第二十六話 清算
翌朝になってオーエンは自分の考えを国王へと奏上し、是非を求めた。王の間には昨日と同じ顔ぶれが揃っており、萌黄色のドレスを着たサラ姫の姿もあった。
「ふむ。つまりはその冒険者に見張りを送り込むわけか」
「左様でございます。昨日私も姫様が持ち帰られた魔獣の死体を見てきました。どうも見た事のない傷跡でして、『魔法剣』ではなく『光の剣』でなくば説明できないような状態です。やはりかの冒険者は褒賞を与えて後は野放しという訳にはいきません。かといって雇用するにしても人となりが不明な以上すぐに雇うわけにも参りません。そこでしばらく王国の息のかかった者をギルドに派遣し、監視しては如何でしょうか?」
その意見を聞いたサラ姫がオーエンに切り替えす。
「そんな都合良く監視できるわけなかろう。せいぜい信頼されるのは友人のわらわか遺跡警備隊長のモバーン位じゃ……。ん、なるほど……。わらわにユーヤの監視をさせるというのじゃな……。うむ、了解したぞ! わらわが一緒に旅をして監視してやるぞい!」
そんな息巻くサラ姫を国王と家臣団はスルーし、オーエンに話を続けるように促す。オーエンはサラ姫に聞いた。
「姫様。王族が軽々しく冒険者と一緒に旅に出てはなりませぬ。私の考えはギルドに監視を命じ、王国主導のパーティーと共同戦線を張らせたりしてみては如何かと。もちろん姫様の仰るように王国の息のかかった者を『コシロ・ユーヤ』のパーティーに入れるのも良い案だと思います」
「しかし、そんな人材はおるのか? そもそも共同でやっていけるような腕の立つ冒険者がおらんじゃろうに。大体ユーヤはギルドに登録しておらんから無駄じゃぞ」
「それは本当ですか? てっきり登録しているものとばかり……」
一般的にはギルドに登録するのが駆け出し冒険者のスタイルである。だがゲームでの知識が生かされることをユニテルから聞いた勇也は、強制クエストなどを嫌ってギルドには登録していない。オーエンは考え込むが、すぐに顔を上げて修正案を出した。
「では、姫様。そのユーヤなる冒険者は男なのでしょう? 王国の女性冒険者でパーティーを組ませ、彼女らに声をかけさせて共同で行動させては如何でしょう? 魅力的な女性の頼みであれば嫌とは言いますまい」
「お馬鹿! ユーヤがそんなのに……引っかかるかもしれんが、ユーヤにはすでに親衛隊がおる。無駄じゃろうな」
サラ姫は自分がレーザーブレイドを作って欲しいと思い、自身の胸を勇也に触らせようとして勇也が乗ってきた事を思い出していた。そのためサラ姫はオーエンの策が勇也にはうまくいきそうな気がして不安になったが、自身のときはマリアに阻止された事も思い出したのだ。
(……まあ、双子がいれば大丈夫じゃろ。あの二人がいればユーヤも色仕掛けには引っかかるまい……)
サラ姫がそんなことを考えていると、国王が口を開いた。
「……うーむ。『光の剣』が無ければ唯の冒険者なんだろう。サラ。そなたはその冒険者を知っているのだったな。そなたが『光の剣』を回収して来い。その後は街などの門番や関所の見張りを強化する程度でいいだろう。まことの実力者であれば『光の剣』がなくとも名を上げるだろうよ」
「しかし陛下。それでは姫様が危険ではありませんか?」
「十分に警護の者を置くようにせよ。『光の剣』を受け取るときは距離をとり、人を挟むようにな。いいな、サラ。オーエンは念のため女性冒険者を集め共闘を持ち掛けさせ、さらに街の門番や関所に冒険者の動きを注視するよう伝えよ」
「かしこまりました」
うやうやしく礼をするオーエンとは対称的に、だまって頭を下げただけのサラ姫であった。
(……気が重いが、仕方ない。わらわが誠意だけでも見せねばのう……)
サラ姫は終始浮かない顔をしていた。
☆~~~~~~~~~~~~~~☆
そんなサラ姫がターミナに着き、モバーン達を招集している頃にはミノタウロスの討伐から7日程経っていた。
サラ姫が王都へ戻っている間、勇也はダメもとでごみ山を漁り、オーパーツの一つ『ミスリルレンズ』と『粒子形状固定リング』を2つ手に入れている。
遺跡に入れない以上はごみ山へ行くしかなかったが、取り尽くしたと思ってもまだまだあるものである。そんなこともあって勇也は遺跡に入った時、未踏のエリアから何が得られるのか期待し始めている。
勇也はごみ山で部品を収集したその後はみっちりと生産作業に入っており、すでに自身の武器の仕上げに入るところであった。
「そろそろ充電終わったかな?」
早速仕入れたコロナダイトで『小型発電機』を起動し、『無線コネクタ』を使って『小型パワーモーター』の充電をしている。
マリアもアリスも正直勇也がなにをしているかがわかっていないようだったが、スマホのゲームで遊んでいるらしく退屈はしてなさそうだ。最初あまりにヒマそうだったのでやらせてみたらかなり興味を示し、今では自分で起動できるまでになっている。
「ユーヤ。私たちの装備は作り終わったんでしょ? 何を作っているの?」
マリアが勇也に問いかける。事実、二人の装備はあっさりと完成しており、今勇也は別の武器を作っている最中であった。
「ん~、これかぁ~。出来てからのお楽しみ。ふひひひひ。あとはコイツの充電もすれば……。ウケケケケケ」
「ひっひひひーん」
「もう!」
マリアはあきれ返っているが、アリスは一緒になって笑っている。そんなアリスがはしゃいだ声を出した。
「あっ! レベルがあがったかも。ねーねー、ユーヤ。これってどれ位強いの?」
マリアとアリスは日本語が読めないので、スマホのゲームの文字がわからず、それで勇也に聞きに来るのだ。
ちなみにやっているのは超有名なRPGのようだ。軽快なファンファーレが成り、勇也は聞いただけでレベルアップしたであろうことがわかった。アリスも音で判断したようだ。
「おう、いまどんくらいあがったん? ……また随分上がったな。ひょっとして結構時間たってる?」
「うん。半日はたってる。最近ご飯のときぐらいしか降りてこないから、おかみさんが心配してたよ……」
「あっちゃ~。そりゃすまん。ぜんぜ……って、あれ? 姫様じゃね?」
ふと外を見るとモバーンを先頭に車両を引いた韋駄鳥の部隊が宿屋の前に来ていた。もちろんサラ姫も一緒である。以前と違うのはサラ姫がドレス姿であり、車両に乗って来ていた事だろう。勇也が見たのは丁度サラ姫が車両を降りる時であった。ほどなくして勇也が呼ばれる。
「ちょっと二人とも、部屋で待っててくれ」
「はーい」
「うん」
ゲームに夢中のアリスとそばで見ていたマリアが答える。勇也は返事を聞いて下へ降りロビーへ行くと、モバーンとサラ姫、さらに護衛の騎士が待機しておりなんとなく物々しい雰囲気であった。
「ユーヤ」
モバーンが勇也に声を掛けると、護衛の騎士がサラ姫を庇う様に前へでて、高圧的に勇也へ言った。
「姫様の御前である! 控えよ!」
「は、はあ……」
いままでこんな態度を取られた事がなかった勇也は、いきなりの高圧的な態度に呆気に取られる。その騎士はさらに怒鳴った。
「無礼者! なぜ跪かんのか!?」
それを聞いたモバーンが唇だけで勇也に「したがっておけ」と合図し、それを見た勇也が片膝をつき頭を下げると、悲しそうな顔をしたサラ姫が声を掛けた。
「コシロ・ユーヤよ。陛下のお言葉を伝える。魔獣討伐の功により200万カーネの褒賞金を授ける。だが王国の事情により遺跡は今後封印するため、侵入は禁止する。さらにもともと王国の資産でもある『光の剣』は回収させてもらう……」
「ファッ!?」
サラ姫の話を聞いた勇也は思わず素っ頓狂な声を上げる。すると護衛の騎士がまた怒り出した。
「貴様! 何だその態度は!」
「やめよ!」
サラ姫に一喝されてしぶしぶ下がる騎士。もともとサラ姫はモバーンと二人で勇也の元に来るつもりであった。だが国王の命令により近衛騎士団もついて来てしまったため、今までのようなフランクな話し合いが出来ず、サラ姫も気に病んでいる。
彼女自身は堅苦しい儀式や庶民を見下すような事が嫌いなため、今まで勇也とは友達のように話が出来ただけであり、本来トキーノ王国では王族の前に出るときは庶民は跪くものなのである。
なので今回の対応が正しい王族との会話方法のなのであり、騎士団の勇也への態度もまた当然といえた。
(うーん、王族相手にするときって本来こうするのが普通なのかな? だとすると今までは姫様は見逃してくれてたのか。やっべー。不敬罪でしょっぴかれるとこだったかも。……しかし回収か。王都でなにがあったのやら……。どうすっかな……)
勇也が頭の中でいろいろ考えていると、サラ姫がまた声を掛けてきた。
「……何か意見があるならば聞こう。遠慮なく申してみよ」
(うーん、なんかめんどくせぇな。どっちみち遺跡に入れないならこんなとこいてもしょうがねぇしな……。あとで神様に聞くか。しかし、レーザーブレイドはともかく今作ってる武器まで回収されるのはマズイな。こうなったらいっそ清算すっか……)
勇也は顔を上げ、サラ姫に自分の考えを伝える。
「――身に余る光栄にございます。王女殿下。ですが討伐は王女殿下のお力によるもので私の力ではございません。よって褒賞は辞退し、また『光の剣』と『光の矢』を返却いたします。お貸しいただきありがとうございました」
「えっ?」
褒賞を全て辞退し、武器をも差し出す勇也に驚愕するサラ姫に対し、さらに勇也は言葉を続ける。
「……ですが『光の剣』は部屋にありますが、『光の矢』は遺跡内にあると思います。私は遺跡に入れないため、願わくばそちらで回収していただきたく。剣はいまお持ち致します」
勇也の話を聞き、悲痛な顔をしているサラ姫をよそに立ち上がり、部屋へと向かう。すると見張りと称してモバーンがついてきた。モバーンが勇也に小声で話しかける。
「……おい、ユーヤ。いいのか? 『光の矢』まで返さなくてもいいんじゃないか? 丸腰になっちまうだろ? 『光の矢』は今俺が持ってて、こっそりあとで返そうと思ってたんだぞ!」
「そうなんですか? でもいいっすよ。多分それ壊れてるし……お、ちょっと待ってて下さい」
勇也は部屋に入るとすぐにマリアとアリスにわざとらしく声を掛ける。どうやら先程の話からモバーンは他の武器の事は知らない振りをしてくれるようだ。勇也は心の中でモバーンに感謝した。
「マリア。レーザーブレイドない? 俺どこに置いたっけ?」
「……どこ置いたの?」
「うーん、こっちかなあ?」
そういって探す振りをしつつマリアへ超古代素材を片付けるよう耳打ちし、アリスがレーザーブレイドをもってやってくると素早くエナジーパックの燃料を5分の1くらいまで減らす。
そうした細工をしてからレーザーブレイドを持って、モバーンと一緒に元の場所まで戻っていった。
「王女殿下。『光の剣』でございます。どうぞお納め下さい」
勇也は戻るとすぐに跪き、サラ姫にレーザーブレイドを献上する。それを騎士の一人が受け取り、確認してサラ姫に渡した。
受け取ったサラ姫は光刃を出す事もなく、力なくうなずき近くの騎士に手渡す。渡された騎士が偉そうに勇也に声を掛ける。
「冒険者よ。お主の忠誠、しかと国王陛下へと伝えよう。大儀であった」
「ははーっ」
実は勇也は見よう見まねで敬っていた。漫画やテレビでやっていたのを記憶を頼りに真似しただけである。サラ姫のことを「王女殿下」といったのも日本が皇族のいる国だったから知っていただけであった。
勇也は頭を下げたままであるため姿を見る事はできないが、騎士団たちは外に出ていっているようだ。やがて勇也が顔を上げると最後に出ようとしたモバーンと目があった。
「またな」
そう言ってモバーンが外に出ると、あたりは静寂に包まれる。
勇也は肩をすくめた後、部屋へ戻ってマリアとアリスに声を掛けた。
「おい、二人とも。バックレるぞ!」
サラ姫が泣いていた事に勇也は気付かなかった……。




