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第十六話 姫の依頼

ちょっと修正しました。

「――ほ、本物だあ……」


 目の前にいるサラ姫の姿を見たアリスがぽつりとつぶやく。


「姫様がここにいるって、なにかあったの……かな?」 


 本来こんな宿屋の食堂に来る身分ではない姫がなぜここにいるのだろうか。マリアも疑問に思っていると、サラ姫が明るい口調で口を開いた。


「――いや、皆食事中にすまぬな。ちょっと話を聞きたい人間を探しておってな。こうしてあちこち回っておるのじゃ」


 姫の探す人は誰だろうかと周囲の客もざわつき始める。その喧騒は姫の隣に立つ兵士、モバーンの一声で静まった。


「ああ、姫様。彼です。あそこで少女たちと食事している男が例の……」


「ふむ。そんな強そうには見えぬのう……」


 そういいながらサラ姫が勇也たちの席に近づくと、呆気に取られたアリスに声をかけた。


「これ、隣座っても良いか?」


「えっ! あ、はい!」


 こうしてアリスの隣、すなわち勇也の正面に座ったサラ姫が、勇也に話しかける。


「そなたが ”コシロ・ユーヤ” か?」


「ええ、まあ……」


 周囲がまたもざわつき始めるが、サラ姫は気にするでもなく言った。


「ふーむ。モバーンからの話の印象とは大分違うのう……」


 サラ姫は腕を組み、首を傾げる。その際にしっかりと主張する胸が揺れたのを勇也は見逃さなかった。


(――すげぇな。ゲームでのおばか姫ってあんなおっぱいでっかかったか?)


 シチューを食べながらもサラ姫の胸を見ている勇也。その視線にサラ姫が気付いた。


「お、お馬鹿! 乙女の胸をじろじろと見るでないわ!」


「へっ? い、いや。しらないっす! 自分、見てないっすよ!」


 あわてて否定する勇也であるが、サラ姫にはしっかりとバレていたようである。そのやり取りを見ていた周囲からは感嘆の声が聞こえてきた。


≪お、おい。やっぱりあの姫様は本物だぜ!≫


≪ああ、あの口癖。間違いないな……≫


≪俺も、罵って欲しい……ふへっ!≫


≪おっぱいすゴーい!!≫


 その小声での周囲の話を聞いたサラ姫は顔を赤くしながら、立ち上がって叫んだ。


「こ、このお馬鹿ども! 聞こえておるわ! わらわだって…す、好きでこんなに大きくなったわけではないのじゃ! 去年あたりから急に……、ってモバーン! ホントにこの男か? これでは単なる変態ではないか!」


「い、いや、間違いなく彼が……」


 いきなりサラ姫に話を振られたモバーンは困った顔をして返事をする。ちょうどその時、別方向から怒鳴り声がした。


「ほーら、あんたたち! 姫様が困っているだろ。食べ終わったらさっさと部屋に戻んな!」


 おかみさんが話がしやすいように周囲の人間を部屋に戻す。その際隣に座っていたシーフの少女が勇也にこっそりと耳打ちする。


(……あとで話聞かせてね)


(はあ、まあ……)


 あいまいに返事をする勇也をよそに、去っていく四人組。他の人も勇也たちをチラチラ見ながら去っていく。そうして、勇也たちと姫とモバーンだけになる。おかみさんも外しているようだ。気を取り直したサラ姫が着席して勇也に向き合う。


「で、そなたに聞きたいことがある」


「なんでしょう?」


 勇也はまどろっこしいと感じつつも返事をする。モバーンがいる時点で話の内容などわかるのだ。サラ姫は話を続ける。


「ボス・ベア・ボアを倒し、まわりのベア・ボアもそなた一人で始末したようじゃな」


「ええ、まあ……」


 モバーンが勇也に申し訳なさそうな顔をしている。実際上官の上の人に聞かれたら答えざるを得ないだろう。勇也が逆にサラ姫に尋ねる。


「モバーンさんから聞いたんですか?」


「……いや、モバーンは高ランクの冒険者だろうと言っておったぞ。だがそれはおかしい。そんな優秀な人材ならわらわは最初から参加させるわ」


 実際にトキーノ大陸の権力者ではNo4のサラ姫である。作戦前に情報を集め、戦力を整えている。そんな彼女は当然ギルドにも情報を寄せるよう通達してあった。だから高ランクの人材がいないことはすでに承知しているのだ。


「と、モバーンに今の話をしたらあっさり話してくれたがのう」


「まあ、そうでしょうね。して、姫様自ら俺に会いに来るってのはなぜなんです?」


 勇也はサラ姫の答えをある程度予想していたが、念のため聞いてみることにした。しかし、サラ姫はそんな勇也の考えを見据えたように、またも質問してくる。


「まあ、そなたは既に予想していそうなんじゃがな。それと、もうひとつ聞きたいことがあるんじゃ」


「もうひとつ?」


 サラ姫はうなずきながら続ける。


「――サーベルタイガーを倒したのもそなたなんじゃろう?」


「なっ!」


 これには勇也のみならず、マリアとアリスも驚いたが、一番驚いていたのはそこで立っていたモバーンであった。


「あ、あれはお前が倒したのか!?」


 しかし勇也は質問に答えず、逆に質問で返した。


「何でそう思うんですか?」


「なに、簡単じゃ」


 サラ姫はすっと立ち上がり、勇也にゆっくりと説明した。


「ボス・ベア・ボアの切り口とサーベルタイガーの切り口は傷の辺りに焦げたような痕があった。それは両魔獣に共通しておる。ボス・ベア・ボアはそなたが倒したと証言もある。ならばサーベルタイガーもそなたの可能性が高い……」


「…………」


「それに、あんなにすっぱりと魔獣の首や体は切れん! しかし、そなたの光の剣はベア・ボアを真っ二つにしたそうではないか! だからそなたがやったと言ったのじゃ! 以上、証明終了である!」


 ふふん、と鼻息荒く説明をしているサラ姫に勇也は驚いていた。


(うーん、彼女はずいぶんとゲームでの印象と違うな。頭も良さそうだし、俺のチートももうバレてるみたいだ。厄介なことになりそうだな……)


 勇也が押し黙っていると、彼女は推理に自信があるらしく、すでに彼女の中では勇也が犯人?になっているようで、またも質問を重ねてきた。


「ところで、そのサーベルタイガーの死体の周りには韋駄鳥の羽と車両があってのう。車両は王都の商家アクアス家の物であったが、持ち主が見当たらぬ。ギルドに報告も上がっておらぬし、そなた何か知っておらんか?」


 アクアスというのはマリアとアリスの苗字である。そのサラ姫の質問にマリアとアリスが顔を俯かせ、それを見た勇也が答えた。


「……そのアクアス家の忘れ形見がこの双子だよ」


 えっ?と、マリアとアリスの方に顔を向けるサラ姫。マリアとアリスはサラ姫と目が合うと、静かにうなずいた。


「なんと……。して、両親は……? いや、忘れ形見と申したな……すまぬ、許せよ」


 自分の失言に素直に謝る、サラ姫の素直な姿を見た勇也は彼女の事を少し見直した。

 

 そのサラ姫は話を続ける。


「ふむ、ならば家は王都にあるのじゃろう。帰るのならば送っていくぞ」


 このサラ姫の提案に、二人は首を振った。


「……家は、もうありません。売ったはずです」


「確か、お父様はファンドラクトに行って商売をするって言ってました。王都からタミールに行く途中で襲われて、ユーヤに助けてもらったんです」


 ファンドラクトとは東の大陸にある巨大都市の名前である。ゲームでは勇也はここで工房を構え、生産の拠点にしていた。理由は流通が盛んであることと、生産に必要だが壊れやすい魔法具が売られていることから、消耗品の補給に便利だったからである。


「ふむ、ならばどうするのじゃ?」


 このサラ姫の問いかけに、二人は迷わずに答えた。


「「ユーヤに付いて行きます」」


 しかし、その答えを聞いたサラ姫は認めなかった。


「お馬鹿! 訳のわからん男に付いて行くなどもってのほかじゃ! 孤児登録をして教会に保護してもらえ。家があればまだ支援しようにもあったのじゃが、無いなら無理じゃ!」


「「そんな!」」


 勇也にしがみつく二人。だがサラ姫の言うことは至極もっともであり、本来は勝手に孤児を連れて行くことは出来ない。

 サラ姫はニヤリと笑って勇也に向き合う。


「だが、条件次第では二人を連れて行くことを許可しよう」


「……ん? 条件?」 


 サラ姫はうなずき、モバーンに促す。


「モバーン! そちが説明せよ!」


 はっ、と返事をしたモバーンが勇也に伝える。


「……前置きが長くなったが、これが本来の用事だ。ユーヤ。お前さんの入りたがってる遺跡が進入禁止なのは知ってるだろ。あれ、何でだと思う?」


「……探索が終わったから、禁止にしたんじゃないんですか?」


「馬鹿言え。内部は結構入り組んでいるんだ。そんな簡単に終わらん。だから訳のわからんものを外に出しておいたんだぞ。ホラ、お前さんの好きなごみ山のことだよ」


 そこでサラ姫が話に加わり、勇也に声を掛ける。


「モバーンに聞いたところ、そのごみを使ってそなたは光る剣を作ったのではと聞いたのじゃが……事実か?」


 いまさら隠しても仕方が無い。勇也は素直に認める。


「俺はサイテックの超古代技術をある程度理解できる人間なんでね。例の光る剣もごみ山から部品を集めて作ったんだよ」


「やはりそうなのじゃな……」 


 そんな勇也の目を見つめてサラ姫は言った。


「うむ。ではサイテックの技術に詳しく、また魔獣を倒す力を持っているそなたに依頼をしたい。ある魔獣を討伐して欲しい。この魔獣の為に探索が出来ず、封印したのじゃ……」


「魔獣? 討伐って、軍はどうした?」


 勇也は権力者であるサラ姫に疑問をぶつける。しかし、サラ姫の返事は予想外であった。


「とっくに対応させておる。しかし、二名が殉職した。狭い通路では集団で討てぬ。封印するだけで手一杯であったわ……」


「いったいどんな魔獣なんですか?」


 勇也はゲームに準じているならばコシロで殆どの魔獣を倒している。相手が分かればそれだけアドバンテージが取れるのだ。もちろん現実とは違うであろうが。

 サラ姫が勇也に魔獣の姿かたちを伝える。


「ふむ、確か牛の頭をした、筋肉質の男で、巨大な斧を持っていたとか。実はわらわは見ておらん。そんな魔獣など聞いたことも無いゆえ困っておる」


 勇也はサラ姫の話を聞いて、その魔獣の正体が分かった。確かにトキーノ大陸には出ないので、彼女が知らないのは無理も無い。何しろ裏ダンジョンで出現する魔獣なのだから。


 勇也ははっきりと断定した。


「牛頭魔人――ミノタウロスか!」


 ……と。

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