↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ちいさなぼくのまもるもの  作者: 星乃いりす


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
95/100

095 おいしい料理の、その隣に

――おいしい料理の、その隣に――


パンの種類も、仕入れる数も決まった。


細長い硬めのパンが三本。


半分に切ってもらえば六つになって、それぞれに具を挟める切り込みも入れてもらえる。


柔らかい丸パンは三個。


こちらも、上下に開いて具を挟めるようにしてもらう。


包み紙は全部で九枚。


値段は合わせて銅貨三十六枚。


まだ注文はしていないけれど、お店を始めるための準備が、また少し進んだ。


「……えへへ」


ぼくは、買ったばかりの四輪屋台を見上げた。


ここに料理を並べたら、どんな感じになるんだろう。


お客さんが来てくれるかな。


買ってくれるかな。


そんなことを考えながら、ふと雑貨屋さんの棚に目を向けた。


いろいろなものが並んでいる。


布や紐。


料理に使う道具。


保存容器。


それに、パン。


日々の暮らしに必要なものが、たくさん揃っている。


「……ん?」


ぼくは、棚をもう一度見回した。


あれ?


何かが足りないような……。


「あっ!」


そういえば。


「ねえ、ざっかやのおじさん!」


「ん? 今度は何だ?」


「ここって、のみもの、うってないの?」


「……飲み物?」


おじさんは、少し不思議そうな顔をした。


「ああ。今は扱ってないな」


「そうなの?」


「水は各家庭で用意することが多いし、わざわざうちで買う人も少ないと思ってな」


「そっか……」


ぼくは、もう一度棚を見た。


確かに、家にいれば水を飲める。


でも。


外を歩いているときは、どうだろう。


買い物をして。


お腹が空いて、何かを食べて。


そのあと、喉が渇いたら?


「……ねえ、おじさん!」


「うん?」


「ここで、のみものもうったら、うれるとおもうよ!」


「……うちで?」


「うん!」


おじさんは、腕を組んだ。


「飲み物かぁ……」


少し考えている。


「でも、どうしてそう思うんだ?」


「だってね!」


ぼくは、行商人のおじさんを見た。


「まえに、のみもの、うれたでしょ?」


「ああ。あのときの飲み物か」


行商人のおじさんが頷いた。


以前、おじさんのお店で飲み物を試しに売ったことがあった。


お客さんが買ってくれて、手応えもあった。


「うん!」


ぼくは、自分の屋台を指差した。


「ここで、ごはんをうったらね!」


「うん?」


「たべたあと、のみものほしくなるでしょ?」


「……ああ!」


雑貨屋のおじさんが、何かに気づいたように声を上げた。


「なるほど。坊主の屋台で食べ物を買った客が、飲み物も欲しがるんじゃないかってことか」


「そう!」


「それを、うちで売ればいいと?」


「うん!」


おじさんは、ぼくの屋台と自分のお店を交互に見た。


「……ふうん」


少し考えてから、口を開いた。


「でも、それなら坊主が自分の屋台で飲み物も売ればいいんじゃないか?」


「……?」


ぼくは、自分の屋台を見た。


四輪の、二段になった屋台。


確かに、そこに飲み物を置くこともできるかもしれない。


でも。


「いや、待て」


行商人のおじさんが、何かに気づいたように声を上げた。


「坊主の屋台は、そこまで大きくないぞ」


「……ああ」


雑貨屋のおじさんも、屋台に目を向けた。


「確かにな」


「鍋に魔石式加熱器、保存容器。それにパンも置くんだろ?」


「うん!」


「ほかにも、あみぐるみや保存食を扱うつもりなんだよな?」


「うん!」


行商人のおじさんは、屋台の大きさを確かめるように眺めた。


「そこへ飲み物まで積んだら、どうなる?」


ぼくも考えた。


飲み物を売るなら、水が必要になる。


大きな容器も必要。


お客さんに渡すためのコップもいる。


それを全部、屋台に載せたら……。


「……いっぱいになる」


「そうだな」


おじさんは頷いた。


「それに、水は重いぞ」


「うん……」


「毎朝運ぶのも大変だし、商品を増やしすぎたら接客も忙しくなる」


確かに。


料理を作ってもらって。


お客さんから注文を聞いて。


お金を受け取って。


商品を渡して。


それだけでも、きっと大変。


そこへ飲み物まで増えたら、おかあさんにも負担がかかってしまう。


「でも、雑貨屋なら話は違う」


行商人のおじさんは、雑貨屋の店内を見回した。


「ここは動かない店だ」


「……?」


「大きな容器を置いても、毎朝運ぶ必要がない」


「ああ、そうか」


雑貨屋のおじさんが頷いた。


「水やコップを置く場所も、工夫すれば用意できるな」


「うん!」


「それに……」


おじさんは、ぼくの屋台を見た。


「坊主の屋台で料理を買った客が、飲み物も欲しくなるかもしれない」


「そう!」


「そのとき、すぐ近くのうちで飲み物を売っていれば……」


おじさんは、少し目を丸くした。


「……うちにも客が来るわけか」


「うん!」


ぼくは嬉しくなって頷いた。


そう。


ぼくのお店で食べ物を買った人が、喉が渇いたら雑貨屋さんへ行く。


雑貨屋さんで買い物をした人が、お腹が空いたらぼくのお店へ来てくれるかもしれない。


そうなったら。


「どっちも、うれるね!」


「……ははっ!」


雑貨屋のおじさんが笑った。


「なるほどな!」


行商人のおじさんも、楽しそうに頷いた。


「坊主、自分の店だけで全部売ろうとは考えてないんだな」


「うん!」


「ほう。どうしてだ?」


ぼくは、少し考えた。


だって。


ぼくのお店だけが賑やかでも、周りのお店が困っていたら、なんだか寂しい。


それに、雑貨屋のおじさんには、今日もたくさんお世話になった。


屋台を安くしてもらって。


魔石ももらって。


パンの仕入れまで相談に乗ってもらった。


「……だってね」


「うん?」


「おじさんのおみせも、いっぱいおきゃくさんがきたら、うれしいでしょ?」


雑貨屋のおじさんは、一瞬きょとんとした。


それから、ふっと笑った。


「ああ。そりゃ嬉しいな」


「ぼくも、うれしい!」


「……そうか」


おじさんは、少し優しい顔になった。


「自分の店だけじゃなくて、うちのことまで考えてくれたのか」


「うん!」


「ありがとな、坊主」


「えへへ」


行商人のおじさんが、腕を組んだ。


「それに、こういう関係は商売を続ける上でも悪くないぞ」


「……?」


「近くの店同士で、客を取り合うばかりじゃなくて、互いに客を呼べるようになるんだ」


「うん!」


「そうなれば、雑貨屋のおじさんにとっても、坊主の屋台が近くにあることが利益になる」


「……なるほど」


雑貨屋のおじさんが、真面目な顔で頷いた。


「確かに、うちの前で商売するなら、客を奪い合うこともあると思ってたが……」


おじさんは、ぼくの屋台を見た。


「逆に、客を連れてきてくれる可能性もあるわけか」


「そう!」


「ははっ。面白いことを考えるなぁ」


ぼくは、にっこり笑った。


「えへへ」


雑貨屋のおじさんは、少し考えてから口を開いた。


「よし。だったら、飲み物を置くことも考えてみるか」


「ほんと!?」


「ああ。ただし、最初から大量には用意しないぞ」


「うん!」


「まずは少量で試してみよう」


「うん!」


「水を売るだけでもいいし、前に売れたような果実を使った飲み物も考えられるな」


「そう!」


おじさんは、店の奥にある棚を眺めた。


「ただ、果実を使った飲み物は長持ちしないからな」


「……そうなの?」


「ああ。作ってから時間が経てば、味も落ちるし、傷むこともある」


「そっか……」


「売れるか分からないうちから大量に作ったら、売れ残って赤字になるかもしれん」


確かに。


パンと同じだ。


売れると思ってたくさん用意しても、本当に売れるかどうかは分からない。


「だから、最初は少しだけだ」


「うん!」


「何杯売れたか。何杯残ったか。それを確かめてから増やすか決めよう」


「わかった!」


行商人のおじさんも頷いた。


「それがいいな」


「ん?」


「俺の店で飲み物が売れた実績はある。でも、雑貨屋でも同じように売れるとは限らん」


「……どうして?」


「店が変われば、買う客も変わるかもしれないだろ?」


「あっ」


そうか。


同じ場所でも、お店が違えば、売れ方も変わるかもしれない。


「だから、もう一度試してみる必要があるんだ」


「なるほど!」


雑貨屋のおじさんは、頷いた。


「だったら、坊主が試験営業をするときにも、少しだけ飲み物を用意してみるか」


「……ほんと?」


「ああ。お前さんの屋台に来た客が、本当にうちでも飲み物を買うか確かめてみよう」


「やった!」


「ただし、まだ何をどれだけ用意するかは決めてないぞ」


「うん!」


「お前さんが試験営業をする日が決まったら、教えてくれ」


「わかった!」


これなら、ぼくのお店を開いたときに、雑貨屋さんでも飲み物を買えるかもしれない。


料理を買ったお客さんが、飲み物を欲しくなっても困らない。


「……えへへ」


嬉しくなって笑っていると、雑貨屋のおじさんが、にやりとした。


「しかし、坊主」


「ん?」


「これが本当に売れたら、ちょっと困るな」


「……こまる?」


「いや、俺の方がな」


おじさんは笑った。


「こんなにいい商売の助言を、ただで聞いてしまったことになるからな」


「……?」


ぼくは、おじさんを見上げた。


そして。


にっこり笑った。


「…………」


「……おい」


おじさんの笑顔が、少し引きつった。


「その顔は何だ?」


「えへへ」


「……何か考えてるだろ?」


ぼくは、もう一度にっこり笑った。


「……その顔、やめろ!」


行商人のおじさんが、横で吹き出した。


「はははっ! 気をつけろよ!」


「何がだ?」


「俺なんか、もう次からは有料って約束させられてるぞ」


「……は?」


雑貨屋のおじさんが、行商人のおじさんを見た。


「お前、三歳児に商売の助言料を払う約束をしたのか?」


「……まあな」


「はははっ! お前、先を越されてるじゃないか!」


「うるさい!」


二人のおじさんが笑い合う。


ぼくも、つられて笑った。


「えへへ!」


でも。


本当に飲み物が売れるようになったら、雑貨屋のおじさんも喜んでくれるかな。


そうなったら、ぼくも嬉しい。


ぼくのお店だけじゃなくて。


雑貨屋さんにも、お客さんが来る。


行商人のおじさんがいる間は、珍しい品物や保存食を買うこともできる。


それぞれのお店に、違うものが並んでいる。


だから、お客さんもいろいろ見て回れる。


「……いいね!」


思わず声に出すと、雑貨屋のおじさんが笑った。


「何がだ?」


「みんなのおみせに、おきゃくさんがきたら、たのしいね!」


「……ああ」


おじさんは、優しく頷いた。


「そうだな」


行商人のおじさんも笑った。


「坊主の屋台ができたら、この辺りも少し賑やかになるかもしれないな」


「うん!」


ぼくは、自分の四輪屋台を見上げた。


まだ、お店は開いていない。


料理も作っていない。


パンだって、まだ注文していない。


でも。


ここにお客さんが来てくれて。


雑貨屋さんにも立ち寄ってくれて。


みんなが少しずつ賑やかになったら。


きっと、楽しいと思う。


「……えへへ」


そして、いつか。


この場所に、たくさんの笑顔が集まったらいいな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます☺️ 少しでも「続きが気になる」「この子をもう少し見守ってみたい」と思っていただけましたら、ブックマークや評価で応援していただけると、とても嬉しいです。 皆さまからの応援を励みに、これからも小さな主人公の物語を大切に書いていきます。 次のお話も楽しんでいただけますように。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。