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第二十五話 オーエンの策謀

あけましておめでとうございます。

今年は20万文字数突破目指してがんばります。

「お呼びでございますか」


 サラ姫が国王の前に出て一礼する。国王はうなずくと早速勇也の扱いについてサラ姫に伝えた。


「うむ。先程のサラが奏上してきた『コシロ・ユーヤ』なる冒険者の件についてだが……」


「はい」


 サラ姫は緊張した顔つきで国王を見る。しかし、国王の決定した褒賞はサラ姫が勇也へ伝えた内容とは全く違ったものであった。


「まず200万カーネの褒賞金を与え、サラの感状も付ける。だが今後、王国は遺跡を再度封印するため遺跡内への立ち入りを禁じ、『光の剣』とやらも回収する。サラの言う『特別遺跡探査官』の話も無しだ!」


「えっ! かい……しゅう……?。えっ?」


 サラ姫は一瞬国王の言った事が良くわからなかった。魔獣の討伐は勇也の力で成功し、そんな実力者の勇也をスカウトしたのも、勇也の持つ超古代スキルが王国に発展をもたらすと信じての事である。更に聞き捨てなら無いのは『光の剣』を回収するという。一体どういうことなのか。


「へ、陛下……。どうしてでしょうか? 彼は約束どおり魔獣を倒し、わらわにも『光の剣』を見せて能力を証明しております。城の地下に彼が倒した魔獣の死体を保管しており、見ていただければわらわの言った事が嘘ではないとわかりましょう。それがどうして遺跡の封印と『光の剣』の回収という結果になるのですか? 遺跡を開発し、古代の技術を収めればトキーノ王国はもっと暮らしやすくなると信じております。そのためには彼の能力が必要であり、それを生かすために彼に仕官を勧めたのです。まずは彼に会って判断してはいかがでしょう。どうかもう一度お考え直し下さい」


 サラ姫は必死に懇願するのだが、それを受けた国王はやさしく諭すようにサラ姫に言った。


「サラ。これは評定ですでに決定した事だ。それにこの討伐の件は余の命令ではなくそなたの独断だ。それでもその冒険者に余は200万カーネの褒賞を出し、そなたの感状も付ける。なぜ不服なのか? そもそも遺跡の封印は余が決定した事であり、勝手に解除したそなたを罰せねばならんのだぞ」


「そ、それについてはわらわも罰を受ける事に異論はございませぬ。ただ、どうか彼の者に一度でも会ってみてくださりませ。信用置けぬならばわらわが監視致しまする。彼の者は古代語をも読めるため、必ずや役に立ちまする。どうか……」


 サラ姫は常に純粋にトキーノ王国の繁栄を願っており、勇也を推薦するのも勿論王国のためである。勇也はサラ姫自身が興味を持つサイテックの技術に詳しく、また剣術に優れ、封印するほどの魔獣を切り伏せた。

 しかも最初は勇也自身は官職につくのを渋っていたのをサラ姫が説得したのだ。そんな稀有な人物はなんと王国についてくれるというのである。サラ姫は何度も国王に勇也の優れているところを説明した。

 

 だが、それが良くなかった。


(余の娘が他の男についてこれほど熱く語るとは……、不愉快極まりないわ!)


 サラ姫が説得するごとに、国王の機嫌がだんだんと悪くなっていく。国王の側でそれを見ていた財務大臣ゼーニィが危険を感じたのか、サラ姫に意見をのべる。


「姫様。よろしいでしょうか?」


「えっ。あっ……」


 急に話しかけられたサラ姫は、身構えながらもうなずく。それをみてゼーニィが話し始める。


「姫様。誤解なさらないで頂きたいのですが、陛下は別に遺跡に興味が無くて封印するのではございませぬ。以前遺跡を発掘したときは臨時に予算を組みました。これは未知の領域に財宝があるかもしれないと期待したからです。結果はご存知の通り、箱やら線やらしか出てこなかったあげく、魔獣が出現して2名が殉職という大赤字でございます。責任者として姫様の悔しい気持ちは私にも理解できますが、これ以上の開発は臨時に税率を上げ、新たに予算を組まなくてはなりません。遺跡の開発のためにこれ以上税率を上げれば陛下は暴君として名を残すかもしれませぬ。ここは御伽噺の世界ではなく現実世界であり、国の活動であるならば常にお金がかかります。どうか姫様、ご理解いただきますよう……」


 ゼーニィの話を聞いた国王は苦笑いをしている。予算の話を出され、さらに父である国王を暴君にするつもりかとも言われ、サラ姫は自分の意見は通らない事を悟る。サラ姫は肩を落としながらも国王に向き合い、国王の言うとおりの褒賞の内容で拝命した。


「……かしこまりました陛下。褒賞の件、しかと彼の者に伝えまする。それとわがままばかり申し上げた事、平にご容赦願います……。わらわへの処罰の件はいかようにもしてくださりませ……」


 サラ姫は一礼し、処分を受けようと片膝をつき頭を垂れる。しかし、国王が声を出す前にいち早く総理大臣のシクハーグがサラ姫をかばった。


「陛下。姫様は命令違反を犯しましたが見事魔獣を討ち取り、地下に証拠の死体を搬入しております。これを功とし、命令違反の罪を相殺してはいかがでしょう。姫様を罰すれば兵の士気にもかかわりましょう」


 国王は黙ってうなずき、サラ姫は恩賞がないかわりに無罪放免となる。もっとも誰も反対しないところを見ると、もともと誰も命令違反などで処罰する気はなかったのかもしれない。なんだかんだでサラ姫はみんなに愛されており、無事に帰った事を皆喜んでいるのだ。


(じいや……)


 シクハーグにお辞儀をし、国王に一礼して、サラ姫は王の間を後にした。


「まだ15歳か、それとももう15歳か……。むずかしいのう……」


 国王はため息をつき、オーエンの顔を見る。しかし、彼は何かを考えているようで国王の視線には気付かないようであった。


 国王は気を取り直し、声を出す。


「よし。今日はこれで終わりだ」


 国王の掛け声で評定は終わり、家臣団はそれぞれの職務に戻る。


 そして、オーエンはひとり地下に向かった。




 ☆~~~~~~~~~~~~~~☆




 地下のとある部屋の前まで来ると、見張りの兵士がすぐに部屋のドアを開ける。


「こ、これはオーエン様」


 驚きお辞儀する検死団にオーエンはうなずき、ミノタウロスの死体の前まで来ると異様な光景に目を見張る。何しろ巨大な魔獣の死体は3つに分断されているのだ。オーエンは思わず側にいた検死官に聞いた。


「これ。これは検死の際に死体を3つに切ったのか?」


「い、いえ。姫様が仰るには冒険者が切ったと……」


「……馬鹿な! これほどの魔獣をこうもばっさりと切れるのか?」


「……無理でしょう。剣が肉の弾力で止められてしまいます。特にこの魔獣の肉はかなり高密度です。相当な圧力か、もしくは名剣でなければ剣自体がもちません……」


「うむ……だが、これは……」


 だが、実際にミノタウロスは3分割されており、オーエンはそのまま口を閉ざし、ミノタウロスの切り口をしげしげと眺める。

 死体の切り口には若干の焦げ目があり、使用武器がただの剣ではないことがうかがえる。オーエンは再び検死官に聞いた。


「これは『魔法剣』を使用したのだろうか?」


 オーエンの問いに検死官がふるふると首を振りながら答える。


「いえ。恐らくは違うかと……。死体の全ての切り口からは魔力を感じません。信じがたいですが、われわれも姫様の仰られる『光の剣』であろうと言わざるを得ません。何しろ証人が姫様なのです。姫様が嘘を付くとは考えられませんし……」


 その検死官の話を聞き、自らもミノタウロスの死体を見たオーエンは呆然としている。自分の知る武器ではどうやってもここまで豪快な傷は付けられない事が解ったからであった。


(一体どうしたらここまで切断できるのだ。姫様にも詳しく聞いてみなければ……。もし『光の剣』が実在し、『コシロ・ユーヤ』なる冒険者が回収に応じなければかなり危険だ。早急に手を打たなくては……)


「オーエン様?」


 しかし、オーエンは返事もせず、ぶつぶつ呟きながら部屋を出て行き、サラ姫の部屋へと向かう。


(姫様がまだ休まれて無ければいいが……)


 階段を上り、サラ姫の部屋の前まで来ると丁度メイドがティーセットを片付けているところであった。作業中のメイドにオーエンは声を掛ける。


「これ。すまぬが姫様にオーエンが来たと伝えてくれぬか? 少しお話がしたいのだが……」


「はい。少しお待ちください」


 きっちりとお辞儀をし、ドアをノックをしてからサラ姫に声をかけるメイド。

 程なく「入れ」と声がかかり、ドアが開かれる。


「失礼いたします」


 サラ姫は先程の褒賞に納得がいってない様で憮然とした表情をしている。オーエンは単刀直入に聞く事にした。


「姫様。私は先程地下の魔獣の死体を見てまいりました。そこでお伺いしたいのですが、一体どのような倒し方だったのでしょうか?」


「『光の剣』と言ったじゃろ。どのようなとはなんじゃ?」


「はい。あの魔獣の持つ筋肉はかなりの密度であり、普通の剣ではあのように切断できません。『光の剣』はどのような物だったのでしょう? もとの剣に光を宿したのか……。もしくは……」


 オーエンは一旦区切ってサラ姫の顔を見る。サラ姫はオーエンの言いたい事を理解した。


「……ふん。『光』自体が刃になっておったよ。わらわも触ったし、モバーンも見たのじゃから間違いない。結局わらわは役立たずじゃったがのう……」


「まことですか? モバーンまで見たと? 実際にそんなものがあるとは……。しかも姫様は御触りになられたのですね?」


 こくりとうなずくサラ姫。だが彼女は一度も『光の剣』で敵を切ったことはない。一撃を受けてあっけなく手放したからである。それを思い出したのかサラ姫は複雑な顔つきをしていた。


「……わらわはあのとき魔獣の一撃で『光の剣』を手放してしまってのう。わらわはもうダメかと思ったが、ユーヤが『光の剣』を拾った後、そのまま魔獣を背後から一撃でバラバラにしおった。不敵に笑いながら……」


「……一撃……バラバラに……」


(……ちょっとかっこよかったな……うふふ)


 サラ姫の恥ずかしそうにボソリと話した内容をオーエンは聞き逃さなかった。その言葉でオーエンは完全に勇也に対し危機感を募らせる。


(――まずいな。姫様は『魅了チャーム』にかかっているのだろうか? もしそうなら陛下に知られる前に早く『光の剣』を回収しなくては……)


 なにが危険かというと、このサラ姫の態度を国王に知られれば、必ず国王は怒り狂って勇也に討伐隊を差し向けるであろうと予測したからである。

 オーエンは国王が無類の『親バカ』である事を知っており、もし勇也が女性だったら普通に『よきにはからえ』で終わってた可能性を否定できないと考えている。尤もその時は国王を諌めるのに苦労したであろうが。

 すでにオーエンは『光の剣』が本当にあると考えている。その持ち主の勇也が回収に応じず、反撃すれば王国の被害も甚大なものになるだろう。オーエンは勇也の人となりをサラ姫に聞いてみることにした。


「姫様。その冒険者は『光の剣』の回収に応じると思いますか?」


「遺跡の開発を反故にされてユーヤが素直に応じるとは思えぬのう……。まあ、どんな結果になろうとわらわが直接ユーヤに伝えてくるわ。それが誠意というものじゃろう」


 サラ姫は勇也は怒っても結局は許してくれるか、もしくは『そっか』の一言で終わるのではないかと考えている。その予想は勇也の性格を正しく判断していた。しかし、会ったことなく噂でしか勇也を知らないオーエンの反応は当然違っている。


「なっ……! ひ、姫様が行かれるのは危険です。逆上して姫様を亡き者にし、王国に刃向かう危険があります。別の人間に依頼しましょう。誰か適任者はいないでしょうか?」


「なーにを言っておるのじゃ、このお馬鹿! ユーヤがわらわにそんなことするものか。するんだったら封印を解いた時点でわらわをばっさり切り捨てて遺跡を漁っておるわ!」


「しかし万一という場合もございます。姫様は軽々しく冒険者などにお会いになってはなりません。別の顔見知りにでも任せるがよろしかろうと……」


「うるさいのう。そんなに心配ならお主が見張りでも護衛でもなんでもせい!」


 サラ姫にお前が見張れと言われ、冗談じゃないと思ったオーエンだったがふとある考えが閃く。


「……見張り? ふむ、なるほど……」


 オーエンは一人納得した表情でうなずいている。


「うん? これ、オーエン、どうしたのじゃ?」


 しかし、オーエンはいぶかしげな表情のサラ姫に一礼して部屋を出ると、来たときと同じようにぶつぶつ言いながら自分の屋敷へ向かっていく。


(ううむ。問題は人選だな。王国に忠誠篤く、そしてその冒険者とすんなり溶け込めるような人材……。やはり顔見知りがいいだろう。 姫様以外でそんな人材が……。そういえば……)


 そんなオーエンが自分の屋敷へ着く頃にはすっかり日が落ちていたのであった。

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