に冷えたりするし」
「……なるほど、今は全部持ってないな。他には?」
「「拠点!!」」
同時に口をそろえて言う二人。勇也が即座に聞き返す。
「野営するのに拠点がいるんか?」
マリアも当たり前のように答える。
「うん。帰ってこれる家があって初めて野営ができるんだよ。ずっと外にいたら気が病んでしまうわ」
「ふむう……確かに」
納得する勇也に対し、アリスが呆れてぼやく。
「……あたし、真っ直ぐにここに来たから、ここがユーヤの拠点なんだと思ってたよ」
「私も、正直言って寝具とかくらいは置いているのかと……」
「あの……、なんかすいません……」
勇也は思いつきで二人を連れてきたことに後悔をし始める。自分だけならともかく二人は慕ってついて来てくれているのだ。
だが、マリアとアリスは考え込む勇也を見て提案してきた。
「別に困る事ないよ。買出し行ってくれば済むんだし」
「……ここが拠点になるなら素敵ね」
「買出しか……」
アリスの一言に勇也は考え込む。
(……王国から目を付けられる可能性があるのは俺だけだし、マリアとアリスには関係ないだろう。もし聞かれても別れたと言えば済む話だろうしいい考えかもしれない)
「ユーヤ?」
ちょっと不安になったのかマリアが声を掛けてくる。勇也は顔を上げた。
「そうだな。二人に買出しを頼むわ。悪いけど俺はまだ武器を作り終わってないんで抜けられない。アムリタ作っておくからお金が足りなければそれを売ればいい。結構儲かるはずだ」
「了解」
「うん。こっちでいろいろ仕入れておくね。すぐに帰ってくるから……」
「悪い。今日はもう日が暮れてるみたいだし、明日でいいからな……」
「うん!」
元気に返事をする二人に勇也はほっとする。
「じゃあ、俺は作業の続きをすっか。二人はもうゆっくりしてていいからな。大福餅を枕にしてみるといいかもしんないぞ」
「おおー、それいいかも」
「……いいのかな?」
マリアとアリスが大福餅に寄り添うと、疲れていたのかすぐに二人とも静かになった。大福餅も気にするそぶりも見せていないので問題ないのだろう。
大福餅に寄り添う二人の少女を見て勇也が微笑む。
「……二人がいてくれて助かった、ありがとうな」
その呟きは神様に届いていたようで、声が聞こえてきた。
『――あの二人の少女は随分懐いているようですね。ここの抜け道も通れるようにしてくれるみたいですよ。遠慮なく拠点にしてくれて構わないそうです』
勇也は抜け道の存在を失念していたのかハッとして顔をあげる。すると神木が問題ないと言わんばかりにさわさわとざわめく。
「……ありがとうございます。神樹さま……」
世話になりっぱなしの太古の神木に感謝をしつつ、勇也は作業を続ける。
そしてハイパー・ヒールペーストを完成させ、干す準備をしてからようやく自身の武器作成に入ることができた。
それから数刻後、ようやく作成中の武器の完成が近づく。
「このモーターでシリンダーを回転させて……、っと……」
薄明かりの中でも問題なく作業を続けていられるのはスキルのおかげだろうか。
「……このエナジーパックをいれれば……、おし! 『ビームガトリングガン』の完成だ!」
作成中の武器が一つ完成したところで勇也はやっと眠りに着く。
時刻はすでに明け方に指しかかろうという頃だろうか。
「明日は……『シャイン・レイ』を完成させたいな……。いけ……る…か?」
勇也は神木に寄りかかり、明日の予定を考えつつ眠りに就いたのであった。
ぜんぜん惑星の魔獣が減ってないのは内緒です……。
イメージとして
アンプルの実 → りんご
オリンジの実 → みかん
アンボンカンドの実 → アボカド
アカショウタケ → まつたけ
マッドシュリンパ → 泥中海老 でっかいイセエビみたいな生き物
としてください。




