第二十四話 王の判断
部屋に戻った勇也たちは早速おかみさんから譲り受けたコロナダイトを磨り潰す作業に取り掛かる。
勇也は途中で力尽きた双子を寝かしつけると、昼間の疲れを感じさせる事もなく、明け方まで一人でコロナダイトの粉末化に勤しんでいる。
そんな勇也がベッドに横になった頃には、すでに大量のコロナダイトの粉末が出来ており、補給の体制は万全となっていた。あとは武器の作成だけである。
(……あとは発電機を起動して……)
勇也は次にやる事を頭の中でまとめ、そのまま眠りに着く。
そんな勇也が眠りに着いてしばらくした後、宿舎ではサラ姫が早朝にもかかわらず、回収班に指示をだしていた。
「よいか。封印した魔獣は昨日わらわと勇敢な冒険者によって討伐された。だが油断することなく魔獣の死体を回収せよ。回収したらそのまま保存加工して王都へと運ぶ! では出発じゃ!」
封印した魔獣が討伐されたことに改めて驚いたり、自分も声を掛けて欲しかったなどといろいろな声が兵士たちから上がったが、サラ姫は気にせずに進行を開始する。
気にせずというより聞こえなかったといった方が良いかもしれない。何しろ彼女の頭の中は別の考えでいっぱいだったからである。
(……うう、もう入りたくない。正直こわい。また出たらどうしよう。ユーヤもいないし、わらわも入らないとダメなのかのう……?)
そんなことをずっと考えていると、すでに目の前に遺跡が見えてくる。先行して遺跡に入っていたモバーンが出迎えた。
「おはようございます。姫様、準備はすでに終わっており、いつでも回収作業に入れます」
「……わらわも入らないとダメかのう?」
こっそり、事情を知っているモバーンに小声で話すサラ姫だったが、あっけなくモバーンに却下された。
「……姫様が案内してくださいませんと、作業がはかどりません。回収すべきものや打ち捨てておいていいものの判断は、姫様が現場で実際に……」
「……うむ。わかっておる!」
モバーンに元気よく返事をしたサラ姫だが、モバーンは昨日のサラ姫の憔悴を目にしているため、空元気で自身を奮い起こそうとしている姿がありありと見て取れた。
「だいじょうぶじゃ。ユーヤが大丈夫って言ってたし……」
「はあ、まあ、われわれもついております。ご安心を」
「うむ。助かる」
サラ姫は気持ちを切り替え、周囲を見渡す。すでに照明や運搬台の準備を終えてあり、あとは作業に入るのを待つだけのようだ。
「よし、作業開始じゃ」
サラ姫は自分の気持ちを抑え、率先して入跡する。遺跡の中は昨日となんらかわることもなく、特に荒らされた様子も無かった。
当然魔獣の姿はなく、二人の殉職者の回収を先に行い、最後にミノタウロスの回収作業に入る。回収班の兵士たちから次々に声が上がる。
「おお、まさにこの魔獣だ……!」
「これを姫様が。流石です!」
などと持ち上げられるが、サラ姫本人は戦闘時にはミノタウロスとのレベル差による威圧で腰を抜かしており、また昨日の恐怖を思い出したのか腕を組み蒼白な顔つきで押し黙っている。
「姫様。これはユーヤが!?」
モバーンの質問にうなずき返すサラ姫。豪快に分断されたミノタウロスの死体を見たモバーンがしきりに感嘆の声をあげる。
「すごいな……。死体の全身に傷があるが、なんといってもこの切断面だ。これほどの魔獣をあっさりとバラバラにするとは……」
驚愕するモバーンを見て、サラ姫は昨日の戦闘を思い出す。結局勇也が技の名を叫びながらミノタウロスを分断したが、実は最初レーザーブレイドを持っていたのはサラ姫である。吹き飛ばされ、手放してしまったがもし手放さなかったとしてもこれほどのダメージを与えられただろうか。
いくら光の剣を装備したとはいえ、扱い主が違うとこうも差が出ることを見せつけられ、サラ姫は勇也にわがまま言った事を後悔していた。
(……わらわは光の剣を借りて浮かれておった。だが、結局何も出来ずユーヤに迷惑をかけただけ……。反省せねば……。もうあんな怖い思いするのはイヤじゃ。今思い出すとコヤツはなぜにわらわばっかり狙ってきたのかのう……)
サラ姫は回収されていくミノタウロスの死体を見ながらそんな事を考えていた。だがその理由は大した理由でもない。当時のサラ姫の装備はシルバープレートに白っぽいパンツスタイルであり、そこに明かりの乏しい遺跡内でレーザーブレイドの光刃を出した。
結果、サラ姫は光の反射で目立ち、ミノタウロスに狙われた。ただそれだけである。サラ姫にしてみれば不幸な話であったが、そのおかげで勇也がミノタウロスに背後から接近できたともいえる。不幸中の幸いとも言えなくは無い。間一髪のタイミングではあったが。
(これから王都に戻って、陛下に奏上せねば。ユーヤを『特別遺跡探査官』に任命して、そのあとは遺跡の探索か。わらわも行きたいが、足手まといにしかならぬかのう……)
ぶつぶつと何か呟いているサラ姫に、モバーンがなにかを差し出してきた。
「姫様。これを……」
よく見ると勇也のコスモガンであった。エネルギーを切らしたコスモガンは、ミノタウロスの足を止めるため、後頭部に銃身ごと投げつけられた。
ミノタウロスの高い物理耐性によってコスモガンの光弾は通りが悪かったが、勇也のストレートの威力とオリハルコン製の銃身の相乗効果で結構なダメージを与えていたようである。当たった後頭部は見事に陥没していた。
「うむ。これは『光の矢』じゃな……。モバーン。ユーヤに返しておいてくれるか。わらわはこのまま王都へ立つからのう」
「はっ。了解しました!」
サラ姫がモバーンの返事にうなずく。どうやらあとは何も残っておらず、回収作業は無事終了したようであった。サラ姫は撤収命令をだし、遺跡を後にする。
そしてモバーンたちと別れ、王都へと向かったのであった。
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サラ姫は回収班を引き連れ王都へ戻ると、早速検分のために城の一室に死体を搬入させ、サラ姫自身は国王へ魔獣の討伐報告と勇也の件を奏上するために秘書室へとまず向かった。
そこで報告書類を書き上げ、あとはサラ姫は王を説得するために王の間へと向かうのであった。しかし国王は……、
「この馬鹿者! おてんばも大概にいたせ! なぜに余の命を待たなかった! 倒せたから良かったが一介の冒険者と封印した魔獣に挑むとは、一国の姫のすることか!」
などと国王にしては珍しく激高しており、その姿に家臣団も息をのむ。報告者であるサラ姫はなんとか声をだすのに成功した。
「は。し、しかし陛下。彼は実際にわらわの目の前で魔獣を倒しました。すでに検分班が死体を調査を開始しておりますゆえ、彼の者の実力はすぐにご理解いただけましょう。彼の者はその魔獣を倒すほどの剛の者であり、さらにサイテックの技術に詳しい人材でございまする。遺跡のごみから『光の剣』を作成し、その剣でもって見事魔獣を討ち果たしました。奏上致しましたとおり、彼の者、『コシロ・ユーヤ』を『特別遺跡探査官』につかせ、遺跡を探索し、サイテックの技術を学べば王国の未来は揺ぎ無いものになろうと思いまする。陛下。どうか御一考願います」
うやうやしく頭を下げ、奏上するサラ姫。それを見た国王は立ち上がって怒鳴り返す。
「なにが一考か! お前は余の命を待たずに勝手に討伐に出た。もし失敗したらどうするつもりだった!? 討伐の話を聞き、王妃を始め何人に心配をかけたと思っておる!? しかも遺跡の封印を決定したのは余じゃ! なぜ勝手に解除したのか!?」
「そ、それは遺跡の責任者はわらわで……」
「馬鹿者! 遺跡の責任者たるサラの責任者は余じゃ! 王女のお前が王命をないがしろにしてどうする気だ!」
「……あっと、え……っと」
しどろもどろになりながら言い訳を考えるサラ姫。国王はもともと彼女はベア・ボアの討伐に行ったものと認識している。
大臣のフォローによって兵の人数も増えたと聞き、少しは安堵していたのもつかの間、勝手に遺跡の魔獣を討伐すると言われて、国王の周囲は皆心配していたのだ。あわてて使いを出し、思いとどめようとしたらひょっこり帰ってきたのである。
完全に事後報告となっており、サラ姫の報告書を見た国王は顔を真っ赤にし、怒り心頭であった。
萎縮したサラ姫は目に涙を浮かべ、頭を下げている。そんなサラ姫に家臣団の一人が助け舟を出した。
「陛下。よろしいでしょうか?」
「おう! 政公補(内政の軍師みたいな役職)のオーエンか。なんだ?」
「はっ。では申し上げます。先程ここへ来る途中、姫様の帰還を目にしました。その際に魔獣を搬入しているところを私も見たのでございます」
「だからなんじゃ」
機嫌悪そうにいう国王だが、慣れているのかオーエンは気にするでもなく話を続ける。
「姫様は確かに事後報告です。ですが実際に姫様と冒険者により魔獣は討伐されており、彼の者も王国からの褒美を期待しているでしょう。その冒険者は姫様の依頼を請けた時、恐らく王命で姫様が動いたと見ているでしょうから、危険も顧みずに依頼を請けたやもしれませぬ」
「……で、どうする?」
「はい。姫様が命令違反かどうかは冒険者には関係ありません。魔獣を倒したのがその冒険者であるならば遺跡云々は別にして、報酬は出すべきです。封印の魔獣を倒したとあれば名は上がるでしょう。その際王国が姫様の単独行動だったからといって報酬をケチったなどと思われては、今後誰も王国の依頼は受けないでしょう」
オーエンの話を聞いた国王は、玉座に座り、腕を組んで考え込む。総理大臣シクハーグ(サラ姫のフォローをした彼)が国王に意見を述べる。
「おそれながら陛下。戦には戦機がございます。姫様も返事を待つ時間が無かっただけやも知れませぬ。討伐自体は成功したようですし、ここは姫様の名を上げる策をとるがよろしいかと……」
国王は家臣の意見を聞くと、あたりを見渡す。どうやら皆うなずいており、ほかに意見も無さそうであった。あとは評定するだけである。
「ふん。まあいい。サラよ。おって沙汰する。しばらく部屋にて待つが良い」
「はい。失礼いたしまする」
サラ姫は国王に一礼して王の間から下がる。そのあと、その場にいた家臣団と国王とで勇也の報酬と官職の件で評定が開始された。
「で、その冒険者の扱いだが……どうする? 皆の意見を聞きたい……」
国王自身は本心を言えば馬鹿馬鹿しい話だと思っている。なぜ見知らぬ冒険者などに新たな官職を用意し、王国の遺跡を探索させねばならないのか疑問なのだ。国王自身、遺跡はこのまま封印したいと思っている位であった。
だがサラ姫はいたって真面目な顔をしており、実際に魔獣の死体をみた人間も何人もいるため、あながち全てが嘘というわけでもなさそうである。どうしたものかと悩んでいると、先程のオーエンが意見を述べた。
「ちょっと気になりますな。『光の剣』でもって魔獣を倒したと。サイテックの技術に詳しいと言うのもいささか不思議な話です」
「ふむ。そちはなんらかのからくりでもあると疑っているのか?」
「はい。実際に上級の冒険者なのでしょう。但し、『光の剣』はひょっとしたら『魔法剣』かもしれませぬ。遺跡の責任者たる姫様に取り入るために、何か細工したのではないでしょうか」
ここでいままで黙っていた軍務将官オズハルノが初めて意見を言う。彼は立ち上がり大声で言った。
「その冒険者とやら、どれほどのものか興味がある! わしが立ち会ってやろう。『光の剣』とやら見てみたいわ! 陛下! どうか勝負の許可を!」
だが少し興奮気味のオズハルノの意見を国王はスルーし、かわりに財務大臣ゼーニィが意見を述べた。
「私は遺跡を開発するのはいかがかと存じます。理由は採算が取れませぬ。人員の確保やかかる費用をお考え下さい。発掘品に財宝があれば由、無ければ大損でございます。その遺跡も結局は魔獣が出た挙句、二人の兵を失い財宝も無く大赤字でございます。このまま封印がよろしいかと……」
国王はゼーニィの意見にうなずき、それを見た総理大臣シクハーグがまとめに入る。
「ではこうしましょう。遺跡の役職は無し。そのかわり、封印するほどの魔獣を倒した褒美に、破格の200万カーネの報酬を与え、姫様からの感状も授けてはいかがでしょうか?」
普通ここトキーノ王国のギルドなどの魔獣討伐報酬は過去最大で100万カーネ程であり、これは破格の2倍の報酬である。そのかわりに遺跡は封印する為、役職は無しというのだ。国王が財務大臣の方を向く。
「ゼーニィ。200万出せるか?」
「それくらいならば国庫は問題ありませぬ」
オーエンが再度意見を述べた。
「先程サイテックの話が出ましたが、万が一サイテックの技術がその冒険者によって復活し、その者が王国に牙を向いては厄介です。今後、その冒険者は遺跡の侵入を禁止したほうがいいでしょう。『光の剣』はもともと王国の遺跡にあったものなので没収してしまえば、調べる事もできるでしょうし、彼の者の無力化もできます」
一介の冒険者の勇也ような氏素性も知らぬ人間は警戒した方がいいとオーエンは判断し、遺跡への立ち入りを禁止にするよう提案したのだ。オーエンは『光の剣』の話を気にしており、本人はまゆつばだと思っているのだが万一の事を考えたのである。
「なるほど。それもそうじゃな。よくぞ申した」
国王は家臣団の意見をまとめ、結論を出す。
「よし。その冒険者に200万カーネの報酬を与える代わりに、光の剣は『回収』。遺跡への立ち入りは再度封印のため禁止。当然仕官は無しだ。サラの感状は……まあ、いいか。冒険者なら箔がつくだろう」
皇女の感状にあまり価値を見出せない国王であるが、冒険者にとってみれば名誉であることこの上ないであろう。もっとも、勇也はいらないだろうが。
「よし! これで決まった。サラを呼べ!」
呼び鈴を国王が鳴らすと、すぐにメイドが現れる。彼女に用事を申し付けると、メイドはすぐにサラ姫を呼びに行く。
ほどなくして、サラ姫が現れた。
残念。またも遺跡には入れませんね。神の加護があるんだかないんだか……。
12/28 国務大臣を総理大臣に、皇女を王女へ変更しました。前に書いた皇女も順次修正します。




