第十三話 おばか姫奮闘
「……ん、まぶ…しい……」
勇也が目を覚ましたときにはすでに日は高く、昼近くなっていた。
「あ、ユーヤおはよう」
「…おはよう?」
二人で長い時間待っていたのだろう。アリスはベッドに寝転がり、マリアは腰掛けて足をぷらぷらさせていた。
「はい、ユーヤ。これ…」
そういってマリアがサンドイッチなどが入ったバスケットと水筒を差し出す。白身魚を挟んだサンドイッチがすごくおいしそうだ。バスケットを受け取った勇也は日の高さを見て二人に質問する。
「……これ、俺の朝メシ? 二人は?」
「あたしたちはもう食べちゃったんだ」
「海鮮スープがおいしかったのに…」
マリアは一緒に食べたかったらしく、ちょっと残念そうにしている。勇也はバスケットからサンドイッチを取り出し、早速かぶりついた。
「おー、うんまい。朝めし貰っておいてくれてサンキューな。二人も同じの食べたんか?」
「ううん、違うよ。あたしたちは焼きたてパンに白身魚のソテー、海鮮スープだったよ。熱々でおいしかったなぁ~」
「ユーヤのはアリスがお願いして用意してもらったんだよ。おねだりして…」
「えっへへ~ん」
どうやら本来は貰えないらしく、アリスのおねだりスキルが活躍してくれていたらしい。値切りスキルといい、アリスは子悪魔的なスキルを持っているようだ。屈託無く笑うアリスの顔を見ていると、さもありなんと思う勇也であった。
「そっか。アリス、気を使わせて悪かったな」
「ううん、いいよ。だってマリアがうるさいんだも~ん」
「だ、だってユーヤが食べてないと困るから……ってもう! アリスだって賛成したくせに!」
顔を真っ赤にしたマリアがアリスに反論をするも、のらりくらりとしたアリスの誘導尋問に引っかかり、珍しくマリアが大声を上げる。
しかし勇也は一心不乱に朝食を食べており、やいのやいのと騒いでる二人を気にする事も無かった。そうしてるうちに勇也は朝食を食べ終わり、この日の予定を二人に告げる。
「ふう、ごちそうさま。さて、今日は途中でアムリタ用の清涼水を汲んでからターミナに戻るぞ。そこからは、時間次第だけど大森林に行って採集する。回復アイテムあった方がいいしな」
「ベア・ボアはどうするの?」
マリアの問いかけはもっともであるが、勇也の答えは意外であった。
「ベア・ボアはそこまで強くないし、出会ったらコスモガンでやればいいよ。それより採集して、たくさんの回復アイテムを持ってた方がいいと思う」
「……確かに、回復するアイテムは持ってないね」
「それに、魔獣に会えないと防具は出来ないもんね」
そういうこと、と言って勇也は立ち上がり、出立の準備をする。二人は既に準備は終わっているらしく、立ち上がって勇也を待っている。
「それじゃあ、いこうか」
こうして勇也たち一行はホテルコンチワを出て、東にあるタミル川へと向かう。そこで清涼水を汲み、アムリタを作成するための蒸留水を作るのである。
港町タミールを出てしばらく歩いていると、東のタミル川を目指す勇也たち一行の前に魔獣の群れが現れる。一行の目の前にはレベル8の『デカハット』と言われる鳩のでっかくなったような魔獣が二匹いた。
「まあ、コイツ(パイプ)で瞬殺っすね」
そういって勇也は容赦なく相棒をフルスイングし、瞬く間に二匹を絶命させた。勇也はすばやくデカハットの『もも肉』を剥ぎ取ろうとナイフを用意し、解体を始める。
それをみたアリスが駆け寄って質問をしてきた。
「ねー、ユーヤの持ってるパイプって、すっごい強くない? なんでなの?」
続いてマリアも、
「……曲がったりもしてないよね。なんでだろ?」
と、二人がおそろいに首をかしげている。二人は昨日から勇也の持つ薄汚いパイプが、数々の魔獣を葬るところを何度も見ており、パイプの正体に疑問を持ったようだ。その二人の姿を見た勇也が丁度いいと説明を始めた。
「ふっふっふ。これが『オリハルコン』だ! じつはこれ、超古代の金属なんだぜ。熱と衝撃に強く、硬いながらも軽くて扱いやすい超古代の合金なんだ。下手な剣よりよほど強いんだぞ!」
「へぇ~。すっごーい!」
アリスが目をキラキラさせて食いついてくる。マリアは昨晩の話を思い出したらしく、勇也に問いかける。
「……これで防具を作るんだね?」
「おう。ごみ山にいけばオリハルコン素材はごろごろあるから、ベア・ボアの皮を剥ぎ取って加工したらすぐだ。楽しみにまっててくれ!」
「……うん。まってる」
マリアがこくりとうなずく。しかし、アリスは防具よりも武器に興味があるようで、
「……あたしはコスモガンみたいなかっこいい武器が欲しいなぁ~。ねぇ、ユーヤ。あたしにもコスモガン作ってよ~」
と、おねだりスキルを発動してきた。マリアが隣で呆れた表情をしているが、勇也の答えはスキルの効果か否か、意外な答えであった。
「はあ? おいおいアリス。お前たちにはコスモガン以上の武器を装備してもらうつもりだ。こんな程度で満足してもらっちゃ困る。俺はもっとすごい武器を作れるんだぜ!」
「えーっ! ほ、ホントに?」
「……これでも十分すごいと思うけど…」
勇也はちっちっちっ、と指を振り否定する。
「まだまだ。空を飛んで、遠距離から魔獣の群れを一掃してもらうつもりだ。単発のコスモガンはあくまで護身用でしかない。ま、これからだな。頼むぞ、二人とも!」
勇也はそういって二人の頭をなでる。二人はそれに応え、
「うんっ!」
と、元気に返事をするのであった。
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勇也たち一行がタミル川で清涼水を汲み、ターミナへ戻ろうとしている頃、王都ではサラ姫により、討伐隊の編成が終わっていた。
「うむ、皆揃ったようじゃな」
「はっ! 総勢80名揃いました!」
ギルドや兵士たちからサラ姫自ら募った80名からなる討伐隊は、サラ姫の前に皆、直立不動で並んでいる。満足げにうなずいたサラ姫は大声で出撃命令を出した。
「よし! これより出撃する! ターミナと交差する地点を中心に、第四部隊は東へ、第三部隊は南、第二部隊は西、わらわ率いる第一部隊は北へ向かう。警戒しつつ前進じゃ!」
「「「はっ!!! 」」」
サラ姫は自分の幼馴染と言ってもいい韋駄鳥フェニィにまたがり、颯爽と出撃した。それについていく討伐隊も姫への忠誠が篤く、一糸乱れぬ行進をしている。
住民やギルドからボアに受けた被害をサラ姫が聞いてすぐに召集し、それに応じた討伐隊の面々を見てもわかるとおり、それはサラ姫のカリスマを感じさせるものであった。
もともとサラ姫は現皇太子である三歳の弟『ファイ・エル・バン・トキーノ』が生まれるまでは跡継ぎとして育てられていた。能力は聡明であり、臣下には公平で、民衆にはやさしい、そんなお姫様だったのだ。男勝りな性格と口癖で『おばか姫』という不名誉なあだ名を付けられてはいるが、本人
は特に気にするわけでもなく、逆に言えばそれだけ親しまれている証拠であると笑い飛ばすほどであった。
そんな彼女は弟殿下の誕生とともに、弟と争いたくないと言う理由であっさりと継承権を放棄した。民衆はがっかりしたものだが、周囲では彼女の英断に賞賛する声も多く、そのことも彼女の評判を高めることの一因となっている。
そして討伐隊は大森林の中心、ターミナと王都との交差地点に着く。サラ姫は兵士80名に号令をだした。
「今日はいい天気じゃな。だが、皆油断するでないぞ。物見遊山で来ておる訳ではないのじゃ。わかったら各部隊は予定通り所定の場所を見廻れ。情報によればボアの群れは5匹ほどだと聞いておる。見つけ次第に討ち取るように! では散開!」
「「「はっ!!!」」」
「第一部隊はわらわに続け! 斥候としてそこの3名は先行せよ。あとは警戒しつつ前進じゃ!」
そう号令をかけると、サラ姫は先頭に立ってターミナ方面の道の見廻りに入る。その第一部隊の中に勇也の見知った顔があった。
「……よう、モバーン。遺跡の見張りはいいのか?」
「ああ、姫様から召集かかったんでこっちに回るって言ってきた。今日は新人が見張ってるだろ。まあ、俺も身体が鈍ってきてたし丁度いい機会だ。いままでの退屈をぶつけてやるぜ」
モバーンといわれた男性はトキーノ遺跡で見張りをしていた男である。重要な遺跡の見張りをする位だから、もともと腕利きの兵士なのだ。雑談を聞いたサラ姫が振り向く。
「お馬鹿! なにをぺちゃくちゃしゃべっておる! 油断するでない。魔獣はベア・ボアだけではないのじゃぞ!」
「「はっ! 申し訳ありません。姫様!」」
サラ姫に説教されたモバーンとその同僚は、瞬時に気を引き締める。
「うむ。分かればよいのじゃ」
そういってサラ姫が前を向いた途端に、同僚の顔が「にへらぁ~」と恍惚の表情を浮かべ、
(……姫様の罵倒……もう最高!…ふひっ!)
と小声でつぶやく。それを聞いたモバーンは顔を抑え、空を仰いで自分の不幸を恨んだ。
(最近の俺の周りは変なヤツばっかりだ…。この変態といい、ごみを一日中漁ってる変な兄ちゃんといい……)
モバーンが同僚の変態っぷりにげんなりしていても部隊は前進し、特に魔獣に襲われるでもなく、第一部隊は平和にターミナと繋がる出入口に着いた。斥候として先行していた3名が戻ってきて、魔獣の姿が見えなかったと報告をしてくる。
「……ふむ、ここにはおらぬようじゃな。折角この『エルフィムボウ』の餌食にしてやろうと思ったのじゃがのう」
このサラ姫の装備している弓は、ターミナでこの弓を見つけたギルドの人間が、サラ姫に献上したものである。そしてその弓は、ここ大森林で取れた素材で勇也によって作成されたものであった。
「何度か試射してみたが、しなやか且つ力強い。さぞかし名のある職人の作なのじゃろうな。そういった人材を多く雇えれば王国は安泰じゃ」
本人の知らないところで評価が上がっている勇也。しかも王族から評価されており、これが一般人なら畏れ多く身悶えするであろう。しかし、勇也のサラ姫への評価は実はかなり悪い。ゲーム内でアムリタを作るのに面倒なことをさせられており、そのためにいい印象を持っていないのである。
「……まあよい。引き上げじゃ。他で戦闘になっておるかも知れぬ。警戒は怠るな!」
そう隊を反転させ、元の道を戻っていく。しばらく行進していると背後から強烈な殺気を感じ、同時に韋駄鳥のフェニィがおののいた。サラ姫が振り向くと、そこにはボス・ベア・ボアを含む、ベア・ボアが10匹近くこちらに突進してくるところであった。
「なんじゃと! いつのまに後ろから! しかもあの数はなんじゃ? 情報より多いではないか!」
あわてて魔獣の群れと対峙するも、後手になった感は否めない。しかし、サラ姫はそこでも指揮力の高さを見せつけた。
「あわてるな! 二手に分かれて一匹ずつ始末せい! 動きの鈍いボスは後回しじゃ! 取りこぼしはわらわが弓で牽制する。反撃じゃ!」
「「応!!」」
サラ姫自ら率いる第一部隊はさすがに錬度も忠誠も高く、一瞬で冷静になると、ベア・ボア目掛けて各個撃破しに向かう。しかし、二匹ほど倒すも、魔獣側もボスが率いてるだけに同じような戦法をとり、部隊めがけて集団で突進してきた。
「ぬおおおおおっ!」
あまりに突然、かつ強力な突進だったため、運悪く突き飛ばされたモバーンが、林の中まで弾き飛ばされてしまう。
それを見た同僚がモバーンの名を叫ぶが、彼の返事が聞こえてこない。事実モバーンは衝撃で気を失っており、返事が出来る状態ではなく、同僚たちも乱戦により助けに行く事は出来なかった。
モバーンが林に突き飛ばされたと報告を受けたサラ姫は、弓で一匹ベア・ボアをしとめた際、戦況から無勢を感じ、やむをえず作戦を変更して号令をかける。
「くっ! ベア・ボアがさらに増えておるわ…。やむをえぬ! 魔獣を引き付けながら中心地まで戻り、他部隊と合流して反撃する! 殿はわらわがやる! 他は先に走ってもどり、兵を集結させておくのじゃ! モバーンは安否が不明な以上、まずは敵を引き離す。あとで回収じゃ!」
サラ姫の見た感じ、林の中まで魔獣の群れは注意を払っておらず、追ってもいないようで、引き離しておけば少しは安全だろうと判断する。
どのみち部隊は押され気味であり、今救助に行くのは難しく、下手をすると救助隊まで犠牲になってしまいそうであったからである。
もっともボアの類だけでなく、大森林には『腐りヘビ』などもいるので、引き離せば安全とは言いがたいが、救助が困難な以上はこれが最善の策ともいえた。
「姫様、一人で殿など無茶でございます。せめて…!」
少女一人で殿を受け持ち、撤退戦を挑もうとする姿勢にさすがに反対が入る。だがサラ姫は、
「お馬鹿! わらわにはフェニィがついておるわ! 魔法で敵を牽制し、スキをみて一気に引き離してやるつもりじゃ! わかったら行けい!」
韋駄鳥フェニィはサラ姫の愛鳥でもあり、非常に快速で、かつ有能である。フェニィが危ないと感じたらサラ姫の意向はどうあれ、すぐに撤退するであろう。そのことは兵士も知っているほどで、周りの信頼をも得ている有能韋駄鳥でもあった。
「はっ! ではご無事で!」
そう言って兵士は一斉に撤退する。大きな被害が出る前に撤退することは難しく、サラ姫の決断力の高さを示すものであった。
「よし、フェニィ! 間を取るのじゃ!」
こうして、サラ姫一人の撤退戦が始まった。
フェニィは雌の韋駄鳥でサラ姫の友達であり、幼馴染でもありとてもお利口です。一人撤退戦と書いたけどフェニィもいます。でも鳥だからやっぱり一人にしました。
12/21 描写を追加しました。




