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第二十七話 隠れ家へ

 サラ姫たちが去り、部屋へ戻った勇也はマリアとアリスにすぐに荷物をまとめる様に指示を出す。

 当然二人は突然の事態に何が起きたのかといろいろと質問してきた。


「いきなりどしたの? 姫様に何か言われたの?」


「……レーザーブレイドはどうしたの? あっ。王都へ一緒に行くとか……?」


 勇也は不思議そうな顔をしている二人に説明をする。


「いやいや。掻い摘んで話すと、『遺跡は封鎖するから進入許可は出しません。それと王国の遺跡だからレーザーブレイドとコスモガンを回収します』みたいな事を言われたんだよ」


「えー、そんなのずるーい!」


 アリスがぷんぷんと怒り出す。その横にいたマリアがうなずきながらつぶやく。


「……それでさっき取りに来たんだ。だから『ごみ山関係の品を全部隠せ』って言ってきたんだね。納得」 


「姫様にバレてる『レーザーブレイド』と『コスモガン』はしょうがないけど、作成中の新兵器やマリアとアリスのコスモガンまで回収されたくない。あれこれ言われる前に素直に手渡してやった。モバーンさんが黙っててくれるかは賭けだったけどな。味方してくれて助かったわ」


「あははは。『他にも持ってまーす』なんて言われたらみんな没収されちゃうもんね。おじさんがいい人でよかった~」


 アリスが陽気な声でモバーンを褒めちぎるが、マリアが心配そうな顔つきで聞いてきた。


「それで、これからどうするの? いつかはバレちゃうと思うけど。他の大陸に行くの?」


「うーむ。ちょっと迷ってる。その前に聞きたい事があるから『雇い主様』に確認してみるわ。アリス、ちょっとスマホ返してくれ」


「ほーい」


 ちゃんと某RPGのセーブをしたアリスからスマホを受け取った勇也は手馴れた手つきでユニテルにメールを送る。


『神様。遺跡入っちゃダメだそうです。逆に確認ですがサイテックの街が地下にあるんですよね。そこに直接行けませんか? こないだ『抜け穴開けた』って言ってたからルート作れるんじゃないかと思いましたので。連絡下さい』


 すぐに思念で返事が来る。


『ユーヤさんこんにちは。結局遺跡に入れないそうですね。そんなの無視すればいいと思いますけど、ユーヤさんは律儀な方ですね。それでさっきの話ですが、穴を開けるとかなり大規模になり、人の注目を集めるかもしれませんのでお勧めできません。マナも減ってしまう可能性もありますしね。ただ違うルートならありますよ。ここから北へ行ったトキーノ山脈の裏手にある『魔獣の巣』といわれる洞窟の奥に、古代に陥没した大穴があるのですが、そこを降りれば遺跡の抜け穴へ繋がります。結構距離がありますし、遺跡からの方が近いので薦めませんでした。ただ『魔獣の巣』といわれるだけに魔獣が多くいます。十分な準備が必要ですね』


 マリアとアリスにはユニテルの思念は通じてないようで、ひとりで話をしている勇也を見て不思議そうな顔をしている。


「そんなのあるんですね。最初ッからそこに行けばよかったかなあ……」


『当初ユーヤさんは武装してませんでしたし、ごみ山に武器があると思ってたので遺跡を薦めたのです。まさか人間が邪魔をするとは思いませんでした……』


「勝手に取っちゃダメだって武器も没収されました。まあ、こっそり別なものパクってますけど……。それで追われるかもしれないんでどっか隠れるとこありませんか?」


『だったら大森林の奥がいいのではないですか。前に行った事あるじゃないですか。そうだ。あの子を連れて行けばきっと力になること間違いなしですよ! 洞窟へ行く準備をするのにも最適な場所だと思います』


「なるほど! 確かにいいかもしれませんね。でもあの子って? ……あっ、『大福餅』か! あいつは戦力になるんですか?」


 勇也はスマホを耳に当ててユニテルと会話している。だがマリアとアリスには『電話』というものを知らないため、勇也が一人で話をしているようにしか見えない。


「ユーヤ……。なに一人でぶつぶつ言ってるの……?」


「き、気にしない。気にしない……」


 心配そうな二人をよそに、勇也たちの会話は続いていた。


『あの子もユーヤさんに会いたがっていますし、森林の化身ですからね。私の力よりも小回りが利く分、十分な戦力になりますよ。あの子といれば森林や大地が味方になるのですから』


「マジっすか! それ無敵じゃないっすか! ぜひ一緒に来て欲しいなあ。わかりました。まずは大森林の奥で準備します。ありがとうございました!」


 ユニテルとの通話を終えた勇也は怪訝そうな顔つきをした二人に向き合って今後の行動について伝える。


「二人とも、これから俺は大森林に行って準備作業の続きをしようと思ってる。アムリタやらヒールペーストやらも必要だしな。隠れるのに静かでいい場所があるんだ。二人もきっと気に入ると思う。準備が終わったらダンジョンを探索だ。そこから遺跡の先のサイテックの街へ行くぞ」


「ほえー。大森林に隠れるとこなんかあったっけ?」


 アリスが首を傾げるが、勇也は指をチッチッと振りながら答える。


「まあ、行ってからのお楽しみ。さ、準備してくれ」


「……もう終わってるよ」


 マリアがすでに荷物をまとめていたようだ。もともとの荷物自体少なく、『圧縮ソケット』で鉱石や超古代素材もまとめてあるために簡単だったのだろう。


「それじゃ、姫様たちにバレないようにこっそり行きますかね。このパイプがあれば大森林の魔獣くらい余裕だしな」


「出た! すごいパイプ」


 アリスが久々に出たオリハルコン製のパイプを見てはしゃいでいる。アリスは続けて勇也に言う。


「あたしたちもコスモガンがあるから大丈夫だよ。早く撃ちたいなぁ」


「あんまり目立たないようにしてくれよ」


 勇也は苦笑しつつ二人を連れ、部屋を出て階段を降りる。


「おかみさん、お世話になりました。そろそろ『違う大陸』へ行ってこようと思います。余った肉はみなさんで片付けてください。あ、念のためコロナダイトをもうちょっと頂けるとありがたいんですが。なにせ長旅になりそうで……」


「おや、突然だね。さっき姫様になにか言われたのかい。こんな早く旅立つなんてさ。コロナダイトだったら裏から持って行っていいよ。長旅になるならしっかり準備しないとね。道中気を付けるんだよ」


「ハイ! がんばります。それでは行ってきまーす」


 勇也たちはおかみさんに手を振って宿を出る。そして倉庫からコロナダイトを数袋取ってひとまとめにしてから『圧縮ソケット』で小型化する。念のためあたりを見渡し、見張りなどがいないのを確認してから大森林へと足を向けた。


「ユーヤ。さっき『違う大陸』って……大森林じゃないの?」


 マリアが早速質問してきた。この問いに勇也はすぐ答える。


「ああ、ただの牽制だよ。でもいつかは行くんだし間違ってないだろ」


「あはは。ユーヤずるーい」


 アリスが楽しそうに言う。


「ははは。これ、アリスさんや。人聞きの悪い事言わないでくれたまえ」


 勇也はサラ姫の意見が通らず、逆に自身の武器を没収された事で王国に対して警戒心を抱いている。今後レーザーブレイドを見た王国の人間が勇也にアクションをかける可能性もあるため、それとなく嘘の情報を流し、かく乱しようとしたのである。


「ま、しばらくはこの大陸にいるけどな。あーあ。遺跡に入れりゃ楽なのになぁ……」


「でもユーヤ。どうして遺跡にこだわるの? 入れないならすぐに出て行けばいいのにさー」


「ああ。『無限ボックス』が欲しいんだよ。あれがないと今後きついし……」


「……『無限ボックス』って?」


 聞きなれない『無限ボックス』なる単語にマリアが反応する。


「おう。なんでも持ち運べる箱さ。コテージとかでも運べちゃう優れもの。食品も仕舞っておけば腐らないんだぜ」


「ええーっ! なにそれー。欲しい!」


 アリスが目をキラキラさせて飛びついてくる。どうも「腐らない」というフレーズに反応したようだ。


「俺はそれが欲しくて遺跡にこだわっているのさ。『無限ボックス』はサイテックの亜空間技術でしか作れない。すなわちこの大陸でしか関係する部品が発見できないんだ」


「それで遺跡にこだわってるんだ。でも姫様もうそつきだよね。ユーヤってばタダ働きじゃん。何もくれないばかりか没収なんてひどすぎるよ!」


 アリスがサラ姫に対し、怒りを隠さずになじり始めると、勇也がそれをたしなめた。


「まあ、そういうなよ。お金は200万カーネくれるって言ってたけど、なんか恩着せがましいから断ってやった。たかが200万カーネ位でドヤ顔されてもうっとおしいじゃん。遺跡の件は多分、姫様がまだ子供だから大人は信じなかったんじゃないか? 今考えると俺も焦ってたかもしれん。あのときはうまくいくかもって思ったけどさ。そもそも国王陛下が宿無し冒険者なんかに普通会うか? 封印して終わってた遺跡の魔獣なんか倒したって、『だから何?』って感じじゃん。国を救った訳じゃないんだし」


「に、200万カーネをたかが……って……」


 褒賞金を断った事についてマリアが呆然としているが、アリスは怒りが収まらないようでまだぷんすかと怒っている。


「でもさー、レーザーブレイドは取り上げられたんだよ。やっぱり信じてる人もいるんじゃないの?」


「そうかもな。姫様も俺も焦ってたんだろうな。先にレーザーブレイドを見せれば展開は変ってたかもしれない。でも『こんな危険な武器を開発できるヤツは危険だ』とかいって暗殺されそうな気もするんだよな……。なんか信用できないってのが俺の王国のイメージだわ」


 勇也は先日サラ姫と話をしてから派手に魔獣を倒していく以上いつかは超古代武器の存在がバレる事を予測している。

 もともと勇也はこっそりと超古代武器を開発し、魔獣を倒していくつもりであった。だが今回の件で王国に警戒されたと感じたため、装備を整えつつ一旦距離を置き、ほとぼりが冷めるまで潜伏しようと考えたのだ。

 実際は補給などで他人の力も借りなければならないので、ある程度の信頼の置ける協力者が必要であることも勇也は承知しているが、協力者になりそうだったサラ姫はあっさりと王国に言い負かされてしまった。そのため潜伏を余儀なくされてしまったのである。

 勇也が自身を「焦った」と表現したのは、サラ姫が信頼に足る人物でも、彼女の周りにいる人間の事に考えをめぐらせずにサラ姫の提案を呑んだ事に対してである。

 その結果が現状の逃亡劇なのであり、勇也は王国には不信感を抱いていても、サラ姫については「優しいまっすぐな少女」という認識のままであって、今回の件で特に恨んでいるような事もない。勇也自身にも反省材料は多くあったからだ。


 マリアが勇也に声を掛ける。


「……でも陛下がレーザーブレイドを見たら驚いてユーヤを呼ぶかもしれないわ」


「……呼ばれても俺は記憶を失った事にしてすっとぼけて逃げるわ。最初『ごみ』だって言ってたのに今更返せだなんて知るかよってんだ! なあ、アリス」


「あははは。そのとーり! 逃げろ逃げろ~」


 アリスが手を握って勇也を引っ張る。マリアも負けじと勇也の手を取り、3人わいわいとはしゃぎながら大森林の入り口へと差し掛かると、これまたはしゃぎながら戻ってくる4人の冒険者パーティーが現れた。


「おっ。ブランたちじゃん」


「あっ、ユーヤだ!」


 タルテたち一行が和気あいあいと前からやって来る。よくみるとブランが背負っているのはクグルフ……ではなくてベア・ボアであった。


「おっ。それベア・ボアじゃん。もうそんなの狩れるようになったん?」


「うんっ! 聞いて聞いて。あたしたちもさあ、ハウンドウルフとかプチボアを繰り返し狩って随分慣れてきた気がしたんだ。それで大森林に行ってみようって……」


「くやしいけどユーヤの言うとおりにしたら結構耐えられるようになってさ。うまく4人がカバーし合えるようになってきた。すごく助かったよ。ありがとう、ユーヤ」


 クグルフたちが素直に勇也に感謝の意を表す。マリアとアリスは宿屋で既にタルテたちが勇也の助言に従った途端にハウンドウルフを13匹も狩れたことを聞いているが、その時は勇也は引きこもって武器の作成に勤しんでいたため、タルテたちが感謝していた事をはじめて知ったのであった。


「なーに、別にいいよ。おっ、ブランもシールド装備してうまく敵を倒せるようになったみたいだな。よかったよかった」


「ああ。シールドで叩くと簡単に倒せるんだ。防御もできるしね、今ではこの戦い方は僕にぴったりだと思ってるよ」


「それ、力任せに叩いてるだけだろ……。まあ、いっか……」


 微妙な顔つきの勇也へ今度はクリムが話しかける。


「ところでその格好、どこかに行くの?」


「ああ、ちょっと違う大陸へ旅立とうと思ってさ。その前に補給して行こうかと思って」


 その話を聞いた4人が一斉に驚く。


「えーっ! 旅に出ちゃうの? 折角今度一緒に狩りをしようと思ったのに~」


「あはは、悪いけど、また今度あ……ん?」 


 勇也の視線の先には怒り狂ったベア・ボアが一匹猛烈な勢いで突進してきている。どうやらブランが背負っているベア・ボアのつがいだったのかもしれない。勇也は突進してくるベア・ボアへと向かう。


「マリア。アリス。行くぞ。4人とも、折角だから俺らの戦い方を見せてやるよ。ちょっと下がっててくれ」


 勇也は突進するベア・ボアに対して正面をとり、マリアは右へ、アリスは左へと展開し、3人同時に駆け出した。


 そしてベア・ボアがマリアとアリスの間を通ろうとする一瞬のタイミングで勇也が合図を送る。


「二人とも、今だ!」


「スプレッドスラッシュ!」


「ウインドカッター!」


 勇也の号令によって発動したほぼ真横からの双子の魔法攻撃がベア・ボアの首に直撃する。そしてベア・ボアがのけぞるタイミングで勇也が踏み込み、脳天にオリハルコンパイプを振り下ろした。


 ――ごきょっ!


 嫌な音と共にベア・ボアの目玉が飛び出し、ずるりと首が落ちていく。魔法攻撃によって千切れかけた首が脳天からの一撃によって完全に千切れたようだ。そのまま首のない胴体もばたりと倒れる。


 こうしてベア・ボアは仇を討ち果たせずにあっさりと絶命した。


 それを見たタルテたち4人は口を開けたまま硬直している。


「…………」


「…………」


「…………」


「…………」


「…………おい」

 

 未だにぽかんと口を開けたままの4人に勇也が声を掛けると、ようやく我に返った4人が口を開いた。


「……し、瞬殺って……」


「双子のあの動き……魔獣に攻撃すらさせないなんて……」


「魔法ですでに死んでたんじゃない?」


「目玉が飛び出るほどの一撃なんて……どれだけ……」


 口を開いた4人はぶつぶつと言っているが、構わず勇也が解説を始める。


「あー、まあ、位置が戦闘では大事ってことかな……。戦いは数だよ、みんな。一斉攻撃で倒せば楽だし、それを可能にする位置を見極めるといいよ。それぐらいかな、俺が言えるのは」


「ホントはもっと楽……むぐっ!」


 余計な事を言おうとしたらしいアリスの口をマリアが塞いでいる。


「……ホントにユーヤってば強かったんだね。あたしたち強くなった気でいたけど、まだまだだってわかったよ……」


 タルテがさびしそうにつぶやき、ほかの3人もうなだれている。


「まあ、俺たちは結構慣れてるしな。マリアとアリスだってよく採集してるときに親御さんと一緒に戦闘をこなしてたらしいから、動きが早いんだ。要は経験だよ。みんなもこの間より強くなってるんだからさ、もっと自信もてよ」


「うーん。経験かぁ……もっとがんばらなくちゃね」


 勇也はうなずき、今度はブランたち男子に向き合って言う。


「お前ら男子もがんばれよ。このパーティーはもっと経験を積めば今以上に強くなれると思うぜ」


 今度は力強くうなずく4人。勇也はベア・ボアを見ると思い出したように言った。


「あのベア・ボアは俺たちには荷物になるからあげるよ。たくさん食って元気に頑張ってくれ」


「えっ? いいの?」


 タルテが不思議そうに聞いてくる。勇也はうなずきながら答える。


「かまわないよ。遠慮なく持っていってくれ」


「……それじゃあ、遠慮なくもらってくね」


「ありがとう、じゃあ……」


 早速4人はベア・ボアの血抜きを始め、それを見た勇也が満足そうにうなずき、最後の挨拶をする。


「それじゃあ、達者でな」


「ばいばーい」


「さよなら……」


 手を振って歩き出す勇也たちに、タルテたちも手を振り返す。


「またねー」


「ありがとう」


「今度はもっと強くなっておくよ」


「ユーヤたちもがんばってくれ!」


 そして、ベア・ボアの解体中、タルテがふと顔をあげると、


 勇也たちの姿はすでに見えなくなっていた……。


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