098 ふたつのパンにおいしいひみつ
――ふたつのパンにおいしいひみつ――
肉屋のおじさんと八百屋のおじさんにも、材料の仕入れについて相談できた。
まだ何をどれだけ買うかは決まっていない。
それでも、必要なものが分かれば用意してもらえる。
そう思うと、なんだか心強かった。
ぼくは、買ったばかりの四輪屋台を見上げる。
温かいスープ。
具材を挟んだ二種類のパン。
それから、あみぐるみ。
少しずつ、お店の形が見えてきた。
でも。
肝心のパンの中身については、まだ詳しく話していない。
「……ところで、坊主」
肉屋のおじさんが、腕を組んだ。
「ん?」
「さっき、パンには新鮮な肉を挟みたいって言ってたよな?」
「うん!」
「結局、どんな肉を使うつもりなんだ?」
「あっ!」
そうだった。
お肉を買いたいとは伝えたけれど、どんな料理にするかまでは話していなかった。
「……えへへ」
「おいおい。また秘密か?」
おじさんが笑った。
「それじゃ、こっちも用意のしようがないぞ」
「……そうだね!」
「ははっ! じゃあ、教えてくれるか?」
「うん!」
ぼくは、両手で丸い形を作った。
「まずね!」
「おう!」
「やわらかいまるぱんには、みんちのおにくをつかうの!」
「……ミンチ?」
肉屋のおじさんが首を傾げた。
「おにくを、こまかくするの!」
「ああ、挽肉のことか!」
「そう!」
「なるほど。それなら用意できるぞ」
「ほんと!?」
「ああ。で、その挽肉をどうするんだ?」
「まるくして、やくの!」
ぼくは、両手を少し離して丸い形を作る。
「それをね、ぱんにはさむの!」
「……ほう」
「おやさいも、いっしょにはさんでね!」
「なるほど!」
八百屋のおじさんも、興味深そうに頷いた。
「肉と野菜を、柔らかいパンで挟むわけか」
「うん!」
「それは、食べやすそうだな」
「えへへ!」
ぼくは、嬉しくなって笑った。
そして。
「ばーがーにするの!」
「……ばーがー?」
肉屋のおじさんが、聞き慣れない言葉を繰り返した。
「うん!」
「それが、その料理の名前なのか?」
「そう!」
「へえ……」
おじさんは、少し考えた。
「聞いたことのない名前だな」
「そうなの?」
「ああ。でも、どんな料理なのかは何となく分かったぞ」
「えへへ!」
柔らかい丸パン。
その間に、焼いた挽肉。
さらに、新鮮な野菜。
全部を一緒に挟めば、一つの料理になる。
パンを持てば、そのまま食べられる。
「……なるほどなぁ」
行商人のおじさんも、感心したように頷いた。
「だから、丸パンを上下に開けるようにしてほしかったのか」
「そう!」
「確かに、挽肉を丸く焼くなら、あの形のパンが合いそうだな」
「うん!」
肉屋のおじさんは、腕を組んだ。
「挽肉なら、使う量も調整しやすいな」
「……?」
「大きく作れば肉代が高くなるし、小さくすれば抑えられる」
「あっ!」
「もちろん、小さくしすぎたら食べ応えがなくなるが……」
おじさんは笑った。
「その辺りは、実際に作ってみて決めればいい」
「うん!」
ぼくは頷いた。
おいしくて。
食べやすくて。
できれば、あまり高くならないもの。
そんなバーガーにしたい。
「それで?」
肉屋のおじさんが尋ねた。
「ん?」
「もう一種類のパンはどうするんだ?」
「あっ!」
ぼくは、細長いパンを指差した。
「こっちはね!」
「おう!」
「はんぶんにして、あつぎりのおにくをはさむの!」
「……厚切りの肉?」
「うん!」
「どんな肉だ?」
「べーこん!」
「……ベーコン?」
おじさんが少し考えた。
「塩漬けして、燻した豚肉みたいなものか?」
「そう!」
「それなら、うちでも扱ってるぞ」
「ほんと!?」
「ああ。ただ、どれくらい厚くするつもりなんだ?」
「……これくらい!」
ぼくは、指で厚さを示した。
おじさんは、その指先をじっと見た。
「……ほう」
「それをね!」
「うん?」
「かりっとやくの!」
「……焼く?」
「うん!」
「それで、パンに挟むのか?」
「そう!」
ぼくは、もう一度細長いパンを指差した。
「おやさいも、いっしょにはさんでね!」
「なるほど!」
肉屋のおじさんが頷いた。
「今度は、厚切りのベーコンと野菜を挟むわけか」
「うん!」
「それなら、丸パンの方とはずいぶん違う料理になるな」
「そう!」
柔らかい丸パンには、焼いた挽肉と野菜。
硬めの細長いパンには、カリッと焼いた厚切りベーコンと野菜。
どちらも、お肉と野菜を挟む料理。
でも。
食べたときの感じは、きっと違う。
「……面白いな」
行商人のおじさんが笑った。
「ん?」
「二種類のパンを仕入れる意味が、ようやく分かったよ」
「えへへ」
「柔らかいパンには、挽肉を丸く焼いたもの」
「うん!」
「硬めのパンには、厚切りのベーコン」
「そう!」
「パンの形だけじゃなくて、食感まで変えるつもりだったんだな」
「うん!」
おじさんは、感心したように腕を組んだ。
「同じように肉と野菜を挟む料理でも、食べ比べてみたくなるな」
「えへへ!」
「ただし、坊主」
肉屋のおじさんが口を挟んだ。
「ん?」
「厚切りのベーコンは、当然それだけ肉代がかかるぞ」
「うん!」
「挽肉の方と同じ値段で売れるとは限らないからな」
「そうだね!」
「どちらも、使う肉の量を決めてから値段を考えないとな」
「わかった!」
ぼくは頷いた。
おいしいものを作りたい。
でも、材料にお金を使いすぎたら、お店を続けられなくなってしまう。
それに、お客さんが買ってくれる値段にしないといけない。
だから。
まずは、実際に作ってみることが大切なんだ。
「ところで、坊主」
今度は、八百屋のおじさんが尋ねた。
「ん?」
「野菜は何を挟むつもりなんだ?」
「……おやさい?」
「ああ。肉と一緒に挟むんだろ?」
「うん!」
「葉物なら、パンに挟みやすいものもあるぞ」
「ほんと!?」
「ああ。それに、時期によっては玉ねぎみたいなものも用意できる」
「なるほど!」
ぼくは、少し考えた。
お肉だけでも、おいしいかもしれない。
でも。
野菜が入っていた方が、色もきれいになる。
食べたときの感じも変わる。
「ただしな」
八百屋のおじさんが続けた。
「ん?」
「野菜は、いつでも同じものが同じ値段で手に入るわけじゃないぞ」
「……そうなの?」
「ああ。季節によって採れるものも違うし、天気が悪ければ値段が上がることもある」
「そっか……」
「だから、何を使うか決めるときには、その日の仕入れ値も考えた方がいい」
「うん!」
「もちろん、料理に合うかどうかも大事だけどな」
「そうだね!」
まだ、どの野菜を使うかは決めていない。
だから、今日は候補を聞くだけ。
実際に作ってみて、おいしかったものを選ぼう。
「それなら、肉の方は俺が準備してやれるな」
肉屋のおじさんが言った。
「……ほんと?」
「ああ。挽肉はこっちで挽いてやる」
「やった!」
「ベーコンも、厚さを決めてくれれば切ってやれるぞ」
「ありがとう!」
これなら、おかあさんが大きな肉を切ったり、細かく刻んだりする手間を減らせる。
ぼくには、まだ包丁を使うこともできない。
だから、とても助かる。
「ただし、焼くのは大人に頼めよ」
「うん!」
「魔石式の道具でも、熱くなることに変わりはないからな」
「わかった!」
すると、雑貨屋のおじさんが、ぼくの買った小鍋を見た。
「……そういえば、坊主」
「ん?」
「肉を焼く道具はどうするんだ?」
「あっ!」
そうだった。
スープには、小鍋を使う。
でも、お肉を焼くには……。
ぼくは、屋台に積んである道具へ目を向けた。
そこには、行商人のおじさんからおまけでもらったプレートがある。
「……これ!」
ぼくは、プレートを指差した。
「おじさんに、もらったの!」
「……ああ!」
行商人のおじさんが笑った。
「そういえば、そんなものも渡したな!」
「うん!」
雑貨屋のおじさんは、プレートを覗き込んだ。
「なるほど。これなら肉を焼くのにも使えそうだな」
「ほんと!?」
「ああ。平らな面があるから、挽肉を丸く焼くのにも向いてる」
「やった!」
「ベーコンも、広げて焼けそうだな」
「うん!」
ぼくは、嬉しくなってプレートを見つめた。
これなら、スープを作りながら、お肉も焼けるかもしれない。
もちろん、実際に使えるかどうかは、試してみないと分からない。
でも。
新しく買わなくても済みそうだ。
「……えへへ」
すると、行商人のおじさんが、得意そうに胸を張った。
「どうだ! おまけにしておいて正解だっただろ?」
「うん!」
「ははっ! まさか、こんなに早く役に立つとはな!」
雑貨屋のおじさんも笑った。
「それじゃ、今回は追加の買い物はなさそうだな」
「そう!」
「ははっ。残念だったな!」
行商人のおじさんがからかうと、雑貨屋のおじさんは肩をすくめた。
「別に、何でも売りつけたいわけじゃないぞ!」
「本当かぁ?」
「本当だとも!」
二人のおじさんが笑い合う。
ぼくも、つられて笑った。
「えへへ!」
それにしても。
おまけでもらったプレートが、こんなところで役に立つなんて。
なんだか、得した気分だ。
「まあ、実際に使うときは気をつけろよ」
行商人のおじさんが言った。
「ん?」
「プレートだって、熱くなるんだからな」
「うん!」
「お母さんと一緒に試して、使い方を確かめるんだぞ」
「わかった!」
「それにしても……」
行商人のおじさんが、腕を組んだ。
「これで、だいぶ具体的になったな」
「そう?」
「ああ」
おじさんは、指を一本立てた。
「まず、保存食を使った温かいスープ」
「うん!」
二本目。
「柔らかい丸パンに、焼いた挽肉と野菜を挟んだ……」
「ばーがー!」
「そう、それだ!」
三本目。
「それから、硬めの細長いパンに、厚切りベーコンと野菜を挟んだもの」
「うん!」
「この三種類が、料理の中心になるわけだな」
「そう!」
ぼくは、嬉しくなって頷いた。
スープ。
バーガー。
ベーコンを挟んだパン。
どれも、早く作ってみたい。
「ただし、まだ値段は決められないな」
肉屋のおじさんが言った。
「……どうして?」
「一つ作るのに、どれだけ肉を使うか分からないからだよ」
「あっ!」
「野菜も同じだな」
八百屋のおじさんも頷いた。
「どれだけ使うかで、材料代が変わるからな」
「そうだね!」
行商人のおじさんも言った。
「それに、魔石の消耗も考えないとな」
「……あっ!」
そうだった。
料理を作るには、火が必要。
魔石式の加熱器を使うなら、魔石も少しずつ消耗する。
それも、料理を作るためのお金になる。
「だから、まずは試作だな」
「……しさく?」
「実際に作ってみることだよ」
「なるほど!」
「一つ作るのに、どれくらい材料を使うのか」
「うん!」
「どれくらい時間がかかるのか」
「うん!」
「それから、本当においしくできるのか」
「そう!」
おじさんは笑った。
「全部、実際にやってみないと分からないからな」
「うん!」
ぼくは、四輪屋台を見上げた。
まだ、何も並んでいない。
でも。
ここでスープを売って。
バーガーを売って。
ベーコンを挟んだパンも売る。
上段には、あみぐるみを並べる。
その隣では、雑貨屋さんが飲み物を売ってくれるかもしれない。
少しずつ。
本当に、少しずつ。
お店の姿が見えてきた。
「……えへへ」
早く、作ってみたいな。
どんな味になるんだろう。
おかあさんも、おいしいって言ってくれるかな。
そんなことを考えていると、行商人のおじさんが笑った。
「よし、坊主!」
「ん?」
「だったら、試験営業の前に、まずは三種類とも作ってみないとな!」
「うん!」
ぼくは、大きく頷いた。
まだ、売れるかどうかは分からない。
でも。
今度は、頭の中で考えるだけじゃない。
本当に作って。
食べてみて。
それから、お店に並べる料理を決めるんだ。
「……たのしみ!」
思わず声に出すと、周りのおじさんたちが笑った。
ぼくも、つられて笑う。
「えへへ!」
まだ何も始まっていないのに。
なんだかもう、おいしそうな匂いがしてくる気がした。




