第二十九話 モバーン一家の団欒
2/3 『ごみの回収業者』を『ごみの専門業者』に変更しました。
そろそろ日も暮れようかという頃、モバーンは王都に着き、自分の持ち家へと帰る。もともと単身赴任でターミナへ駐在してるため、実家は王都にあり、妻であるゲイトと娘であるトアはここに住んでいる。
「ただいまー。トアは帰っているか?」
「あれー、モっくんお帰り。なに? 警備隊クビになったの?」
「少しは自分の亭主を信用しろよ……」
帰って早々に脱力させられたモバーン。そのモバーンをげんなりさせた妻ゲイトは元冒険者である。
冒険者同士でひと悶着した際にモバーンが仲裁に入り、相手を押さえつけたモバーンを見て一目ぼれし、それ以来くっ付いて結婚までこぎつけたある意味ハンターでもある。
そんな彼女の職業は聖職者であったが。
「なに? トアならまだ帰ってないけど……。あの子忘れ物でもしたの?」
「いや、そんなんじゃない。ちょっと姫様の件で話があってな」
「……ああ、姫様が忘れ物したのね」
「……もうそれでいいや。それより何か食いもんないか? 腹減ってんだ」
あくまでマイペースな妻に呆れながら、食べるものを探すモバーンだったが、あいにくとすぐに食べられそうなものは見当たらなかった。
がっかりしているモバーンにゲイトが追い討ちの一言を伝える。
「折角帰って来たんだし、なんか美味しいもの作ってよ。その間にトアも帰ってくるよ」
妻の非情な意見にすぐさまモバーンは反対する。
「やだよ、めんどくせぇ。俺は疲れてるんだぞ」
だがゲイトも譲らない。自分の旦那が押しに弱い事を知っており、さらに言えば久しぶりに甘えたいのである。
「たまには妻に楽させてよ~。モっくんは宿舎暮らしで楽してるんだからさ~」
「……はあ。しゃあねぇ。なんか酒に合うもんでも煮込むか……何か……お、ボアの肉だ。これでいくか……」
「やった。がんばれ~。楽しみだな~」
結局折れ、帰ってゆっくりどころかこき使われるモバーン。嬉しそうなゲイトを横目にいやいや作り始めたが、だんたんと夢中になってきたようだ。あれこれこだわりながら調理をこなしているとトアが帰ってきたようで、声が聞こえてきた。
「ただいま……って、あれ? お父さん帰ってるの? めずらしいね。警備隊クビになったの?」
「……お前までお母さんと同じ事言うんじゃない。お前に姫様の話を聞きに寄っただけだ」
「姫様の話? 最近塞ぎこんでるけど、何か知ってるの?」
「やっぱり塞ぎ込んじゃってるか?」
「うん。なんか外ばっかり見てため息ついてた。ターミナで何かあったの?」
モバーンが答えようとしたが、その声はゲイトの叫びにかき消されてしまった。
「ねぇ。お鍋もういいんじゃない? そういった話は食事しながらにしましょう。ほら、トアもお皿用意して」
「はーい」
内心で≪お前は動かねぇのかよ!≫と毒づきながらも食卓をにぎやかにしていく父娘。ボアの煮込みをメインになかなか豪勢な料理が並べられる。
「かんぱーい! ……で、姫様に何があったの?」
食事が始まると早速父娘の会話も始まる。
「ん、トアはユーヤに会った事あるよな。あいつとの約束を守れなかったって悔やんでるってところかな」
「ユーヤって、前にお父さんが話していた遺跡のごみが好きで、すごい武器を使う人でしょ。この間私も見たけど、なんか汚らしい乞食みたいな人だったけどなぁ……」
「ユーヤも酷い言われようだな……」
娘の勇也に対する評価に苦笑するモバーン。当時は返り血まみれだったからなのだが、汚らしいといわれている勇也に対し、娘の非礼を心で詫びる。そんな娘トアが話を続ける。
「それで、その人とどんな約束したのかなあ? まさか……嫁になれとか?」
「いや。全然そんな色っぽい話は無い。むしろ埃っぽい話だ。何かって言うと遺跡に入る入らないの話でな。遺跡の封印した魔獣を倒したら遺跡に入っていいと姫様が言ったんだよ。で、ユーヤが倒したんだが、結局陛下の許可を得られず駄目になってな。それで落ち込んでるらしい」
「ふーん。そうなんだ。でもそんなの気にする事かなぁ? 姫様も真面目な人だからなぁ」
「姫様自身も古代の文化に興味があったみたいだから、それもあわせて落ち込んだんだろうとは思う」
そうモバーンは自分の推測を語り、トアにも思い当たる節があったらしく、先日のサラ姫の元気な姿を思い出していた。
「今思い出すと確かにターミナの宿舎で姫様はお父さんと同じように嬉しそうにユーヤって人の話してたなあ。私はその当時は会ったこともないから正直反応に困っちゃったよ。私は『光の剣』とか興味ないからさ~」
トアは遺跡のミノタウロスを討伐する際、宿舎でサラ姫の世話をしていた。そのためにサラ姫から勇也の話を聞いたのだろう。だが、トア自身は勇也とは当時面識は無く、さらに全く古代遺跡に興味が無い。だからこそこんな感想なのだろう。
「で、そのユーヤが褒賞を辞退して『光の剣』も姫様に返したんだよ。それで姫様がユーヤに見捨てられたと思ったんじゃないかと俺は思うんだ。しかも今朝ユーヤに会いに行ったらアイツはもう旅立ってた」
「えっ? ユーヤって人もういないの? でもあの人に見捨てられたところで何か困る事あるのかなあ?」
「ああ。今朝宿屋で聞いたら昨日すでに旅立ったと言われた。行き先もわからん。ただ、アイツはごみ山から『光の剣』や『光の矢』を作るほどの古代の知識がある。それを惜しんだんだろうな」
「ふーん。姫様にしてみれば凄い事なのかな? 私にはいまいちピンとこないけど。でも遺跡に入れないのが判ったんだし、用が無くなれば出て行くよね。それ当たり前だよね」
「まあ、そうなんだが水くさいじゃねぇか……」
そういいながらモバーンは空のグラスにワインを注ごうとするがデキャンタは既に空になっていた。ゲイトがにやにやしながらモバーンに話かける。
「ひまだから全部飲んじゃったよ~」
トアと話している間にゲイト一人で飲んでいたようだ。モバーンは苦笑しながら言った。
「こうなったらガンガン飲むか」
「そうだよ~。飲もう飲もう。私の相手もしてよ~」
ゲイトも飲み足りないらしい。願ったりかなったりの顔つきのモバーンはいそいそと追加のワインを持ってきてゲイトと乾杯し直す。そんな仲良し夫婦に娘が言った。
「で、お父さんさ。酔っ払う前に聞きたいんだけど、結局私に何の用だったの?」
「ああ。姫様の様子が気になったのと、王国はユーヤをどうするのか知りたくてな。トア、お前何か聞いてないか? 王城勤務なんだし噂くらい聞けるんじゃないか?」
「……うーん、『光の剣』が凄かった……って話は聞いたけど……。あとは全然知らないよ。私も興味ないし……」
「そうか……。まあ今後は注意して、わかったら俺に教えてくれ」
「まあ、わかったら連絡するよ」
父娘の会話が一旦終わったところでゲイトが声を掛ける。
「ねえねえ。私、話聞いてて思ったんだけどさ~」
「ん、何がだ?」
「そのユーヤって人は遺跡のごみが好きなんでしょ? だったら遺跡のごみを全部褒美にあげれば良かったのに。今後出るごみも合わせてさ。ごみを引き取るなら陛下も文句言わなかったんじゃないの?」
「……あっ」
モバーンは妻の話を聞いて成る程と思った。確かに勇也はごみの中から何かを探していたからだ。ゲイトはさらに言葉を続ける。
「人手を集めてごみを外に運ぶ指示を出せるのは姫様しかいないんだから、遺跡の中を片付ける振りして、遺跡のごみを増やしちゃえばいいじゃない。そうすればそのユーヤって人も喜んで帰ってくるかもしれないよ」
「……ふーむ。そういえばまだ未開の階層があったな。確かにユーヤは駄目でも姫様ならまだ入れるはずだ。つまり俺らが発掘品を持ってきてユーヤに見てもらえばいいのか」
「どうせユーヤって人も遺跡なんか入っても一人じゃ大したもの持って帰れないだろうしさ。元冒険者が語りますよ~、荷物って重くて大変なんだから」
ゲイトの話を聞いたトアがモバーンに気になった事を質問する。
「ねぇ、お父さん。そもそも遺跡に入っても、勝手に遺跡の物を取っちゃ駄目なんじゃないの?」
「……ああ、そこらへんの許可も含めて姫様が陛下に奏上したんだが……」
「だったら言い方変えて『ごみの専門業者』として許可を貰えば良かったのに。発掘は姫様にまかせてさ。『ごみから武器を作った冒険者』なんて紹介するから胡散臭く見られるんだよ。『彼の者はごみの再利用に才能がありますぞ』って言えば陛下も『よきにはからえ』で終わったと思うなぁ」
モバーンはトアの話を聞いて考える。確かに勇也ならば他のごみの再利用などいくらでも思いつくのではないかと。自分に必要な分を抜き取りつつも、余った素材でサラ姫の防具を作っていたのを思い出したからである。
酔っ払ったゲイトがトアに提案する。
「それさあ、トアちゃんが明日姫様に教えてあげなよ~。きっとうまくいくと思うよ~」
だがゲイトの意見にモバーンは難色を示した。
「しかし、もう遺跡は封印するって話だぞ。いまさらうまくいくかあ?」
しかし、ゲイトは笑いながら自信満々に言ってのけた。
「大丈夫だよ~。魔獣は倒したから今の遺跡は安全なんでしょ? 『光の剣』が他にもあるかもしれないので……とか言っとけばすぐ遺跡に入れると思うよ。どうせごみを運搬するのに人手は多い方がいいんだし、姫様の護衛って名目で大人数で入って一気にごみを持ってきちゃえばいいよ」
「それでごみが出たって言って、今度はユーヤって人を『ごみの専門業者』として紹介をするのね?」
「そうそう。『光の剣』をごみから作れるんだったら、日用品だって簡単に作れそうじゃない? それをテキトーに陛下に見せておけばいいんじゃないかな? うまくいけば全部のごみがユーヤって人のものになって、武器も日用品もどんどん開発されるかもね」
モバーンも感心した顔つきでうなずく。
「……確か陛下はユーヤには会ってないんだよな? だったらいけるかもな……」
「偽名でも名乗っておけばもっと安心じゃない?」
トアもアイデアを乗っけてきた。
「なるほど。……とにかくトア、さりげなく姫様に提案してみてくれよ。ユーヤが旅立った事も言っちゃっていいぞ。こうなったら隠してもしょうがないからな!」
勇也がすぐに旅立ったことをターミナにいたときは隠す気だったモバーンだが、王都に戻り、家族といろいろ話をしたことで思い直す。トアはうなずいて答えた。
「まあ、だめもとで明日姫様に話してみるよ。こんなんで姫様が元気になるかはわからないけど……」
うなずきあう夫婦。妻は思いついたことをモバーンに言った。
「でもさ~、モっくん。あたし思ったんだけどさ~」
「ん、何をだ?」
顔を真っ赤にし、へべれけ一歩手前の妻ゲイトがにやけ顔でモバーンへ思いついたことを口にする。
「……なんかユーヤって人さ~、ごみが増えたら喜ぶなんて『ハエ』みたいな人だよね~。あははは」
「あはははは、ハエだなんてお母さん、ひどーい」
娘も同じ事を思ったのか爆笑している。その妻と娘の酷い暴言にモバーンは苦笑しながら、
(……ハエはあんなに強くねぇよ)
と心の中で年若い友人を庇っていた。
今は酷い言われようですが、これからどんどん武器開発していける…かも。
次は30話。なんか起点になるような話にしたいですね。




