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第十四話 撤退戦

「えいやっ!」


 威勢のいい掛け声と共に、サラ姫の下から矢が放たれ、ベア・ボアに突き刺さる。しかし討ち取ることは出来ず、多数のベア・ボアは怯まずにサラ姫に向かって突進してきた。


「上がれ、炎よ! フレイム・ウォール!」


 数条の火柱がベア・ボアの前で燃え上がり、ベア・ボアの動きを止める。そのスキにサラ姫は矢を放ち、ベア・ボアを打ち倒す。


 更に、サラ姫が敵を怯ませ討ち取るスキに、韋駄鳥フェニィが絶妙な間を取る。息の合った抜群のコンビネーションであった。


 韋駄鳥フェニィは指示も無くサラ姫の望む間を取ることから分かるとおり、戦闘での機微をわきまえている。


 伊達に『フェニィがついている』と言われた訳ではなく、そのフェニィの優秀さは、配下の兵も皆知っていることでもあった。


 そのフェニィからサラ姫に声がかかる。


「くるるー!」


「ん、右から! 行けっ! フレイム・ランス!」


 指鉄砲の仕草と共に、数条の火矢が迂回してきたベア・ボア目掛けて殺到し、ベア・ボアを跳ね飛ばす。討ち取ることは出来なかったが、距離をとることには成功したようだ。


 その間にサラ姫は現在の自分の状況を確認する。


「ふむ、残りの矢が7本、魔力も大分減ってきておる……か」


「くるるる~」


「よし! フェニィ! 矢を打ち尽くしたら中心地まで撤退じゃ!」


「くぽぽー!」

 

 サラ姫はまたもフレイム・ウォールを発動し、ベア・ボアの群れを牽制する。


 フェニィが間を取ると同時に、サラ姫はエルフィムボウを引き、矢を放った。


「ブモオオー!!」


 今度はベア・ボアの眉間に当たり、討ち取ることに成功する。そのスキをみてサラ姫は火柱の間から突進しようとしたベア・ボア目掛けてまたも矢を放った。


「せいっ!」


「ブオオオオーー!!」


 二匹目のベア・ボアを討ち取ることに成功したサラ姫は、ベア・ボアの群れがおかしな動きを見せていることに気付く。


「ん? なんじゃ?」


 火柱の勢いが弱まり、ベア・ボアの群れが左右に展開したかと思った瞬間、奥にいたボス・ベア・ボアが高くジャンプし、サラ姫目掛けて飛んできたのである。


「うおっ! フェニィ! 回避じゃ!」


 辛くも回避に成功したサラ姫とフェニィ。ズシンと重厚な着地音を立てて、サラ姫のいた場所を陣取るボス・ベア・ボアに、サラ姫は冷や汗を掻く。フェニィがいなければ危なかったであろう。


「くっ! フレイム・ランス!」


 間を取りつつも魔法を放ち、ボス・ベア・ボアを牽制するサラ姫だったが、ボス・ベア・ボアの魔法障壁に阻まれてしまい、ダメージを与えられなかった。


「ちっ!」


 女の子らしからぬ舌打ちをしつつ、サラ姫は撤退を決め、フレイム・ウォールを発動する。そして矢を放ち敵を牽制しつつ、そのまま隙を見て反転し、中心地へ向かって駆けて行った。


 その道中でサラ姫は今後の作戦を考える。


(あのボス・ベア・ボアは随分厄介じゃ……。わらわの魔法も効かぬし、脂肪が厚く攻撃も通りづらい。どうしたものかのう……)


「……ォォ……」


 しかしこのとき、遠くでボス・ベア・ボアの悲鳴が上がっていたのであるが、サラ姫には聞くことは出来なかった……。





 ☆~~~~~~~~~~~~~~☆





 勇也たち一行が無事ターミナに着いたのは、夕方近くである。まだまだ日は高く、採集ぐらいなら出来そうな時間であった。


「とりあえず宿屋行って荷物置こうぜ」


「……ん」


「あー、つかれた~」


 馴染みの宿屋で記帳を済ませる勇也に、双子を見たおかみさんが聞いてくる。


「おや、お兄さん。今日は妹さん連れかい。かわいい子たちだねえ」


「えへへ~。こんにちは~」


「……こんにちは」


「まあ、そんなとこ」


 軽く会話をしつつ、慣れた足取りで部屋に向かおうとする勇也だが、ふと何かを思い出し足を止める。


「そうだ、おかみさん」


「なんだい?」


「これ料理してもらってもいいですかね?」


 そういって取り出したのは、先程〆たデカハットの『もも肉』である。受け取ったおかみさんは快く承諾してくれた。


「おや、こんなたくさんの鶏肉どうするかねぇ。これ他のお客にも分けてあげてもいいかい? この肉をシチューに入れようと思うんだけど……」


「もちろんです。俺たちだけだと食べきれないし、みんなにどうぞ」


「ありがたいね。ボアばっかりだと飽きられちゃうからさ。初心者が多い街だから宿代を安くしてるんだけど、他の肉は結構値が張って……」


 経営状況を愚痴り始めるおかみさんから逃げるように、勇也たちは部屋に向かう。


「あー。俺たちすぐまた出かけるんで。荷物だけ置かせてもらいますね」


「はいよ。いつもの部屋だね」


 そう言って勇也たちは荷物を置き、大森林へと出発する。


 その道すがら、勇也はマリアとアリスに提案してみる。


「そうだ。二人ともベア・ボア狩ってみるか?」


「えーっ。大丈夫かなあ……」


「ちょっと怖い……」


「まあ、ベア・ボアは群れるし、今回は俺がやるわ。でも一匹だったら考えてみてくれ。コスモガン撃ちゃいいんだし」 


 そういう勇也の話にマリアとアリスはちょっと興味を引かれたようだった。


「コスモガン撃ってみたーい!」


「……むむむ」


 しかし、大森林に着いてみると、勇也たち一行は周りの状況をみて只ならぬ気配を感じる。


 勇也たちは知る由も無いことだが、丁度時間的にはサラ姫が撤退したときであった。


「なんじゃこりゃ?」


「なんか燃えた跡があるよ」


「あっ、あれ!」


 マリアが指差す先にはベア・ボアの死体が転がっており、更に先方にはボス・ベア・ボアを中心に、数匹のベア・ボアが群れを成していた。


 そして、勇也たちはその群れに気付かれたようで、こちらに向かってくるようだ。


 不安げなマリアが勇也の腕にしがみつきながらつぶやく。


「……こっちくるよ」


「ユーヤ! どうしよう。逃げる?」


「いやいや、逃げてどうする。せっかくのチャンスなんだ。俺の言うとおり動いてくれ! まずはマリア!」


 勇也は不敵な笑みを浮かべると、マリアに前方に水魔法で水溜りを作るように指示を出す。マリアによってすぐに水溜りが作られた。


「次にアリス。水溜りを風魔法で群れに向かって吹き飛ばしてくれ。風で水しぶきを飛ばす感じで」


「うん、やってみる!」


 元気よく返事をしたアリスが群れに向かって水しぶきが飛ばすと、しぶきの目前でベア・ボアが躊躇して群れの動きが鈍る。


 ベア・ボアは冷気に弱い魔獣であり、水魔法に風を当てることで気化熱の作用を起こし、冷気を当てたのである。


 目論見どおりの結果に満足した勇也は二人を下がらせた。


「んじゃ、無双しまーす!」


 そういいながらコスモガンを取り出し、その引き金を引く。


 勇也は動きの鈍ったベア・ボアを瞬く間に二匹討ち取り、さらに突進しようとしたベア・ボア目掛けてまたも引き金を引く。


 何度も引き金を引き、放たれた数条の光線がベア・ボアの身体を貫通し、絶命させる。


 勇也はその場から殆ど動かずに数匹のベア・ボアを討ち取り、最後の一匹にまで数を減らしたのだ。


 サラ姫の苦戦した数よりも少ない群れとはいえ、かかった時間が段違いである。


 そして、ボス・ベア・ボアが追いついたときには、勇也がレーザーブレイドで最後の一匹を真っ二つにしているところであった。


 それを見たボス・ベア・ボアが力を溜め、ジャンプしようと屈みこむ。勇也はそのスキに二人に手招きをする。


「マリアとアリス、こっちにおいで」


 雑魚を一掃した勇也は二人を呼び寄せ、ボス・ベア・ボアを二人に倒すように指示を出す。


「ほい、アリス。落ち着いてあのでっかいのにコスモガンをぶっ放してやりなさい」


「ええーっ! だいじょぶかなあ? はずしたらどうしよう」


 そういいながらもアリスは言われたとおりにコスモガンをボス・ベア・ボアに向けて撃つ。巨体のおかげか見事に命中し、それに気を良くしたアリスがうれしそうに何発も撃っている。


 ボス・ベア・ボアはジャンプして押しつぶそうと力を溜めていたため、屈んでいたことが災いしてコスモガンの直撃を全て受けてしまい悲鳴を上げていた。


「ブンモォオオオオオオオオオーーーッ!」


「こらこら! アリス、面白がって撃っちゃダメ! ほい、次はマリアが撃ってみなさい」


「……ん」


 マリアはうなずくと、受け取ったコスモガンの引き金を狙いを定めて引く。放たれた一条の光線はボス・ベア・ボアの頭部に直撃し、意識を刈り取るのに成功した。


「おおーっ! でかしたマリア! よっしゃ! 最後は俺が止めを刺してくるぜ!」 


 勇也はレーザーブレイドの光刃を出し、ボス・ベア・ボアに向かって駆け出す。そして、


「ゼット斬!」


 アルファベットの『Z』の字を描くように切りつけた勇也は、ボス・ベア・ボアが脳漿を撒き散らし、完全に絶命したことを見届けると高らかに叫んだ。


「わははははは! サイテックの科学力はセカイイチィィイイイ!!」


「きゃああああ! ユーヤかっこいーい!」


「……ん、素敵……」


 そんな大はしゃぎする三人を、呆然と見つめる男がひとり。


「ば、ばかな……。あいつは……、ごみ山の兄ちゃん……」


 林から出てきた顔見知り、見張りのモバーンがそこにいた。

 やっとタイトルどおりの無双ができた気がします。実はモブのつもりだった見張りが伏線になるとは自分でも思いませんでした。書いてると不思議なことがあるものですね。


12/21ちょっと表現を修正しました。

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