第三十一話 大福餅にアムリタを
前回に比べて短いです。
一方勇也たちはタルテたちと別れたあと、すぐに神木の元への隠し道へ入り、森林の奥へと移動していた。
「ほえ~」
「随分奥へいくんだね」
アリスが定期的に驚きの声を上げ、マリアも緊張した顔で問いかける。
「凄い綺麗なところだぞ。もうすぐ着くから二人とも頑張れ!」
「「うん!!」」
薄暗くてわからないが、二人の返事の力強さからすると大丈夫だろうと、勇也は安心した。
そして少し歩くと目の前が開け、星空を広げたようなドーム状の天井の広大な場所に出ると、その中心に淡く発光している神木の姿が見えてくる。
「わあ~!」
「綺麗……」
マリアとアリスは目の前にそびえる神木の神聖さに圧倒され、しばらく静かに神木を眺めていた。二人に勇也が説明する。
「……どうだ? 綺麗だろう。あれがサイテック時代を知る神樹さまだよ」
「……うん」
「素敵なお姿ね……」
勇也は二人の返事に黙ってうなずくと、神木の下へ行き挨拶をした。
「神樹さま。この間はありがとうございました。今回もお世話になります。あの二人の女の子は僕の仲間です。彼女たちもよろしくお願いします」
勇也がそう言うと、神木がさわさわとざわめいたように見える。
『――ゆっくりしていいそうですよ。あの子たちも歓迎だそうです』
ユニテルがそう通訳してきた事で、胸を撫でおろす勇也。マリアとアリスもいつのまにか勇也の隣で神木にお辞儀をしていた。すると、
「きしゃあああっ!」
「ぬおっ!」
巨大な白い影が勇也を襲い、勇也を跳ね飛ばした。
「ユーヤっ!」
「敵!?」
マリアとアリスがコスモガンを抜き、戦闘態勢を取ろうとする。それを見て勇也はあわてて二人を止めるのだった。
「わあああ!! 待て! 二人とも待ってくれ! コイツは俺の友達なんだよ!」
「きしゃぁ……」
倒れた勇也の隣に擦り寄る大福餅は、口から出す触手で勇也を起こそうとしているのだが、二人にはそう見られなかったようだ。
「ホントに友達なの?」
「どう見ても魔獣よね……」
二人の感想を聞いた勇也はどこかで聞いた事のあるセリフで反論した。
「ま、魔獣だなんてとんでもない! この子は森林の化身だぞ! なっ、大福餅!」
「きしゃっ!」
『――ユーヤさん、そのセリフ……』
ユニテルのつっ込みが聞こえないマリアとアリスは、返事をする大福餅に胡散臭そうな目を向けるが、勇也に甘えていたり、勇也もなでているところを見るとやはり友達のようだと判断する。
「だいふくもち? それが名前なの? まあ、いっか……」
「……よろしくね。大福餅さん」
大福餅ってなんだろうと思いながらも、マリアとアリスがその白い生物に挨拶をする。すると大福餅も元気に返事をした。
「きしゃっ!」
二人の納得した様子と、返事をする大福餅を見た勇也は満足げにうなずきつぶやく。
「しっかし、おまえさんデカくなったよなあ……」
「きしゃ。きしゃあ!」
勇也の指摘する様に、大福餅はだいたい直径1.5m位、高さは勇也の半分ほどになっており、前回来た時の5倍位の大きさになっていた。
そして口の触手の怖さも5倍である。だが勇也は慣れているおかげか、気にせずに大福餅の手触りを堪能していた。
「うむ。いい撫で心地だ!」
「……きしゃ」
そんな勇也たちにユニテルが一言伝えてきた。
『――普通はこんなに大きくなりません。恐らくユーヤさんが先日いろいろと飲ましたことが関係しているのでしょうね』
「……そうなんですか? じゃあアムリタ飲ますのはやめた方がいいのかなあ……」
勇也のこの一言を聞いた大福餅が悲しそうに泣き声を上げ、勇也に体を寄せてくる。
「きしゃあ……。きしゃあああっ!」
『――別に前例が無いだけだから飲ましてもいいと思いますよ。なんか泣いていますしね。能力もその分あるかもしれませんし……』
「まあ、大福餅は作ったそばから勝手に飲むだろうしな……」
「……きしゃっ!」
恥ずかしそうに大福餅が顔を背けたのだが、そのリアクションはユニテル以外は気付かない。
「じゃあ、折角だしアムリタ作るか。マリアとアリスも手伝ってくれ」
「うん」
「ほーい」
「きっしゃああああ!」
大福餅はガッツポーズをしていたのだが、これもユニテル以外は気付かなかった。
☆~~~~~~~~~~~~~~☆
勇也はマリアとアリスにルナリーフとサニーグラスを採集するように指示を出し、自身は『神樹のしずく』を探す。
すると前回と同じ場所にあり、水量も以前より多くあるようであった。
そして水たまりの前に座り、マリアとアリスの採集が終わるまで、自分の武器作成の続きを開始する。
「ちょっと暗くてよく見えないな……」
勇也がそうぼやくと、神木が気を利かせて日の当たる場所を作ってくれた。
『――ユーヤさん。こちらへどうぞといってますよ』
「おおっ! ありがとうございます。恐縮です」
そうお礼を言って勇也は日当たりのよい場所へ移動し、自分の武器を作成し始める。
その勇也の姿を見た大福餅がいそいそと巨体を揺らし、作業中の勇也を覗きにきたが、期待と違う作業とわかるとあからさまにがっかりするのであった。
「きしゃああ……」
勇也は大福餅を優しくなでながら、
「まあ、そうがっかりすんなよ。今はマリアとアリスが材料採集してっから、それが集まるまで待ってくれ」
と声を掛ける。
すると大福餅は神木の前まで移動し、なにやら叫びだした。
「きしゃきしゃきっしゃああああ!!」
大福餅の突然の叫びに何事かと採集中のマリアとアリスが振り向く。
「あっ! あれ!」
「ええええーーっ!」
驚くマリアとアリスが見たものは、人型をした人参というか大根というか、なんとも奇妙な形をした植物が大福餅の前に整列し始めている所であった。
「ちょっ! なにあれ? か、神様?」
わらわらと集まる奇妙な植物を見て勇也がユニテルに問い合わせる。
『――え? 森林妖精じゃないですか。きっと少女たちの手助けをさせるのでしょうね。ユーヤさんも困った事があったら言うといいですよ』
「あいつドリアード呼べるんか……。さすが森林の化身……」
感心する勇也をよそに、大福餅は整列を完了したドリアードに合図を出す。
「きしゃっ!」
「きゅろっ!」
大福餅の号令に返事をし、一斉に駆け出すドリアードたち。
すぐに森林の奥へと消え、サニーグラスとルナリーフを持ち帰ってきた。
それを見たアリスが対抗心を刺激されたらしく、
「マリア。あたしたちも負けてられないよ!」
と気合を入れている。
「じゃあ、私たちは花をむしり、葉を刈り取ろう。そうすればユーヤも楽になると思うよ」
マリアが効率化を提案し、アリスも「そうだねー」と乗っかる。採集はドリアードたちに任せるようだ。
勇也の元に戻ってきたアリスが勇也に質問する。
「ねー、ユーヤ。あの変な植物って何?」
アリスの質問に勇也は苦笑いして答える。
「ああ、ドリアードらしい。妖精さんだぞ。ちゃんとお礼言うんだぞ」
その勇也の答えを聞いた二人が興奮気味に答えてきた。
「ええーっ! ドリアードって普段は姿が見えないんだよ! すごーい!」
「ユーヤと一緒だからかな?」
「マジで?」
『――まあ、普段人の前に姿を現しませんからね。この場所も秘密の場所ですし。ただ姿は見せないだけで人前出れば普通に見えますよ』
ユニテルが言うには別に姿が見えない訳ではないらしい。
それにドリアードの存在を知っているという事は、見たことがある人がいた証拠でもある。
偶然見つけたのだろう。勇也がアリスに教える。
「アリスさんや。なんか普通に見えるらしいぞ。普段表に出ないだけだとさ」
「へぇ、そうなんだー。そんなスゴイ存在のドリアードが姿を現したのにびっくりだよ!」
「……きっとユーヤのおかげ」
アリスも納得し、勇也も自分の作業に戻ろうとすると、大福餅が呼んできた。
「きしゃああ! きしゃきしゃ!」
かなりのサニーグラスとルナリーフが大福餅の目の前に積まれている。
「マリア、行こう!」
「うん!」
山積みの素材へ向かったマリアとアリスはすぐに素材の抽出作業に入る。
それを見た勇也も乳鉢を取り出し、アムリタの作成準備に入った。
「やれやれ、結局ほとんど自分の武器は作れなかったか。こうなったら腹が破裂するまでアムリタ飲ましてやるよ」
勇也がニヤリと不敵に笑う。
『――本当にやりそうで怖いですね……』
勇也の性格を知っているユニテルがそう呟く。
大福餅には聞こえなかったようで、遠目に見てもそわそわしているのがわかる。
しばらくするとアリスが素材第一弾を持ってきた。
「ユーヤ、まずはこれだけできたよ~」
「おっし、やるか!」
勇也は腕まくりをして気合を入れなおし、アムリタの作成に入るのであった。




