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ちいさなぼくのまもるもの  作者: 星乃いりす


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096 ないしょにしていた、おいしい計画

――ないしょにしていた、おいしい計画――


雑貨屋のおじさんも、飲み物を売ることを考えてくれるらしい。


ぼくのお店で食べ物を買った人が、雑貨屋さんで飲み物を買う。


雑貨屋さんに来た人が、ぼくのお店にも立ち寄ってくれる。


そんなふうになったら、きっと楽しい。


「……えへへ」


ぼくは、四輪屋台を見上げた。


まだ何も並んでいない屋台。


でも、頭の中では少しずつ、売りたいものが形になってきている。


「しかし、坊主」


行商人のおじさんが声を掛けてきた。


「ん?」


「そろそろ教えてくれてもいいんじゃないか?」


「……なにを?」


「何をって、お前さんの店で売るものだよ」


「あっ!」


そういえば。


パンの種類も、切り方も、仕入れる数も相談したのに。


肝心の料理については、ずっと秘密にしていたんだ。


「えへへ」


ぼくが笑うと、行商人のおじさんは呆れたように肩をすくめた。


「……またその顔か」


「えへへ!」


「まったく。ここまで相談に乗ってるんだから、少しくらい教えてくれてもいいだろ?」


「ないしょ!」


「ははっ! やっぱりか!」


雑貨屋のおじさんも笑った。


「俺も気になってたんだよな」


「……?」


「細長いパンを半分に切って、さらに切り込みまで入れるんだろ?」


「うん!」


「丸パンも、上下に開けるようにする」


「そう!」


「そこまで細かく指定するってことは、何か作るつもりなんだろ?」


「えへへ」


「……やっぱり教えてくれないのか?」


「ないしょ!」


「はははっ!」


二人のおじさんが笑った。


でも、行商人のおじさんは諦めなかった。


「じゃあ、一つだけ聞いてもいいか?」


「……なあに?」


「パンは、そのまま売るのか?」


ぼくは首を振った。


「ううん!」


「……違うのか?」


「うん!」


「じゃあ、何かを挟んで売るのか?」


「…………」


ぼくは、少し考えた。


それを言ったら、何を作るのか分かってしまうかもしれない。


「……えへへ」


「おいおい!」


行商人のおじさんが笑った。


「そこまで秘密にするのか!」


「うん!」


雑貨屋のおじさんも、腕を組んだ。


「でもなぁ、坊主」


「ん?」


「パンを仕入れるなら、何に使うのかくらいは知っておきたいぞ」


「……どうして?」


「使い方によっては、パンの種類や切り方を変えた方がいいこともあるからな」


「あっ」


そうか。


ぼくが作りたいものを知らなかったら、おじさんも本当にそのパンでいいのか分からない。


「それに、まだ注文はしてないだろ?」


「うん!」


「だったら、今のうちに確認しておいた方がいい」


「……なるほど」


ぼくは、少し考えた。


でも。


せっかくだから、お店を開くまで秘密にしておきたい気持ちもある。


「……うーん」


「ははっ。そんなに悩むことか?」


行商人のおじさんが笑った。


「まあ、無理に聞き出すつもりはないけどな」


「うん!」


「でも、気になるんだよ」


「……?」


「坊主がどんな店を作ろうとしてるのか」


おじさんは、四輪屋台を見た。


「鍋も買った。魔石式加熱器も買った。パンも二種類注文するつもりだ」


「うん!」


「それなのに、何を売るかだけ分からない」


「えへへ」


「これじゃ、俺たちも気になって仕方ないだろ?」


「……そうなの?」


「そうだよ!」


雑貨屋のおじさんまで頷いた。


「俺なんか、パンをどう切るかまで聞いてるんだぞ」


「うん!」


「なのに、完成した料理が想像できないんだからな」


「えへへ」


「……で、何を作るんだ?」


「…………」


ぼくは、二人のおじさんを見た。


行商人のおじさん。


雑貨屋のおじさん。


二人とも、なんだか楽しそうにこちらを見ている。


「……ほんとに、しりたい?」


「おう!」


「もちろんだ!」


二人が、ほとんど同時に答えた。


「……うーん」


ぼくは、もう一度考えた。


……まあ、いいかな。


どうせ、試験営業を始めたら分かることだし。


それに、おじさんたちには、たくさんお世話になっている。


「……じゃあね!」


「おっ!」


「教えてくれるのか?」


「うん!」


ぼくは、買ったばかりの小鍋を指差した。


それから、棚に並んでいるパンを見る。


「ぼくがうるのはね!」


「おう!」


「すーぷと、ぱんにぐざいをはさんだたべものだよ!」


「…………」


雑貨屋のおじさんが、ぴたりと動きを止めた。


「……スープと?」


「うん!」


「具を挟んだパン?」


「そう!」


おじさんは、棚のパンを見た。


それから、ぼくの小鍋を見る。


もう一度、パンを見る。


「…………ああ!」


突然、大きな声を上げた。


「そういうことか!」


「……?」


「だから、パンをそのまま売るつもりじゃなかったんだな!」


「うん!」


「細長いパンを半分にして、さらに切り込みを入れるって言ったのも……」


「うん!」


「丸パンを上下に開けるようにしてほしいって言ったのも……」


「そう!」


「全部、中に具を挟むためだったのか!」


「うん!」


ぼくが頷くと、おじさんは額に手を当てて笑った。


「ははっ! なるほどなぁ!」


行商人のおじさんも、感心したように頷いた。


「ようやく分かったぞ。坊主が二種類のパンを欲しがった理由が」


「えへへ」


「俺はてっきり、パンをそのまま売るのかと思ってたが……」


おじさんは、ぼくの屋台を見た。


「仕入れたパンに手を加えて、一つの料理として売るつもりだったんだな」


「そう!」


細長いパンには、細長いパンに合う具材。


柔らかい丸パンには、丸パンに合う具材。


形も食感も違うから、同じものを挟まなくてもいい。


それに。


パンだけじゃない。


「すーぷも、うるの!」


「そうだったな」


行商人のおじさんが頷いた。


「スープなら、前にも試したことがあるしな」


「うん!」


以前、乾燥した材料を使ってスープを作ったことがあった。


乾燥豆。


乾燥肉。


それに、ほかの材料も組み合わせれば、いろいろな味を作れるかもしれない。


保存しやすい材料を使えば、仕入れたものを無駄にしにくい。


ただし、実際に作ったスープは長く置いておけない。


だから、作る量も考えないといけない。


「なるほどな」


雑貨屋のおじさんが、腕を組んだ。


「温かいスープと、具を挟んだパンか」


「うん!」


「それなら、さっきの飲み物の話もよく分かる」


「……?」


おじさんは、自分のお店を振り返った。


「坊主の屋台で食事を買って、その隣で飲み物を買う」


「そう!」


「しかも、坊主は飲み物の在庫を持たなくていい」


「うん!」


「うちは、坊主のお客さんに飲み物を買ってもらえるかもしれない」


おじさんは、少し考えてから笑った。


「……坊主がここで店を開くこと、俺にとってもずいぶん意味がありそうだな」


「えへへ」


「まさか、パンの仕入れ相談からこんな話になるとは思わなかったぞ」


行商人のおじさんも笑った。


「しかし、これで何を売るかは分かったな」


「うん!」


「となると、次は中身だ」


「……なかみ?」


「パンに挟む具材だよ」


「あっ!」


そうだった。


パンは決まった。


でも、中に何を挟むかは、まだ決めていない。


「何を挟むつもりなんだ?」


「……うーん」


ぼくは、少し考えた。


お肉。


野菜。


卵。


ほかにも、いろいろある。


でも。


まだ、どれを使うかは決めていない。


「まだ、かんがえてる!」


「そうか」


行商人のおじさんは頷いた。


「だったら、仕入れられる材料から考えるといい」


「うん!」


「保存食なら、俺のところにもある。乾燥肉や乾燥豆なんかだな」


「うん!」


「野菜なら、この町で手に入るものもあるだろう」


雑貨屋のおじさんも口を挟んだ。


「ただし、何を使うかで値段も変わるぞ」


「……ねだん?」


「ああ。高い材料をたくさん使えば、それだけ料理の原価も上がる」


「そっか……」


「それに、傷みやすいものもあるからな」


「うん!」


「安くてもすぐ傷む材料なら、売れ残ったときに困るだろ?」


「なるほど!」


ぼくは、頭の中で考えた。


おいしいものを作りたい。


でも、高すぎたら買ってもらえないかもしれない。


安くても、すぐ傷んでしまったら困る。


それに、料理を作る時間も必要。


「あと、もう一つ」


行商人のおじさんが言った。


「ん?」


「パンに挟む具材は、いつ作るつもりだ?」


「……いつ?」


「注文を受けてから、全部作るのか?」


「うーん……」


「それとも、具材だけ先に用意しておいて、注文が入ったらパンに挟むのか?」


「あっ!」


そうか。


注文を受けてから全部作ったら、できたてを渡せる。


でも、お客さんを待たせてしまうかもしれない。


先に具材を用意しておけば、早く渡せる。


だけど、作り置きできるものばかりじゃない。


温かいまま置いておけるかどうかも、考えないといけない。


「……むずかしいね」


「ははっ。そうだな」


行商人のおじさんが笑った。


「商売ってのは、売るものを決めれば終わりじゃないからな」


「うん!」


「どうやって作るか。どれくらい用意するか。どうやってお客さんに渡すか」


「うん!」


「そういうことも、考えないといけないんだ」


「なるほど!」


おじさんは、ぼくの屋台を見た。


「それに、試験営業なんだから、最初から種類を増やしすぎるなよ」


「うん!」


「注文を聞いて、お金を受け取って、商品を渡して……それだけでも忙しいぞ」


「そうだね!」


「スープをよそったり、パンを仕上げたりするのは、お母さんにも手伝ってもらうんだろ?」


「うん!」


「だったら、お母さんが無理なく作れる数にしておかないとな」


「わかった!」


ぼくは頷いた。


おかあさんには、まだ何も相談していない。


だから、料理の種類も作り方も、これから一緒に考えないといけない。


ぼく一人では、包丁も熱い鍋も扱えない。


おかあさんが手伝ってくれなかったら、そもそもお店を開けないんだ。


「それと、パンのことも忘れるなよ」


雑貨屋のおじさんが言った。


「ん?」


「柔らかい丸パンは、傷む前に売らないとな」


「うん!」


「細長い方も、切り込みを入れたら乾きやすくなる」


「そうだった!」


「だから、最初は少量で試す。それでいいな?」


「うん!」


「売れた数を見て、次に注文する数を考えればいい」


「わかった!」


細長いパンは三本。


半分にして六つ。


丸パンは三個。


全部で九つ分。


最初は、この数から試してみる。


もちろん、まだ注文はしていない。


おかあさんと相談してから、試験営業の日を決めて、前の日までにお願いするつもりだ。


「……えへへ」


少しずつ、やることが見えてきた。


すると、行商人のおじさんが楽しそうに笑った。


「しかし、これで坊主の店が何屋なのか、ようやく分かってきたな」


「そう?」


「ああ」


おじさんは、屋台を指差した。


「温かいスープを売る」


「うん!」


「具材を挟んだ、二種類のパンも売る」


「うん!」


「そのすぐ隣では、雑貨屋が飲み物を売るかもしれない」


「そう!」


「そして……」


おじさんの視線が、屋台の上段へ移った。


「ここには、あみぐるみも並べるんだろ?」


「うん!」


ぼくは、嬉しくなって頷いた。


料理だけじゃない。


あみぐるみも、ぼくが作った大切な商品だ。


かわいいものを作って、誰かに気に入ってもらえたら嬉しい。


「食べ物とあみぐるみか……」


行商人のおじさんは、腕を組んだ。


「なかなか珍しい組み合わせだな」


「えへへ」


「でも、悪くないかもしれん」


「……?」


「食べ物を買いに来た客が、あみぐるみを見つけることもあるだろ?」


「うん!」


「逆に、あみぐるみを見に来た客が、お腹を空かせていたら?」


「……ごはん、かってくれるかも!」


「そういうことだ」


おじさんは頷いた。


「それに、客がいない時間に新しいあみぐるみを作っていれば、通りがかった人が興味を持つかもしれないな」


「あっ!」


そうか。


完成したあみぐるみを並べるだけじゃなくて。


作っているところを見てもらうこともできる。


毛糸から少しずつ形ができていくところ。


顔がついて、かわいくなるところ。


そんな様子を見て、立ち止まってくれる人もいるかもしれない。


「……えへへ」


ぼくは、屋台の上段を見た。


ここにあみぐるみを並べて。


下には、料理を作るための道具を置いて。


お客さんが来たら、注文を聞く。


誰もいないときには、あみぐるみを作る。


……うん。


なんだか、楽しそう。


「……坊主」


行商人のおじさんが、ぼくを見た。


「ん?」


「もしかして、お前さん……」


おじさんは、少し考えるように言葉を区切った。


「食べ物とあみぐるみも、別々の商品として考えてないのか?」


「……?」


「つまり、ただ二つの商売を同じ場所でするだけじゃなくて……」


そこまで言って、おじさんは口を閉じた。


そして、にやりと笑った。


「いや。ここから先は、坊主に聞いた方が早いか」


ぼくは、首を傾げた。


おじさんは、屋台を指差した。


「食べ物とあみぐるみ。どうして、同じ屋台で売ろうと思ったんだ?」


「…………」


ぼくは、少し考えた。


おじさんは急かさず、ぼくの答えを待っている。


雑貨屋のおじさんも、興味深そうにこちらを見ていた。

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ここまで読んでいただき、ありがとうございます☺️ 少しでも「続きが気になる」「この子をもう少し見守ってみたい」と思っていただけましたら、ブックマークや評価で応援していただけると、とても嬉しいです。 皆さまからの応援を励みに、これからも小さな主人公の物語を大切に書いていきます。 次のお話も楽しんでいただけますように。
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